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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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ザガンの告白

 ザガンの告白


 その日の夜。


 パーティの全員が食事を終え、それぞれの部屋に引き上げた後——ザガンがヴァルゼンの部屋を訪ねた。


「陛下。少しよろしいでしょうか」


 いつもは三歩後ろにいる老参謀が、珍しく部屋を訪れている。ヴァルゼンの本能が告げた。重要な話だ、と。


「う、うん。どうぞ」


 ザガンが椅子に座った。尾を丁寧に横に垂らし、背筋を伸ばす。琥珀色の瞳が——いつもの読めない光ではなく、覚悟の色を帯びていた。


「お伝えしなければならないことがあります。先代について——私だけが知っている真実を」


 ヴァルゼンの心臓が跳ねた。


「真実——?」


「先代魔王ヴォルガス陛下は——ただの戦士ではありませんでした」


 ザガンが目を閉じた。そして、ゆっくりと開けた。四百年の記憶が、その瞳の奥でうごめいている。


「先代は——世界の魔力循環を管理する守護者でした」


 部屋の空気が変わった。


「守護者……?」


「はい。魔王という存在は、魔族の支配者であると同時に——世界の魔力を管理し、循環を維持する役割を担っていたのです。これは魔族の中でも、ごく一部の者にしか伝えられていない秘密です」


 ヴァルゼンは口を開きかけ——閉じ——また開けた。


「え、守護者? 先代が? 世界の?」


(処理が追いつかない。先代魔王は最強の戦士だっただけじゃなくて、世界の守護者でもあった? それを——ザガンだけが知ってた?)


「私は先代の参謀として、四百年お仕えしました。その中で、先代が定期的に大陸各地を巡っていたことに気づきました。戦略的な意味のない場所——人里離れた山の中、深い森の奥、誰もいない平原——を、黙って巡っておられた」


 ザガンの声が、かすかに揺れた。


「あるとき、問いました。何をされているのか、と。先代は——こう答えました」


 ザガンが息を整えた。


「『世界が疲れている。俺が支えなければ、崩れる』」


 沈黙。


「それが最初で最後の答えでした。先代はそれ以上の説明をされなかった。私も——深く問いませんでした。それが先代の在り方であり、孤独に耐える者の矜持きょうじであると、尊重しました」


(先代は……一人で、世界を支えていたのか)


「大戦が激化し、脈点が損傷していく中で、先代の巡回頻度は増えました。戦いながら、同時に世界を修復していたのです。肉体の疲労と、世界の損傷の修復——その二重の負荷が、先代の寿命を削った」


 ザガンの尾が、微かに震えた。


「先代が大戦の末期に急激に衰弱されたのは——人間の攻撃だけが原因ではありません。世界を守りながら戦い続けた代償です」


 ヴァルゼンの目が熱くなった。


(先代魔王は——戦争で死んだんじゃなかったんだ。世界を守りながら、戦いながら、両方の重さに押し潰されて——)


「先代が倒れた後——世界を管理する者がいなくなりました。六年の間に蓄積された脈点の損傷が、修復されないまま放置された。その結果が——」


「虚淵」


「はい」


 ザガンが深く頭を下げた。


「この事実をもっと早くお伝えすべきでした。しかし——確信が持てなかったのです。先代の役割を継承できる者が、陛下であるという確証が」


「確証——?」


「グランヴェールで虚淵の核を封じた時。陛下の感知は、先代と同じ——いいえ、先代とは異なる形で、世界の魔力循環に接続しました。先代は力で循環を支配した。だが陛下は——感知で循環と共鳴した」


(共鳴——? あの時、地面に手を置いて核を探した時のこと? あれがそんな大袈裟な——)


「陛下。先代にはなかったものが、あなたにはあります」


 ザガンが顔を上げた。琥珀色の瞳に、確信が燃えていた。


「仲間の力を束ね、循環と共鳴し、世界を繋ぎ直す。それは力による支配ではなく——繋がりによる回復です。先代にはできなかったことが、陛下にはできる」


 ヴァルゼンは黙っていた。


 ザガンの言葉の一つ一つが、重く胸に落ちていった。


 先代魔王は孤独な守護者だった。一人で世界を支え、一人で壊れていった。


 そして今——その役割が、自分に回ってきている。


「ザガン」


「はい」


「ありがとう。教えてくれて」


「……もっと早くお伝えすべきでした」


「ううん。今でよかった。今の僕じゃなかったら——たぶん、聞いても何もできなかった」


(何もできないのは今も同じだけど。でも——今は、仲間がいる。先代にはなかったものが、僕にはある。ザガンがそう言ってくれた)


 ザガンの尾が、ゆっくりと揺れた。


「陛下。最後に一つだけ」


「うん」


「先代にお仕えした四百年。そして陛下にお仕えしたこの数ヶ月。——後者の方が、遥かに刺激的でございます」


 ヴァルゼンは苦笑した。


「刺激的って……ザガン、それは褒め言葉?」


「最大級の、です」


 その夜、ヴァルゼンはなかなか眠れなかった。


 天井を見つめながら、先代魔王のことを考えた。一人で世界を支え、一人で壊れていった孤独な王。


(僕は——あの人みたいに強くはなれない。でも、一人じゃない。それだけが、僕と先代の違いだ)


 窓の外で、星が瞬いていた。世界はまだ壊れ続けている。でも——まだ、星は見えた。


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