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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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この能力だけは

 この能力だけは


 一行が次の街に到着した夜、ヴァルゼンは宿の屋上で一人、空を見上げていた。


 星が綺麗だった。だがヴァルゼンの目は星を見ていなかった。意識は、もっと遠くに——世界の至るところに散らばる虚淵の気配に向けられていた。


(南に一つ。東に二つ。北西にも——うっすらと。全部、繋がってる。地面の下で、一本の根みたいに)


 魔力感知。


 ヴァルゼンにとって、それは大層な能力ではなかった。嫌な感じがする。不快感を覚える。方角がなんとなくわかる。それだけのことだ。


 だが——最近、少しだけ変わり始めていた。


 意識を集中すると、不快感の「質」が読み取れるようになった。虚淵の大きさ、深さ、方向性。個々の虚淵の波動が似ているか違うか。根っこで繋がっているか否か。


(これは……努力してるわけじゃないんだけどな。使ってるうちに、勝手に精度が上がってる感じがする)


 屋上の扉が開いた。


 振り向くと、セラフィオンが立っていた。白銀の髪が夜風に揺れ、三対の翼が月光を受けて淡く発光している。


「眠らぬのか」


「あ、いえ。ちょっと考え事をしていて」


「虚淵のことか」


「……はい」


 セラフィオンが隣に——というか、隣の空間に浮くように——位置取った。


「汝に問う。今、何を感じている」


「えっと……南に虚淵が一つ。遠いですけど、結構大きい。東に二つ、こっちは小さめ。北西にも微かに。それと——全部が同じ波動を持ってます。地面の下で繋がってるような」


 セラフィオンの翼が微かに明滅した。


「我の観測眼で、虚淵の位置は特定できる。しかし波動の質や接続状態は——感知できぬ」


(え。セラフィオンにもわからないことがあるのか)


「汝の感知能力は、我の観測眼とは異なる次元の情報を捉えている」


 金色の瞳が、まっすぐにヴァルゼンを見つめた。


「——先代に似ている」


 ヴァルゼンの心臓が跳ねた。


「いや」


 セラフィオンが言い直した。その声に、かすかな驚きが混じっていた。


「先代より、鋭い」


(え)


「先代魔王ゼルヴァスは、魔力感知に秀でていた。しかし彼の感知は圧倒的な魔力量に支えられたものだった。力で世界を感じ取っていた。汝は——力がない。力がないにもかかわらず、先代以上の精度で魔力の流れを捉えている」


 セラフィオンの声が、超然とした平坦さから逸脱しかけた。


「これは——理解の範囲を超えている」


 その瞬間、屋上の扉が再び開いた。


 エルヴィンが顔を出した。


「おっ、二人ともここにいたのか。夜風に当たって——」


 エルヴィンの耳は、地獄耳だった。


「今、セラフィオンが何か言ってなかったか? ヴァルゼンが先代より鋭いって——」


(聞こえてた! 一番聞こえてほしくない人に聞こえてた!)


「おーーーい! みんな起きろ! 大ニュースだ!」


 エルヴィンの大声が宿中に響いた。


 五分後、全員が屋上に集合していた。


「セラフィオンが言ったんだ! ヴァルゼンの魔力感知は先代魔王より鋭いって!」


「先代より……」


 フェリクスのモノクルが月光を反射した。


「魔力量は最底辺でありながら、感知能力は先代を凌駕する。つまり——ヴァルゼン殿の魔力は戦闘に向いていないだけで、感知に極端に特化している可能性がある」


「世界を感じ取る魔王、か。格好いいじゃないか!」


 エルヴィンが拳を突き上げた。


「ヴァルゼンさん、すごいです……」


 ミラベルの目が潤んでいた。


 グリゼルダが静かに頷いた。「やはり」という表情だった。


 ザガンは腕を組んだまま、わずかに目を細めた。満足げな——しかし複雑な表情だった。


 ヴァルゼンは全員の視線を浴びながら、屋上の縁に座ったまま固まっていた。


(先代より鋭い。本物の能力。僕に——本物の能力がある)


 否定したかった。偶然だと言いたかった。嫌な感じがするだけだと言いたかった。


 だが——できなかった。


 毎回的中する虚淵の予測。波動の質を読み取れる精度。繋がりを感じ取る直感。それらが全て「たまたま」だとは、さすがにもう言い切れなかった。


(僕に本物の能力がある……って認めたら、魔王を辞められなくなるじゃないか)


 その内心の叫びは、星空に吸い込まれて消えた。


 月明かりの下で、ヴァルゼンの小さな影が揺れていた。


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