表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
208/303

食卓の外交

 食卓の外交


 古都での二日目の昼食は、魔族の食堂でとることになった。


 ザガンが案内してくれたのは、古都の中層にある大食堂だった。天井から岩盤が迫り、壁面には魔族の古い彫刻が施されている。長いテーブルが何列も並び、そこに魔族たちが座って食事をしている——のだが、ヴァルゼン一行が入った瞬間、食堂全体が凍りついた。


 箸を持つ手が止まり、スープを飲む口が止まり、会話が止まった。


「ま、魔王様が食堂に……!?」


 給仕の魔族が皿を取り落としそうになった。


(お邪魔してすみません。本当にすみません。どこか隅っこでいいんですけど)


「こちらへどうぞ、陛下」


 ザガンが先導し、食堂の中央のテーブルに案内された。中央。一番目立つ席。ヴァルゼンの望みとは正反対の位置だった。


 料理が運ばれてきた。


 見慣れないものばかりだった。赤黒い肉の煮込み。紫色のスープ。虹色に光るゼリー状の何か。菌糸のようなものが絡まった炒め物。


(……何これ。全部見たことない。食べて大丈夫なのか、これ)


「魔族の伝統料理です」


 ザガンが説明した。


「火山岩の近くで育った獣の肉を低温で煮込んだもの、地底の苔から抽出したスープ、魔力を含んだ果実のゼリー、そして菌糸と岩塩の炒め物です」


(全部の説明が怖い。火山岩の獣、地底の苔、魔力の果実、菌糸。ファンタジーが過ぎる)


 エルヴィンは何の躊躇もなくスープを口に運んだ。


「おお、これは! 独特だが旨いぞ!」


 フェリクスが肉の煮込みを一口食べて、感心した顔をした。


「なるほど。低温調理で肉の繊維が崩れるまで煮込んでいる。人間の料理にはない手法ですね」


 グリゼルダは黙々と食べていた。量は人一倍多いが、武人にとって食事は栄養補給だ。味については何も言わない。


 ミラベルは恐る恐る虹色のゼリーを口に入れ——目を丸くした。


「甘い……! すごく甘くて、口の中で溶けます……!」


 ヴァルゼンも覚悟を決めて、スープを一口飲んだ。


(……あ。美味しい)


 予想に反して、優しい味だった。苔のスープと聞いて覚悟していたが、実際には深いコクのある、温かいスープだった。体の芯に染みるような味。


「美味しいですね」


 素直に言った。声が少し大きかったかもしれない。


 食堂が——沸いた。


「ま、魔王様が! 美味しいと!」


「我々の料理を認めてくださった!」


「料理長! 料理長! 聞いたか!」


 厨房から、巨体の料理長が飛び出してきた。身長二メートル超え。腕の太さはヴァルゼンの太ももくらいある。角は見事に二本、天を突いている。


 その料理長が——泣いていた。


「魔王様に美味しいと言っていただけるとは……! 私は今日のために五十年間厨房に立ってきたのです……!」


(五十年!? いや、美味しいって言っただけなんですけど!?)


「長年、人間社会からは『魔族の飯は食えたもんじゃない』と言われてきました。それが——それが——」


 料理長が号泣した。巨体が震えている。


(なんでこんな大事になるの。僕はただ感想を言っただけなのに)


 エルヴィンが料理長の背中をバンバン叩いた。


「泣くな泣くな! 美味いもんは美味いんだ! もっと食わせてくれ!」


「はいっ! いくらでも!」


 料理長が涙を拭いて厨房に戻り、次から次へと料理が運ばれてきた。食堂の空気が一変し、緊張が解けて賑やかになった。魔族たちが恐る恐るヴァルゼンのテーブルに近づき、自分の好物を薦め始めた。


「これも食べてください、魔王様。自慢の干し肉です」

「こっちは岩塩の結晶飴です。子供に人気で——」

「地底水で作った酒はいかがですか」


(断れない。全部断れない。お腹がはちきれそうだ)


 ヴァルゼンは苦笑しながら、差し出されるものを片端から食べた。美味しいものも、微妙なものもあったが、全部「美味しいです」と言った。嘘ではない。少なくとも、一生懸命作ってくれたものを不味いとは言えなかった。


 食事が終わる頃には、食堂全体がヴァルゼンの歓迎会のようになっていた。


 ザガンが静かに呟いた。


「あれを見れば、わかりますか」


 ヴァルゼンが振り向くと、ザガンの視線は食堂の窓の向こう——古都の最奥にそびえる黒曜石の建物に向けられていた。


「先代魔王の記録保管庫。あれを見れば——魔王とは何かが、わかるかもしれません」


 その声には、先を見据えた静かな覚悟があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ