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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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冒険者ギルドの難問

 冒険者ギルドの難問


 王都冒険者ギルド本部——大陸最大規模のギルド支部であり、S級冒険者の認定権を持つ唯一の機関。


 その最上階にある会議室で、ギルドマスターのドランクスは頭を抱えていた。


「諸君。今日集まってもらったのは他でもない。我がギルドの評価制度に関わる……前代未聞の案件だ」


 長テーブルを囲むのは、評価委員会の幹部六名。いずれも歴戦の冒険者であり、新人の査定からS級の認定審査まで、あらゆるランク付けに関わってきたベテランたちだ。


 ドランクスが机の上に、一枚の書類を広げた。


「ヴァルゼン。元魔王にして、現在は勇者エルヴィンのパーティに所属する人物。先日の虚淵予兆事件で住民を事前避難させた件、暗殺者を改心させた件、そして以前からの数々の——まあ、なんだ。『功績』の数々」


 幹部たちの顔が一様に硬くなった。ヴァルゼンの名前は、この数ヶ月で嫌というほど耳にしている。


「問題はこうだ。この人物にギルドとしてランクを付与する必要が生じている。宰相府と軍部の双方から、正式な評価の要請が来ている」


 委員の一人、白髪の老冒険者ホーランドが口を開いた。


「ランクを付けろと言われてもだ、ドランクス。あの方の戦績を見れば——S級ですら足りんだろう」


「だからこそ困っている」


 ドランクスが唸った。


「我々のランク体系はF級からS級までの八段階だ。S級は、単独で国家の脅威に対処できる者——大陸に十数名しか存在しない、最上位の冒険者だ。しかし——」


 彼は書類の裏面をひっくり返した。そこには、ヴァルゼンの「功績一覧」がびっしりと書き込まれていた。


「一言も発さずに隣国の国境紛争を解決。軍部最強の将軍との模擬戦で攻撃を一発も被弾せず。訓練場の壁を配下の一撃で消し飛ばし——」


「いや待て、あれは配下のザガンが——」


「ザガンを自在に操れる時点で、本人の実力はザガンの上だ」


 ホーランドが当然のように言い切った。他の委員も頷いている。


(この会議の方向性は、もう決まっているのかもしれない)


 ドランクスは内心でそう思った。


「続けるぞ。暗殺者を一夜で改心させ、宗教組織の教祖的存在となり、虚淵の発生を半日前に感知して住民を避難させた。——以上が、直近数ヶ月の『確認されている功績』だ」


 沈黙が落ちた。


 委員の一人、若手のセレンが恐る恐る口を開いた。


「……これ、全部一人の人間の話ですよね?」


「魔族だ」


「魔族の話ですよね?」


「ああ」


「普通じゃないですよね」


「普通ではない」


 ドランクスは深々と溜息をついた。


「問題を整理しよう。まず、S級に認定するか否か。ホーランド、意見は?」


「S級は不適当だ」


「ほう。足りないと?」


「逆だ。S級に入れてしまえば、S級が相対的に格落ちする。現S級冒険者が十三名いるが、ヴァルゼンとその十三名が同じランクでは——彼らの名誉に関わる。ヴァルゼンが圧倒的に上だからだ」


 他の委員が一斉に頷いた。


「同感です。沈黙だけで国境紛争を解決した方と、魔獣討伐のS級が同列では、比較にならない」


「S級冒険者のダリウスが聞いたら泣くぞ。国一つ動かしたことはないからな」


 セレンが控えめに手を挙げた。


「じゃあ、S級の上を作るしか——」


「それだ」


 ドランクスが指を鳴らした。


「だが、前例がない。創設以来二百年、ギルドの評価体系にS級を超えるランクが設けられたことは一度もない」


「前例がないのは当然でしょう。S級を超える存在が現れたことがなかったのですから」


 ホーランドが平然と答えた。


「前例がなければ、我々が作ればいい。それがギルドの役割だ」


 会議室の空気が変わった。


「……名称をどうする」


 ドランクスが低く呟いた。


「SS級? いや、安直すぎるな。SSS級なんぞ論外だ。そもそもアルファベットの延長では、この方の存在を表現しきれん」


「『神級』はどうだ」


「宗教的に問題がある。聖魔教が黙っていまい」


「『覇級』は」


「いかにも魔王軍的で、印象が良くない」


 議論が堂々巡りを始めた。


 その時、末席に座っていた古参の受付嬢——記録係として同席していたリナが、ぽつりと呟いた。


「……そのまま、『魔王ランク』でいいんじゃないですか」


 全員がリナを見た。


「だって——この方は魔王なんでしょう? 魔王を超える呼称なんて、ないと思います」


 沈黙。


 そして、ドランクスが低く笑った。


「……なるほど。魔王ランク。既存の八段階の外に置く、唯一の——たった一人のためのランク」


 ホーランドが顎を撫でた。


「悪くない。いや、むしろこれ以上の名称はないだろう。魔王は、魔王だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 セレンが手を挙げた。


「あの、本人に確認しなくていいんですか?」


「もちろん、正式な授与式は行う。だが——」


 ドランクスが窓の外を見た。王都の街並みが夕日に染まっている。


「あの方がどう返事をされるか、見ものだな」


 会議は全会一致で可決された。


 冒険者ギルド創設二百年の歴史において、初めてS級を超えるランクが新設される。


 その名は——魔王ランク。


 たった一人のために作られた、前代未聞の称号。


 当の本人は、この時まだ宿で「暗殺されかけた夢」にうなされていた。


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