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リペレイター  作者: 宿明朱里
第二部
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十九章 マルコスの頼み事

読んでいただきありがとうございます!

「これでもう私たちの協力関係はなくなったということですね」


 手首を掴んで回し、マルコスはそう言った。背後に佇むロカンタは、相変わらず無言だったが、テイラーの食べるスナックに目を奪われているようだった。


「ああ、これでいい。助かったよ」


 ジョバンニの短い答えに、マルコスは頷いて列車を出ていこうとする。そんな彼に、今度はザネリが声を掛ける。好奇心が、勝った。


「なあ、あの資料なんだが、何に使うんだ? 私の仲間が言うには、利用価値があまりないみたいだが」

「人によるでしょう。尤も、あなたにも無関係な資料ではないと思いますが」

「無関係でしょ。だってそれは『人造天使』についての実験試料なんだろう?」

「ええ。ですからあなたにも関係が......失礼、電話に出ても?」


 突然鳴り響くコール音に、マルコスは自分のポケットをまさぐる。手のひらを差し出して「どうぞ」とジェスチャーを見せるザネリ。

折り畳み式の携帯電話を恥ずかしげもなく取り出すと、パカリと蓋を開けて電話に出る。

 顔色どころか眉一つ動かさず、淡々と電話の声に耳を傾け時折、相槌を打つ。その相槌も、終わりに近づけば多くなっていき最後に「それでは」と言って携帯電話をまた折り畳む。

 ポケットにデバイスを仕舞い込んで一呼吸。それから口を開いたマルコスは、ばつが悪そうだった。珍しいこともあるものだ。


「そう言えば、こちらの依頼を受けてくれるのでしたよね」

「えっ? まあ、そう言ったね。うん、確かに言った」


 予想外の言葉にジョバンニは焦った。まさかマルコスからそんな言葉が出てくるとは、さすがの彼女も想定してなどいない。

次に何を口走るのか、緊張感を持ってジョバンニは構える。


「あなたがたの力を借りなくてはいけない案件ができました」

「急にかい? それは......驚いた」

「ええ、私も電話で伝えられただけですので」

「そうなんだ。それで、その依頼の内容はなにかな。ああ、私たちに出来る範囲内にしてくれよ。大道芸とかマジックとか、そういったものは専門外だ」


 ジョバンニは出来るだけおどけて言った。マルコスの頼みとなれば、それは相当に難易度が高いだろう。少しでも信用を無くすため、道化て話を振る。だがマルコスには、ジョバンニの頭もザネリの腕もバレている。誤魔化しは通用しない。


「私のかぞ......部下が攫われたようです。攫った人物は既に判明しています。ですが彼とはお互い、手の内が知れています。

それに、謀略や舌戦では私が彼に勝つことが難しい。ですのであなた方の力を借りなくてはならないのです」

「わかったよ。って、そう言う他ないだろうしね。私たちに、具体的に何をしてほしいんだ」

「私と一緒にヨークタウンに戻ってもらい、彼の拠点をひとつずつ潰していきます。彼も、攫った私の部下には手を出せないでしょう。協会側も、慎重に動かざるを得ないでしょう」


 ザネリは横でその会話をポカンと口を開けて聞いていたが、意識を取り戻したかのように突然、目を大きく見開き口を動かした。


「誰なんだよ誘拐犯は! 電話で受け取って反応それだけなのかい? 仮にも自分の管轄でしょうに」

「焦っても良い事はないと教わりましたから。『時間は相対的で、世界は自分の心情を考慮しない』と言われました。まあ、その通りでしょう」


 表情ひとつ変えずにマルコスは軽く言い放つ。彼の身振りから焦りは一切見えてこない。ただ実際、彼は焦燥に駆られているのは間違いない。上辺を取り繕っても普段出ないボロが出てしまっていた。

突然、ザネリ達を頼るというのが何よりの証拠だった。


 そしてマルコスは、ジョバンニにゲートを出すよう要求する。素直に従った彼女は、大きなゲートを作成するとそこに仲間たちを放り込んでいく。


 もちろん、テイラーにアイラスもだ。チェリッシュは相変わらず、ジョバンニを睨んで鋭いが素直にゲートをくぐる。連行される犯罪者のように俯いてだが。

最後に残ったザネリとジョバンニ、それからマルコス。置き手紙をひとつ、テーブルに預けてから三人はゲートに姿を消していった。


 その捨てるように置かれた手紙に、アガサが気づいたのは次の日だった。なんだかよくわからないお茶の入ったカップ片手に、もう片方の手で手紙を持ち上げた。

頭から最後まで読んでぽいとゴミ箱に投げ捨てる。

要件は伝わったし、必要があればまたここに訪れる。その時を期待すればいいだけだ。彼からしたら少しの間だが、同居人のいる生活は久々で楽しかったようだ。


 こぼした微笑みが、それを物語っていた。


 ヨークタウンについた面々。そこは極端に狭いアパートの一室だったが、ザネリには妙に見おぼえがあった。何を隠そう、そこはザネリが過去に暮らしていたアパートで、家賃を滞納している部屋だったからだ。


 散らかった部屋の中で数人が動くと、既に部屋は身動きが取れなくなってしまう。


「それでは私とロカンタは協会に戻り、部下と情報共有をしてきます。あなた達は、こちらの地図に従って行動してください」

「これは?」

「協会側が上位職員に渡す地図です。細かく書かれていますが、ヨークタウンに居る上位職員の拠点や家屋を記しているものです」

「多すぎてどこにも行けないんだが」

「ヨリノブの名前が書かれている場所に向かってください」


 マルコスはそう言うと、巨大で緻密な地図を押し付けつつ部屋を後にする。ロカンタも、その後ろに付随して歩く。

 テーブルに載せねば全体が見えない程の大きな地図。それを覗いきつつザネリが口を開く。


「役割分担するか。私はここに行く」


 彼女が指を差したのは、ヨリノブの家だった。その他にも拠点は何か所かあり、アイラスやジョバンニも続々と決める。そして一通り分担を決め終わった。


「私はヨリノブの家に行く。テイラーとジョバンニはヨリノブのバー、アイラスは隠れ家。こんなものでいいかな」

「異論ない。それじゃ、僕はいち早く行くかな。終わったらここに集合ってことで」

「待ってくれそれじゃあ私の家が狭くなるだろ」


 だが既にアイラスは玄関の扉に手を掛けていた。ザネリの嘆きが彼の耳に届くことはなくそのまま扉をくぐると姿を消した。

肩を下ろしたザネリだったが、彼女もまた玄関の扉をくぐって、ヨリノブの家へと赴く。

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