ランク会議、紛糾す
ランク会議、紛糾す
翌日。
冒険者ギルド本部の会議室には、前日の倍の人数が集まっていた。
ドランクスが「魔王ランク」の新設を正式提案したところ、ギルド各支部の代表が「それは本部だけで決めていい話なのか」と異議を唱え、急遽拡大会議が招集されたのだ。
「では改めて——魔王ランク新設に関する拡大評価会議を開会する」
ドランクスが議長席に着いた。長テーブルの両側に、王都本部の幹部六名と各地方支部の代表五名が並んでいる。
「まず、経緯を整理する。評価対象者——ヴァルゼン。元魔王。勇者パーティ所属。この人物の評価にあたり、既存のF〜S級の八段階では対応できないと本部は判断した。よって、S級を超える新ランクの創設を提案する」
南方支部代表のガスパルが、太い腕を組んで唸った。
「趣旨はわかる。だが、本当にS級で足りないのか? 具体的な根拠を示してもらいたい」
「もっともだ。ホーランド、功績一覧を読み上げてくれ」
「了解した」
ホーランドが羊皮紙を広げた。咳払いを一つ。
「ヴァルゼンの確認済み功績——第一。王都到着時、門前で発生した騒動を沈静化。推定A級の冒険者集団を視線だけで制圧」
ガスパルが「ほう」と呟いた。
「第二。大神殿にて千年の聖炎が自発的に反応。大神官ロズモンドが『前例のない事象』と報告」
「聖炎が? 魔族に?」
「そうだ。次——第三。宰相随行の外交使節として隣国との国境紛争に同行。交渉の場で一言も発さず、双方が自発的に譲歩。紛争が解決」
会議室がざわついた。
「一言も発さずに、か」
「沈黙だけで国を動かした、と宰相府は報告している。第四。軍部の模擬戦に参加。将軍の攻撃を一発も被弾せず、長時間にわたり回避し続けた」
「攻撃を避け続けた? 反撃はしなかったのか?」
「しなかった。『する必要がなかった』とエルヴィン勇者は証言している」
ホーランドが淡々と続けた。
「第五。模擬戦中に配下ザガンが参戦。魔法一撃で訓練場の壁を粉砕。将軍は『これが手加減の範囲内』と評価し、軍部は正式に同盟方針を決定」
「壁を粉砕……」
「第六。排除派が放った暗殺者が寝室に侵入。ヴァルゼンは暗殺者と対峙し——」
ホーランドが一拍置いた。
「——改心させた」
「改心? 戦わずに?」
「戦わずに。暗殺者は翌日、自ら当局に依頼主を告発している。第七。王都近郊で虚淵の発生を、顕在化の半日以上前に感知。住民数百名を事前避難させ、被害ゼロ」
ホーランドが羊皮紙を置いた。
「以上が直近数ヶ月の確認済み功績だ。なお、これ以前にも——魔王軍残存勢力の帰順、各地での魔獣騒動の収束、複数の都市での民心安定化——等の報告があるが、割愛する」
沈黙が会議室を支配した。
ガスパルが額の汗を拭った。
「……これが、一人の人物の功績だと?」
「そうだ」
「S級冒険者の生涯功績を全部足しても、これには——」
「届かない。だから我々は新ランクを提案している」
西方支部代表のアデラが手を挙げた。
「一つ確認させてください。この方は——本当に全てを意図的にやっているのですか? つまり、計算の上で?」
ドランクスとホーランドが顔を見合わせた。
「……本人に聞いたところ、『いや、あの、その……僕がそんな大層なことを考えていたわけでは』と仰ったそうだ」
「それは——」
「謙虚なのだ。間違いなく」
ホーランドが断言した。
「国を動かし、軍を制し、宗教を生み、暗殺者を改心させ、空間の歪みを予知する。これだけのことをやっておいて『大層なことを考えていたわけでは』——常人にはとても言えない台詞だ。つまり、この方にとっては大層なことではない。日常の延長に過ぎない」
(本人が聞いたら泡を吹いて倒れるだろうな)
ドランクスは内心でそう思ったが、口には出さなかった。
「議論を進めよう。名称は『魔王ランク』を提案する。これは既存の八段階の延長ではなく、体系の外側に置かれる唯一無二のランクだ。該当者は現時点でヴァルゼン一名。今後の追加は——」
「あり得ないでしょう」
アデラが即答した。
「この功績に並ぶ者が現れるとは思えません」
「同感だ」
ガスパルが腕を組み直した。
「正直、功績一覧を聞いて考えが変わった。S級で収めようとする方が無理がある。賛成だ」
採決は、全会一致だった。
二百年の歴史で前例のない「魔王ランク」が、冒険者ギルド全支部の承認のもとに正式決定された。
ドランクスが最後に付け加えた。
「授与式は三日後。本人への通達はこれから行う。——くれぐれも、事前に情報が漏れないように。本人を驚かせたいわけではないが、街中で噂が先行すると面倒だ」
リナが小声で呟いた。
「……驚くと思いますよ。たぶん、想像以上に」
その予感は、三日後に見事的中することになる。




