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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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交渉役の宿命

 交渉役の宿命


 多国家会議の招集状を送るだけで、三日かかった。


 ザガンが魔族側への連絡を、フェリクスが人間の王国への書簡を、エルヴィンが精霊の森への使者を、それぞれ手配した。セラフィオンも何やら独自の伝達手段で神使側に連絡を取ったらしい。


 ヴァルゼンはその間——招集状の署名を書き続けていた。


「まだあるの?」


「あと三十二通です」


「三十二……」


 ペンを持つ手がりそうだった。「魔王ヴァルゼン」の署名を百回以上書いた。人生で一番たくさん自分の名前を書いた日だ。


 一通書くたびに、「僕が出していいのかこれ」という疑問が脳内を駆け巡ったが、もう考える余裕がなかった。


 招集状を受け取った各国の反応は、概ね三種類に分かれた。


 第一種。「魔王殿の呼びかけならば参じる」——即答で参加を表明した勢力。主に東部の被災国と魔族の穏健派。虚淵の被害が深刻な地域ほど、反応が早かった。


 第二種。「出席はするが、条件がある」——利害を計算した上で参加を検討する勢力。大国に多い。


 第三種。「なぜ魔王ごときに招集される必要があるのか」——拒否。主に西部の、まだ虚淵の直接被害を受けていない地域の諸侯。


「第三種は無視して構いません」


 ザガンが冷静に分析した。


「虚淵の拡大が西部に到達すれば、彼らも態度を変えます。時間が味方です」


「時間が味方っていうか、虚淵が味方みたいな言い方はちょっと……」


「事実を述べただけです」


 会議の場所はエルスタードが選ばれた。虚淵の最前線に近い都市であり、参加者に危機感を共有させる意図があった。ザガンの発案だ。


「嫌がらせみたいな立地だな」


「嫌がらせではありません。動機づけです」


 参加者が集まり始めたのは、招集状を送ってから一週間後だった。


 人間側からは五つの王国が使者を送った。最大勢力であるレステール王国は国王自ら来るという。南部のアレイス港を管轄するテレーヌ公国は宰相が。東部の被災国三つは軍の指揮官を。


 魔族側からは古都の長老と懐疑派の代表が。これはヴァルゼンが古都で信頼を勝ち取った成果だ。


 精霊の森からは、長老代理として若い精霊が一名。


 セラフィオンは「我は観測者として同席する」と、いつもの超然とした態度で名乗り出た。


「いや、あなたが同席すると参加者が全員ビビるんですけど」


「汝の会議を妨げる意図はない。だが——この規模の多種族結集は、観測に値する」


(観測に値するとか言われても困るんだよな)


 参加者が集まる前夜。


 ヴァルゼンは宿の部屋で、会議の段取りを考えていた。


 考えていた、というのは語弊がある。紙の前で頭を抱えていた。


「何から話せばいいんだ。虚淵の説明? 連合の必要性? 各国の役割分担? どの順番で話せば揉めないんだ? そもそも僕が議長で大丈夫なのか? 大丈夫なわけないだろう」


 独り言が止まらなかった。


 扉をノックする音がした。


「ヴァルゼン様。起きていらっしゃいますか」


 ミラベルだった。温かい飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとう」


「眠れないのですか」


「うん。……怖くて」


「怖い?」


「明日、たくさんの王様や偉い人たちが来るでしょう。僕が何か間違ったことを言ったら——みんなバラバラになるかもしれない。そうなったら虚淵を止められなくなる。世界が——」


「ヴァルゼン様」


 ミラベルが穏やかに遮った。


「怖いのは、皆さんも同じだと思います」


「え?」


「王様も、将軍も、長老も——きっと怖いのです。自分の国が消えるかもしれない。自分の民を守れないかもしれない。明日この場に来る人たちは、全員が怖くて、だから集まるのだと思います」


 ヴァルゼンは言葉を失った。


「ヴァルゼン様は怖がりだから——皆さんの怖さがわかります。それが、きっと力になりますよ」


 ミラベルは微笑んで、部屋を出た。


 一人になったヴァルゼンは、温かい飲み物を啜った。


(怖さがわかるのが力って——そんなことあるのかな)


 わからなかった。


 だが、ミラベルの言葉は妙に心に残った。


 翌朝。


 エルスタードの大聖堂に、各国の使者が集結した。


 重厚な鎧の将軍。豪奢な衣装の宰相。角を持つ魔族の長老。光をまとう精霊。超然とした神使。


 その中央に——小柄で、角が前髪に隠れるほど小さくて、目が泳いでいる魔王が立たされた。


 エルヴィンが背中をぽんと叩いた。


「よし、ヴァルゼンに任せれば安心だ!」


(安心じゃないよ!?)


 だが——足は前に出た。


 震えながら。


 それでも。


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