表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
173/340

フェリクスの分析結果

 フェリクスの分析結果


 三日間、フェリクスとザガンは作戦室に籠もっていた。


 食事は運ばせた。睡眠は交代で取った。作戦室のテーブルには羊皮紙の山が築かれ、壁には分析図が何枚も貼り出された。


 そして四日目の朝——フェリクスがパーティ全員を作戦室に集めた。


「結論が出ました」


 フェリクスの目の下にはくまがあった。モノクルを直す手が微かに震えている。三日間の集中分析の疲労は明らかだったが、声には確信があった。


「まず前提から確認します。虚淵の発生地点を大陸地図に落とし込み、大戦の記録と照合しました」


 壁の地図を指した。赤い虚淵の発生点と、青い大戦の激戦地を示す点が、二種類の色で打たれている。


「ご覧ください。虚淵の発生パターンは——かつての大戦の激戦地と完全に一致します」


 パーティの全員が、地図を見つめた。


 赤と青の点が、寸分違たがわず重なっていた。


「すべての大規模虚淵は、大戦で最も激しい戦闘が行われた場所に発生しています。ヴェルナ砦。ガレイス市。フェリオン平原。グランヴェール——いずれも大戦の主要な戦場です」


(……全部、戦場の跡地だったのか)


 ヴァルゼンは地図を見つめた。赤と青が重なる一つ一つが、かつて人と魔族が殺し合った場所であり、今、世界が悲鳴を上げている場所だ。


 ベリオスの表情が強張った。


「ヴェルナ砦は——先代が三日三晩戦った場所だ」


「はい。そしてヴェルナ砦の虚淵は、他のどの虚淵よりも深く、拡大速度も速い。戦闘の規模と虚淵の規模には、明確な相関があります」


 フェリクスが分析図を指した。横軸に戦闘規模、縦軸に虚淵の規模。点がほぼ直線上に並んでいる。


「つまり——大戦で消耗された魔力の量が多い場所ほど、虚淵が大きい」


 エルヴィンが唸った。


「戦争が——世界を壊した、ってことか」


「正確には、大戦で消費された魔力が世界の循環を損傷させた。魔力は世界の血液のようなものです。脈点を通じて地中から地上に噴出し、大気に放散され、再び地中に戻る。この循環が、世界の安定を支えている」


 フェリクスが新しい図を広げた。世界の魔力循環の概念図だ。


「大戦の激戦地では、この循環が断ち切られた。膨大な魔力が一度に消費され、脈点が損傷し、循環が停止した。その停止箇所が——虚淵として顕在化しているのです」


 説明は明快だった。論理的で、証拠に裏打ちされていた。


 ヴァルゼンは——理解しようと必死に耳を傾けていた。フェリクスの説明は丁寧だが専門的で、ところどころ置いていかれる。


(えっと、つまり……世界の血管が戦争で壊れて、そこから出血してる、みたいな話? 出血してるところが虚淵? たぶんそういうことだよな?)


 しかしヴァルゼンの目が——泳いでいた。


 フェリクスの分析図に描かれた数式を目で追おうとして、追いきれず、視線が宙をさまよっている。


 フェリクスはそれを見逃さなかった。


 だが彼が出した結論は——事実とは正反対だった。


「……この方はもう結論に達している」


 フェリクスが小声で呟いた。


「私の分析を待つまでもなく。あの目の動き——分析図の細部を確認しているのではない。全体像をすでに把握した上で、私の説明の中に矛盾がないかを検証しているのだ」


(してないよ。目が泳いでるのは数式が意味不明だからだよ)


 ザガンが横から補足した。


「陛下の感知は、理論の前に直感で真実を掴みます。フェリクス殿の分析が追認する形になるのは——いつものことです」


(追認とかじゃなくて、僕はフェリクスさんの説明を必死に理解しようとしてるだけなんだけど)


 エルヴィンが腕を組んだ。


「つまり——戦争が世界を壊した。そして壊れた世界を直すには?」


 フェリクスがモノクルを直した。


「それが——次の問題です」


 フェリクスの声が、重くなった。


「脈点の修復には、魔力循環を管理・調整できる存在が必要です。通常の魔法使いでは不可能な——世界規模の魔力操作が」


 全員の視線が、一箇所に集まった。


 テーブルの末席で、数式から目を逸らしていた小柄な魔王に。


(……来た。またこのパターンだ。全員がこっちを見るやつだ)


 ヴァルゼンは目を逸らしたかった。でも——もう逸らせる段階ではないことも、わかっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ