十六章 天使派懇親会③
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メイン会場に戻って後を追うアイラスたち三人。そこにはまだ多くの来場客がいた。人の間を縫って進むマルコスらを捉えるだけで精一杯で、とても追いつくことなんてできない。パーティを楽しむお客の背中や肩にぶつかっては謝る。繰り返していく内に流れ作業になっていき、遂には無言で体当たりをしていた。
そうして、ようやく外に出たころには随分と遠くにしかその姿を視認できなかった。諦めずに走り出す。地面を踏みしめて、緑の装飾映える中庭のような場所を突っ切る。すると、マルコスの前に立ちふさがるように、二人の取繕者が立ち塞がる。アイラスが上着の内ポケットに手を伸ばす。
「お前、さっきイブリスのこと抱えてただろ。嫌われたのか?」
「隊長から『足止めを』と言われたので、あの少女は預けてきました」
やけに長い刀身に片手分ほどしかない持ち手。独特な形状の長刀を持ったロカンタ。イメチェンでもしたのか、コートの前面はしっかりとボタンで止めていた。まだ鞘から抜いていない刀を手に、ロカンタは静かに抜刀の構えを取った。
その傍らにいるのは、深々とキャップを被った小柄な取繕者。ロカンタとは対照的に、短刀を持っている。キャップのつばを触ると、ロカンタに質問をした。
「私はどうすればいいでしょうか」
「足止めをすればいいだけで、それ以外は指示されていない。アイラスは自分が相手をする。イルト、君は他の二人を」
「了解しました。出来る限りやります」
そんな短い会話。イルトの答えは自身無さげな言葉で締めくくりとなった。そして、ロカンタの姿が一瞬で消えた。かと思ったら、彼はアイラスの目の前に迫っていた。
高速の抜刀術が放たれるが、アイラスはその一撃を止めた。上着の内側から取り出した、一本のナイフで受け止めていた。
鋭い金属音が木霊した。植物たちもどこか、風に揺れているように見える。
「離れろ、よっ」
アイラスが腕を振り抜く。長い刀身が身を引いて、切先が地面を裂いた。厄介だ。
アイラスの持つナイフは通常よりやや長い程度しかなく、かなりの接近戦闘用武器。どちらかというと暗殺向きの武器だ。押し入れから引っ張り出して来たばかりで、使い方もまだ思い出せていない。そんな中で、ロカンタの持った武器はほぼ槍だ。長さのアドバンテージが異常である。それに加えて広い屋外。アイラスの誤魔化しは、ここでは通用しない。
スティレットを逆手に持って腰を低くする。これが彼の基本スタイル。武器といい構えといい、本当に暗殺者のようである。
歩き出して刃を振るう。一連の動作が、最早必殺の一撃だ。そんな規格外な攻撃がアイラスを襲うが、冷静に対処していた。
手に持ったスティレットで刃の腹を弾く。受け止めきれない攻撃は避ける。攻撃の終わり際、その隙を狙って突きを交えてみる。じゃんけんであいこを出し続けるような戦い。お互い削れるようなダメージを負うことも無く、金属に衝突音だけ響く。動作も必要最低限だけで華がない。逸脱者同士の戦い。だがその争いも、たった一つの被弾が全てを変えるだろう。今はまだ、両者がその一瞬を待つのみだった。
そんな静かな戦いの横で、アグレッシブに拳を振るう少女がいた。片方が短刀で、片方は素手。そこに水を差すように、黒いゲートを出現させる部外者。三つ巴に見えるが、実際は二対一だ。
テイラーはジョバンニと協力して、イルトと戦う。だが、テイラーには武器がなかった。本来あるはずの二振りの大型剣は両方、ザネリに破壊されて使い物にならなくなっている。今まではそれでもよかったが、自身が矢面に立つとなると、道具のありがたさに気づかされる。受け止めてカウンターを入れれば有利を取れる場面で、身を捩って回避に専念しなくてはならない。ジョバンニのお陰で多少楽になるとは言え、それでも手間だ。
拳を突き出し殴打しようにも、刃を近づけられては引く他あるまい。今もそうだ。イルトの放つ斬撃を見切って懐に潜り込む。強烈なアッパーカットをお見舞いしようと拳を握った。それなのに、奴は拳を振り上げるより先に刃を滑らせる。
ジョバンニがゲートを発現させていなかったら、腕が真っ二つに引き裂かれていただろう。
そんなイタチごっこを続ける。もちろん、攻撃手段は拳だけではない。脚で蹴り上げたり体全体でタックルしたりと、手段は様々だ。拳に合わせて足技を繰り出してもみる。前に踏み込んだ。ここだ。ここに合わせる。
まずは正拳突き。角度をつけて脇よりやや下を狙う。入った。イルトの体が、少し曲がった。追い討ち。痛みでガードできないだろう。曲げた膝を、少女の柔らかい腹部に入れ込んだ。今度はくの字に曲がる。いい気味だ。だが同時に危ない場面でもあった。
人間、油断したとあれば一気に崩される。くの字に曲がりながらも戦意を失わないイルトは、出鱈目に刃を横に薙いだ。山折りになった膝が、危うく切り落とされるところだった。
大きなダメージを与えた。腹を押さえて背を曲げるイルト。少しの間、フリーズしている。今が押し込むチャンス。普通ならそう思う。実際、チャンスなのは間違いない。それでもテイラーは後退りをしてジョバンニに近づく。
前に突っ走り、顔面に拳をねじ込めばそのまま勝利は決まっていただろう。だが、テイラーはそれをしなかった。もしかしたらがある。素手の彼女は、自分が危険になるのを嫌う。一息つけるなら一息ついておきたい。テイラーは視線を逸らさずジョバンニに耳打ちする。
「ねぇ、アイツの剣を封じたりできないの?」
「どういう意味だ? 攻撃なら防いでやってるだろ」
「そうじゃなくて。私の腕を他の場所に出してるでしょ。それをあの剣に応用できないの?」
少し考えた後、ジョバンニは頷いた。簡単な話だった。イルトの斬撃から、テイラーを守るために何度かゲートを出現させている。その度に、ゲートを潜らせていたのはテイラーの腕であった。言われてみると確かにそうだ。難しいからやっていなかったのではなく頭になかった。テイラーを危険から守らなくてはいけない。その一心でゲートを作っていた。まさか邪魔になっていたとは。
だが、くよくよしている時間はない。テイラーはすでに走り出していた。無駄な考えを振り払って、ジョバンニはゲートを出現させる。
右の腕を大きく振りかぶって走るテイラー。その狙いは明らかであり、イルトもタダで殴られるわけがない。テイラーとの距離を身計らない、絶妙なタイミングで刃を振るう。テイラーの腕がカウンターで切り取られるはずだった。だがそうはならず、代わりに顔の前面が酷く痛む。続け様に、今度は頬を殴られる。堪らず地面に倒れ込むイルト。決着はついた。
すでにイルトは動けなくなっていた。




