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リペレイター  作者: 宿明朱里
第二部
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十九章 マルコスの頼み事④

読んでいただきありがとうございます!

 夕暮れ時、ザネリの部屋に集まったジョバンニらは、部屋主の危険な財政状況を聞いてもピンとこない様子だった。


「私は今、非常に困窮しているんだ。この依頼を成功させて、マルコスからお金を貰わないといけない」

「それはどうだろうね。彼はこれを『依頼』だと思っていないだろうからね」

「なら調査のために資金が必要ってことにならないかな。痕跡を探す途中で金銭が必要になったというシナリオさ」

「無理じゃないか? 僕らが探すべき場所は予め決められているんだ。それ以外のところに行ったところで、自費でなんとかしろとか言ってくると思うけど」


 アイラスは真顔でずけずけと、聞きたくないことを言ってくる。耳が痛い。だが、現状を打開するにはマルコスに頼るのが一番の近道だ。家賃はどうにでもなるが、部屋の修理費用にはまだまだ足りないだろう。


「なんにせよ、要求を通すなら依頼を達成してからか......。はぁ、話を戻そうか」

「私とジョバンニの向かったバー? でしたけど、そこに手掛かりらしいものはありませんでしたよ。店主に聞いても『あいつとは仲良くないんでね』と言われて、危うく殴られるところだった」

「そうか。ならアイラスの方はどうだった」

「まず鍵が掛かってて中にすら入れなかったよ。そもそも、あそこも単一のアパートだったよ。外から眺めてみても、そこまで大きな部屋には見えなかったな」


 つまりは手掛かりなし。骨折り損と言いたいところだ。いや実際、ザネリたちからしたら骨折り損だが、マルコス的には意味を持った情報になるだろう。

目に見えるどこかには居ない。それが知れただけで無駄な工程を挟まなくてもよくなる。あわよくば、盗聴器などの諜報装具を忍ばせていれば、より役に立っただろうが。


「目に見えるところに姿は無いか。一度マルコスにも相談して、それから対策を練る。その後のことは追々伝えるかな。

今日はそれぞれ解散しよう」


 わかったと部屋を出て行ったのはアイラスだけだった。チェリッシュはイブリスと共に、すでに隣の自分の家に戻っていた。

取り残されるジョバンニとテイラーは、ちょこんと空いたソファに腰を下ろす。

何かを言いかけて、口を閉じる。ザネリはもう一度口を開けて、今度は言葉を発する。


「もしかして家、無い?」

「ああ、無い。『悪魔派』の拠点に帰ってもいいが、私の部屋はないからね。そもそも、あまり乗り気ではないのさ」


 ジョバンニは深刻な顔をしてそんなことを言う。その横、足を揃えて座っているテイラーは、言うまでもなく家無しだった。

元々は天使派の共同生活舎で暮らしていたらしいが、戻れないのは火を見るより明らかだということで、やっぱり家無しのままだ。

 そして当然のように、二人はソファに陣取っていた。とりあえずはこの部屋を仮拠点とするらしい。

 それはそれで楽だが、寝床の確保が危ぶまれる。誰かが床で雑魚寝するわけだから、当然だ。

 じゃんけんの末、床に寝るのはザネリということで決まる。簡単な布団を敷くとすぐに眠りにつくが、あまり深い睡眠とは言えない。

今までのフカフカベッドからのあまりの落差。慣れるには時間が掛かるだろう。

 そして迎えた翌日。ザネリは朝一でマルコスに連絡を取った。昨日は収穫なしであったことを伝え、これからの計画を練る。


「私の部下も心当たりはないと言っていましたね。ヨリノブの部下にも質問しましたが、相変わらず彼は秘密主義とのことです」

「そうか。なら私はヨリノブのデスク周りを調べてみてもいいかな」

「それなら私がやりましょう。現に”あなた”は魔術協会の人間ではないでしょう?」

「ああ。けどジョバンニなら通れるだろ?

お付きの部下か弟子ってことで、建物には入れると思うんだが」

「どうでしょうか。

彼女にまだ”母屋”所属としての権限があるかどうかわかりませんから」

「物は試しだろう? それにマルコスは、こういうの苦手だと思うけど」

「確かに得意ではありません。それに彼とは接点もあまりありませんでしたね。わかりました。彼のデスク回りはあなたに任せます」


 そう言ってマルコスは電話を切った。突然ブッツリと切るものだからザネリも、一言最後に付け加えられなかった。


「魔術協会に行って、ヨリノブのデスク回りを調べる。アイラスとテイラーは引き続き、ヨリノブの拠点やら知り合いやらにコンタクトを」


 頭頂部を掻きながらザネリは指示をする。それから四人は、二組に分かれて行動を開始した。

 ジョバンニと共に魔術協会へと足を運んだザネリは、久々の協会を前に躊躇いもなく歩いていく。施設内に入ると受付係がいた。よく知っている、何度も世間話をしたことのある受付係の人間だった。

 そんな受付係に見つからぬよう、ザネリは顔を隠してジョバンニの後ろに張り付いた。ジョバンニの方が少しだけ、背が高いのだ。そのおかげで上手く隠れられていた。まあ見つかっても、なんとかやり過ごせるだろう。

髪の毛も人相も別人のように変化しているから、カムパネラであったとバレる要素は少ない。


 訝しむようなその受付係が口を開く瞬間、ジョバンニはカウンターに肘を置きつつ言葉を紡いだ。


「あー同僚に会いたいんだ。通してくれるか? これでいいだろ通行証はさ」


 ジョバンニは、ポケットからレシートやらキャンディの包み紙やらと一緒に、何かのペンダントを取り出した。

大釜に枝を突っ込んだような出来の悪いペンダントだった。

 だがそのペンダントは魔術協会にとって、明確な効力のある品物だった。


「錬金者の人ですか。なんで協会に来るんです?」

「そりゃあ仕事仲間の動向をチェックしに来たのさ。最近、連絡が付かないことが多くってね。これじゃあ研究が進まないんだよ!」

「は、はぁ......。それで、誰と面会希望なんですか?」

「カトウ・ヨリノブと、マルコス・ルシアンの二人だよ。どっちかだけでもいいけど、どちらかはいるよね」


 身を乗り出して顔を近づけ、ジョバンニは鬱陶しくも聞き続ける。魔術師は錬金術士と良好な関係を築かないものも多く、それは受付係も同じのようだ。ステレオタイプな組織間対立感情が、受付係の思考を惑わせる。


「分かりました顔を近づけないでください! 通行証はいりませんから早く二階に上がってください」


 ハエを追い払うような仕草でジョバンニを遠ざける。それと同時に面会許可を取り付けた。これで合法的に、ヨリノブのデスクを物色出来る。

 嫌いだった階段を上り上階へ行くと真っ先に、ヨリノブのデスクへと向かう。マルコスのデスクは近くにあるが、そんなものは眼中にもない。

施錠されているものの、それは問題にならない。

 足の裏を思いきりドアに叩きつける。一度目は微かに歪むだけ。二度目はドアが動いた。そして三回目の、全体重を乗せた渾身の一撃は、ドアを開け放つ。

本来なら轟音が三回響くはずだったが、廊下は全くの無音。ザネリは魔術を使用し、音を一時的、一定範囲内で消していた。

 正確に言うと、消したのではなく極端に小さくしただけだったが。どちらにせよ結果だけ見れば上々。あとは元上司の秘密の手掛かりを探るだけである。

 手始めに漁るのは、中央にあった机。書類が卓上ライトに照らされるようにして置かれていて、備え付けの引き出しにもびっしりと詰まっている様子。


 手つきは強盗、姿は取繕者リペレイター。つまり外見はほとんど強盗である。引き出しを開けて中をさらい、終わったら元に戻す。二人で分担しながらも骨の折れる作業だった。


 ようやくデスクを漁り終わってからは、隣の本棚。ファイルや紙束やら、これまた頭の痛くなる光景だった。

 どこかに逃げ道はないのか。そんな気持ちで視線を別に向けると、そこにはホワイトボードがあった。

デスクの真後ろ、少しズレた所にあるのだが、今の今まで気がつかなかった。


「なあジョバンニ。これ、手掛かりかな?」

「どうだろう。こんな場所にデカデカと貼り付けるかな普通」

「わざとバレやすいように置いてる可能性はあるかな」

「それだったら、理由がないだろう」

「とは言ってもこれ以外に痕跡があるかい?」


 ジョバンニとザネリは顔を見合わせて、ホワイトボードに書き込まれた意味ありげな住所や簡素な地図に頭を悩ませた。


「とりあえずこの通り、情報を集めよう」

「それしかわかりやすい手掛かりもないしね。目に見えるヒントに頼るのも癪だけど」

「一つずつ確認すればいいのさ。マルコスも動いてるし」


 薄目になったジョバンニが、揶揄うように言う。


「本当に解決するつもりあるの?」

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