十八章 攻撃開始
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ゲートをくぐり抜けるとそこは、砂に覆われたような荒廃した世界。崩れた文明の残骸に足を取られながら、ザネリは立ち上がる。
既に、ザネリを含めて六人がシェンヌイに転移していた。するとここでジョバンニが口を開く。
「一旦作戦内容を確認しよう。私とテイラーが後衛で、他の四人が前衛。私はゲートで援護しながら、テイラーは銃器で援護。
ゲートを出すタイミングは私の方で調整するから、四人は私を信じて戦って」
「五人の位置を見ながら判断しきれるのか?」
「出来るさ。まあ、出来なかったら怪我をするだけだから」
そんなことを言ったジョバンニ。期待し過ぎだ。一人の人間が五人の状況を把握しながら、適切なタイミングでカードをきる。
不可能とまでは言わないまでもミスは付き物だろう。それならば、如何にして自分を思い通りに動かすかだ。仲間の心配ではなく自分の心配をした方が良さそうだ。
「標的の位置は補足できているのですか。無駄に時間を使えば、相手の思うつぼと感じますが」
「おおよその位置には見当がついてる。けど、いつまでそこに留まっていてくれるかは分からない。
もしかすると、すでに移動しているかもしれないしね」
早く移動しようと、なぜ素直に口に出来ないのだろうか。頭が良いからなのか、性格がひねくれているからなのか。それはどちらかわからないが、回りくどいとは思うザネリ。
そうやって編成された六人は歩き始めた。マルコスとロカンタはこの土地を知らないはずだ。ただ無言で目的地まで歩く間、二人はこの街に対しての疑問を提示しない。
そうしている内に、なにかと因縁深いあの橋にたどり着いた。いつ見ても崩れかけていて、ここまできたら崩落でもすればいいと思う。だがそうもいかない理由があるのか、未だしがみつくように無様な形を残している。
その壊れかけの端っこで、腰を下ろした誰かがいた。
間髪入れずに、テイラーが照準を定める。視界に入った途端に取った行動だった。
故に、弾丸は狙い通りとはいかなかった。頭に定めたはずの銃弾は、肩を掠めて通り過ぎる。
一発目は外れた。前へ進みながら二発三発と撃ち込む。あまりにもブレる照準。あっという間に五発という少ない残弾は枯れてしまった。
ここまで遠いと命中したかどうかもわからない。がどちらにしろ、やることに変わりはない。シリンダーを開いて空の薬莢を捨て、次の五発を装填。
テイラーは標的から視線を外してはいない。シリンダーを開いたときですらそうだった。だが、目の前に突然飛来した鋭い何かを、避けることはできなかった。いや、避けようとしなかった。
飛来した何かはテイラーに当たる寸前に、虚空に消えて別のどこかへと向かって行く。
開戦の合図だったろうか。その10秒ほどの攻防で、マルコスらは走り出す。
前衛を任された四人が一斉に、ノイズ混じりの悪魔へと突進する。
始めはマルコスだった。手のひらには黄金に輝くスパイクを携えて、悪魔を刺突する。悪魔の方も、いつの間にか持っていた剣でマルコスの猛攻を凌ぐ。
剣の刃がスパイクの柄を弾く。負けじと、黄金は一層激しく空を切り裂くかのような乱舞を見せる。一撃一撃を丁寧に弾くが、防戦一方。これでは埒が明かない。
スパイクを持ったマルコスも、一撃を決め切れていない印象だ。
こうして剣戟を繰り広げる二人の横に、音もなく現れたのは長刀。ロカンタの攻撃リーチと威力を知っているマルコスは、本来だったら身を引いていたはずだ。
だがそれをしない。味方ごと切り捨てるつもりだ。刃を振るう腕に迷いはない。
一歩、脚を引いた。そこに生まれた空間に、黒い不定形なゲートが現れる。ゲートが消えた次には、マルコスの姿はない。その代わり、ロカンタの強烈な横薙ぎが悪魔を襲う。
不安定な姿勢のためか十字に交差した刃の、押された方は悪魔だった。衝撃を殺しきれずに後方へ大きくよろめく。
体勢が崩れた。それと同時に長刀が、足首を刈り取ろうと地面すれすれを滑る。上に飛びのくしかない。がそう思った矢先、影が降りてくる。
おそらく、ゲートから転移したロカンタ。あまりにも不利だ。
それでもやるしかない。手に持った剣で、マルコスの槍を防いだ。点の攻撃を、薄い刃で防いだ。悪魔が剣を振り払うと、槍を持ったマルコスは空中で一瞬静止し、そしてまた、黒いゲートに吸い込まれて消えた。
息をつく暇はない。神出鬼没なマルコスに、強烈な一撃を放つロカンタ。その後ろにいる後方支援者ども。未だ姿を見せない一人の男に、一番厄介なザネリ。
常に気を張っていないと、一気に命は潰えてしまうだろう。数を減らさないことには何も始まらない。一時、ただ一時だ。それでも一対一。疑似的とはいえ対等な時間を作れた。
好機に他ならない。
背後へ倒れそうになった体へ踏ん張りを効かせ、人体構造を無視したような挙動でロカンタに斬りかかる。するとマルコスが出てくる。
刃を交えた。やっぱりそうだ。来た、ゲートだ。そこから現れるのは、黄金のスパイク。分かっていた。
力任せにロカンタの刃を薙ぎ払い、回し蹴りでスパイクをへし折った。
驚きを隠せない様子のロカンタ。だが彼はすぐにスイッチを切り替える。倒した長刀の切っ先で、喉を掻っ捌こうと突きを放つ。
凄まじいスピードで首、目がけて飛んでくるその一撃は、背後に退いて避ける。簡単な一撃だ。苦し紛れと言ってもいいかもしれない。次につながらない一手だった。これでようやく、一息つける。
そう思った。だが間違いだった。
背中に、鋭い痛みが走ると血を吐いて硬直した。反射的に腕を振った。すると、何かで後ろに引っ張られたように体が傾く。
致命的な一撃を食らった。誰だ。誰が背中を、それも心臓に近い部分を刺した。姿の見えないあの男だろうか。それしかないだろう。
やられた。完全に意識外だった。ザネリを脅威だと思い込んでいた。マルコスとロカンタを、攻撃の要だと勘違いしていた。
思い返せばそうだ。奴らは攻撃を決めようとしていたのではなく、陽動をしていたのだろう。全てはこの一撃のために。完全に、視野が狭まっていた。
だが、ここで終わりではない。身体はまだ動く。剣は握っている。相手は、まだ視認出来ている。なら、命がなくなるまで戦えるだろう。どうせ、自分の命は自分以外に価値なんてない。だったら最後まで自分のために使おうではないか。
背中から流れ続ける血液は止まらない。それなのに、奴らは距離を取り始めた。今更、控えめな攻撃手段になったのか銃弾がひっ切りなしに飛んでくる。
子供だましなその攻撃をものともせず、悪魔は進撃をはじめる。
だがここで、はじめてザネリが脅威となった。彼女は片腕を掲げて前方に向かってその腕を下ろした。氷のような、鋭い円柱状の攻撃魔法。
そして、悪魔は脇腹を貫かれる。貫通した。致命傷だった。
ザネリが何をしたのかはわからない。ただ、確実なことは悪魔は致命傷を負ったということだろう。最早前方に進む力も残っていないように見える。
「まさかここまでやるとはね......。よほど、俺の事を恐れていたらしいな」
「当たり前だろ? 誰だって死にたくなんてない」
ジョバンニはそう答える。そして、動くことの叶わない悪魔に向かって、ザネリは刃を抜いて接近した。ここで首を斬れば、全て終わる。
ジョバンニも、命を脅かされることはないだろう。そう思い、刃を握る腕に力を込めた。だがそんな力任せた一撃はしない。
刀は繊細だ。力だけでは斬り伏せることはできない。技量を伴った一撃で、悪魔は捉えられた。がしかし、これで死んだら悪魔とは言われない相手だ。
ザネリの一撃を受け止め、そのまま横に倒れ込む。片膝で立ち上がり、また剣で受ける。そうして、どんどん追い詰められる。
とそこで、体が止まった。端に止まった。ここまでだった。構えた剣は弾き飛ばされた。
するとザネリは腹部を斬り捌く。横に入れられた切り傷。追い打ちで、胸の中心に刃を突き立てる。大きく血を吐くと、ようやく悪魔は活動を停止する。これで動かないだろう。彼が本当に、悪魔なら話は別だが。
「これで、終わりだ」
「早く帰るとしよう。ここまでやれば、さすがの彼でも生きてはいないだろうからね」
本当かどうかはわからない。だが、ジョバンニは一刻も早くこの場所から離れたいようで、ひときわ大きなゲートを作って待ち構えていた。




