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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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封印の扉

 封印の扉


 古都ゼル・ヴァーラスの最奥に、それはあった。


 周囲の建物とは明らかに異質な——白い石材で組まれた神殿のような建造物。壁面には魔族の古代文字が刻まれ、その一つ一つが淡く光を帯びている。屋根はなく、代わりに天を突く四本の柱が空を支えるように伸びていた。


(でかい)


 ヴァルゼンは首が痛くなるほど見上げた。この数日で見た古都の建築物はどれも圧巻だったが、この建物だけは格が違った。空気すら重い。


「先代魔王が遺した記録保管庫です」


 ザガンが静かに告げた。


「先代の時代から封印されたまま、誰も中に入っていません。封印を開けられるのは——魔王の血を引く者だけです」


(……それ、僕のことですよね。嫌な予感しかしないんですけど)


 ヴァルゼンの足が無意識に半歩後退した。


 セラフィオンが後ろから肩に手を置いた。逃げられない、ということだ。


「ヴァルゼン殿」


 フェリクスがモノクルの奥で目を光らせていた。分析家の目だ。あの目をされると、ヴァルゼンは自分の一挙手一投足に意味を読み取られるような心地になる。


「先代の記録には、魔王の本質に関わる情報が眠っている可能性があります。これは極めて重要な——」


「わ、わかってます。わかってますから、そんなに期待の目で見ないでください……」


 エルヴィンが腕を組んで頷いた。


「行こう、ヴァルゼン。お前の手で開けるんだ」


(なんでそんなに堂々と言えるんだ、この人は)


 グリゼルダが無言で先導し、神殿の入口まで歩いた。入口には巨大な石扉があり、その表面に複雑な紋様が刻まれていた。紋様の中心には手の形をした窪みがある。


「あそこに手を当てれば、封印が解けるとのことです」


 ザガンの声は淡々としていたが、その目にはわずかな緊張が滲んでいた。先代魔王に仕えた男だ。この場所には、彼にとっても特別な意味があるのだろう。


 ヴァルゼンは深呼吸をした。震える足を叱りつけて、石扉の前に立った。


(僕の魔力で開くわけないだろう。だって僕の魔力なんて、ゴブリン以下なんだから)


 手を伸ばした。指先が窪みに触れた。


 冷たい石の感触が掌に広がった。


 何も起こらない。


(ほら、やっぱり——)


 その瞬間、手の下で紋様が脈打った。


 光が走った。窪みから放射状に、古代文字の一つ一つに火が灯るように——いや、それは光ではなかった。魔力だ。石扉全体が魔力の紋様に包まれ、低い振動音が足元から響き上がってくる。


(え、ちょ、何これ何これ何これ!?)


 ヴァルゼンは手を引こうとした。しかし、掌が石に吸い付いたように離れない。


 振動がひときわ大きくなった。


 そして——重い音を立てて、石扉が左右に開いた。


「……開いた」


 ミラベルが小さく息を呑んだ。


「やはり」


 フェリクスがモノクルを押し上げた。その目が確信に満ちている。


「正統な魔王の血統だからこそ、封印が応じた。ヴァルゼン殿の魔力が先代の封印に認められたのです」


(いや、違うと思う。たぶん偶然だ。僕の魔力が弱すぎて、封印が「脅威なし」と判定しただけじゃないのか)


 しかし、その内心の弁解は誰にも聞こえない。


 エルヴィンが感極まったように拳を握った。


「見たか。これがヴァルゼンだ。先代すら認めた、真の魔王の証だ」


「い、いや、証とかそういうのは……」


 グリゼルダが扉の向こうを見据えていた。その表情は厳しい。武人として、未知の空間に対する警戒を崩さない。


「先に入ります。安全を確認してから——」


「大丈夫です、グリゼルダ殿」


 ザガンが静かに制した。


「ここは先代が記録を遺すために造った場所だ。罠はありません」


 一行は扉をくぐった。


 内部は想像以上に広かった。高い天井、壁一面を埋め尽くす棚。棚には水晶のような半透明の板が無数に並べられており、それぞれが微かに光っている。記録媒体だ。魔族が古代から使ってきた、魔力で情報を刻む水晶板。


 そして——部屋の中央に、一枚の大きな水晶板が台座の上に安置されていた。


 他の水晶板とは明らかに異なる。光が強い。そして、その表面に刻まれた最初の一文が——ヴァルゼンの目に飛び込んできた。


 古代魔族語だった。しかし、なぜかヴァルゼンには読めた。


「魔王とは——世界の管理者である」


 声に出していた。無意識に。


 全員が振り向いた。


 ヴァルゼンは自分の口から出た言葉の意味を理解できず、ただ呆然と水晶板を見つめていた。


(管理者……? 魔王が? 戦うのが仕事じゃなかったのか?)


 ザガンだけが、目を伏せていた。まるで——その言葉を、ずっと前から知っていたかのように。


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