表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
203/303

役割という名の問い

 役割という名の問い


 翌朝、セラフィオンがヴァルゼンを呼び出した。


 宿の裏庭にある石のベンチ。朝露に濡れた草が光を弾き、小鳥の声が聞こえる穏やかな場所だった。だがヴァルゼンの心は全く穏やかではなかった。神使に一対一で呼び出される状況は、どう考えても良い兆候ではない。


「座れ」


「は、はい」


 ヴァルゼンはベンチの端に座った。セラフィオンはベンチには座らず、例によって地面の数センチ上に浮いていた。


「昨夜の観測を踏まえ、汝に伝えるべきことがある」


(伝えるべきこと。嫌な予感しかしない)


 セラフィオンの金色の瞳が、真正面からヴァルゼンを捉えた。


「魔王とは、世界秩序の一部だ」


「はい」


「神々が世界を創った際、秩序の維持に複数のくさびを設計した。勇者。聖女。そして魔王。それぞれが世界の均衡を保つ役割を担っている」


「なるほど……」


 なるほどと言ったが、実はあまりわかっていなかった。


「汝には、その役割がある。魔王としての役割だ」


 セラフィオンの声は事実を述べるように平坦だった。感情の色がない。ただの報告。


「お前の魔力感知は、世界の魔力循環を感じ取る能力だ。それは魔王として——いや、世界の管理者として、極めて重要な資質だ」


(管理者。先代の記録にも書いてあった言葉だ)


「汝には、世界を感じ取り、異常を察知し、秩序を維持する役割がある。それが——魔王の本質だ」


 ヴァルゼンは黙って聞いていた。


 役割。世界秩序の一部。管理者。


 大きすぎる言葉の数々が、ヴァルゼンの小さな肩にのしかかろうとしていた。


「あの」


「何だ」


「役割って、具体的に何ですか」


 セラフィオンの翼が止まった。


「……何だと?」


「いえ、あの。『世界秩序の一部』とか『管理者』とか仰いますけど——具体的に、僕は何をすればいいんでしょうか。毎日虚淵を感知して、避難指示を出して、それだけですか? それとも他にも何かあるんですか? 具体的に教えていただけると助かるんですけど」


 セラフィオンが黙った。


 金色の瞳の幾何学模様が——止まった。完全に。


(あ、まずい。怒らせた?)


 だがセラフィオンは怒ってはいなかった。怒っているのではなく——言葉に詰まっていた。


「……具体的に、とは」


「はい。具体的にです。たとえば、朝起きて最初にすることは何ですか。虚淵を感知したらどの順番で対応しますか。魔力循環の管理って、何をどうすれば管理したことになるんですか」


 セラフィオンの翼が不規則に明滅し始めた。


 ヴァルゼンは気づいていなかったが、彼は今、数千年の歴史を持つ神使の知識体系の盲点を突いていた。


 神々が設計した「魔王の役割」は、概念としては存在する。だが具体的な手順やマニュアルは——ない。歴代の魔王は圧倒的な戦闘力を持ち、本能的に秩序を維持していた。具体的な手順を必要としなかったのだ。


 戦闘力のない魔王が「具体的に何をすればいいか」と問うた瞬間、神々の設計の穴が露呈した。


 遠くの窓から、フェリクスが二人の様子を観察していた。


「ヴァルゼン殿の質問で、セラフィオン殿が絶句していますね」


「すげーな、ヴァルゼン。質問だけで神使を黙らせるなんて」


 エルヴィンが感心した声を上げた。


「万知の王の面目躍如ですね」


 フェリクスがモノクルを光らせた。


(いや、聞こえてないけど絶対変な解釈してるだろうな、あの人たち)


 裏庭では、セラフィオンがようやく口を開いた。


「……その問いの答えは」


 長い沈黙。神使にとって数千年で初めて味わう種類の沈黙だった。


「お前自身が、見つけるしかない」


(逃げた)


 ヴァルゼンはそう思った。超然とした神使が、質問から逃げた。


 だがそれを口に出すほど命知らずではなかった。


「わかりました。自分で考えてみます」


「……ああ」


 セラフィオンの翼が、ゆっくりと通常の明滅パターンに戻った。だが金色の瞳には——かすかな動揺の残滓が漂っていた。


 宿の窓際で、フェリクスがメモを取っていた。


「神使に概念的な質問ではなく実務的な質問を投げかけることで、相手の知識体系の限界を暴く。恐るべき知的戦術です」


(戦術じゃない。本当にわからなかっただけだ)


 だがその内心の叫びは、いつものように、誰にも届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ