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第九十話 凶器

 直樹と話し、真美ちゃんに支えてもらいわたしはなんとか月曜日を乗り越えた。


 噂のことはそんなに広まっていないのか、みんなから妙な視線を送られることはなかったが、噂が存在しないわけではなかった。


 クラスの中でも幾人かの人が疑うような視線を私に送りつけていた。


 そのことに耐えられず、何度か目眩を起こしたが真美ちゃん達に助けならながら、なんとかなった。


 そうして火曜日、わたしはいつものように学校に行って授業を受け昼放課を迎えようとしていた。


「凛奈ちゃん、その生徒会長が聞きたいことがあるから生徒会室に来てほしいて」


「え・・・・・・」


 生徒会長、その言葉に私は激しい困惑に包まれる。


 雄大生徒会長、この高校では知らない人はいない。


 多くの高校では飾りに近いような生徒会であるが、雄大生徒会長が率いる生徒会は別物だ。


 学校行事からといい、その圧倒的な才覚とカリスマで大きな権限を保有していた。


 生徒会が動くと言うことは、学校が動いていると、そう思わせるほどの影響があった。


 だからこそ、その生徒会長に呼び出されることは非常に重い意味があった。


「うん・・・・・・分かった。あ、教えてくれてありがとう」


 私は出来るだけ平静を繕いながらその場から抜け出す。


(一体何が聞かれるの!?やっぱりイジメの件)


 クラスメイトなど知っている人物ではないため、何がどのようになっているか分からない。


 しかも相手は生徒会長。


 悪い想像ばかりが私を埋め尽くした。


 視点が定まらず、考えもまとめられず、ただ一生懸命に重い体を頑張って動かしながら生徒会室に向かった。


 コンコン


 生徒会室についた私はドアをノックする。


「森岡です」


「入ってどうぞ」


 生徒会長の言葉を聞いて生徒会室に入る。


 中には生徒会長と副生徒会長の2人がいた。


「森岡凛奈君であっているかな」


「あ、はい」


「 そう緊張する必要はないよ。


 私達は今日は話を聞きたいだけで、無理に何かを聞こうとしたり、何かを咎めるようなことするつもりはない」


「分かりました」


 生徒会長の優しく、何処か落ち着く声によって自然と私は落ち着きを取り戻した。


「そこに椅子があるから座るといい」


「はい」


 生徒会長の案内で私は椅子に座った。


「 森岡君、忙しい中来てくれてありがとう。


 本来ならゆっくり話していく方が互いのためだと思うが、やることが多くて、そんなに時間を取れないから単刀直入に聞いていこうと思う。


 今回、森岡君に聞きたいのは春野君と藤井君についてだ」


 最も恐れていたことに酷く動揺しそうになるが、生徒会長の落ち着いた面持ちや空気感だろうか、表に出さない程度ぐらいしか動揺しなかった。


「 森岡君も知っていると思うが、春野君と藤井君が文化祭以降学校に来ていないんだ。


 そのことについて色々と関わりがあった森岡君に聞きたいと考えている。」


 生徒会長の言葉に私は顔を僅かに歪ませる。


 何を喋ればいいのか全く分からない。


 ただ、これから私が追い詰められていくのが分かった。


「本当はこう言うことはあまり言いたくないのだが、何一つ隠すことなく全てを話して欲しい。


 クラスを思いであり、親友が不登校になっている森岡君の立場を考えると急がせるように話させるのは悪いことだと思うが、万能の天才と言われる春野君に何かあったかもしれないと、記者と言った第三者が動き出している」


(記者!)


 生徒会長のその言葉に日曜日のチャットが頭に浮かぶ。


 記者の人が春野さんについて調べているかもしれないと。


「生徒の安全を守る上でも、私はイタズラに問題を広げたいとは考えていない。


 少なくとも今回の事態が判明して、その権利があるものがそうしたいと願わない限り。


 問題は広めることは容易だが、小さくするのは非常に困難だからね。


 だからこそ、どの選択肢が取れるように、私は早急な事態把握が求められている。


 協力してくれるかな?」


「わ、分かりました」


 否定することができなかった。


 生徒会長は今の所、中立の立場として公正な判断をしようとしている。


 そんな人に私が協力を拒否することは自分が犯人だと言っているようなものだ。


「協力ありがとう。


 早速だが、色々と答えてもらいたい」


 そうして取り調べらしいものが始まった。


 基本的には生徒会長が調べたことについて、あっているかなどを確認がメインで、何が質問されることは少なかった。


 生徒会長はみんなが知っているような表面上のことは知っていた。


 そこから智子や赤菜さんの怪我のことなどについて聞かれた。


 私はそれらについて追い詰められるようなことは分からないと言って逃げ、都合がいいことだけを認めていった。


 そのことにわたしは酷く疲弊していった。


 自分がしている行為に酷い嫌悪感を感じる。


 淡々と自分のしてきたことを振り返らせられているようで、自分がどんなことをしたのかより明確に理解してさせられる。


「大体のことは分かった。協力ありがとう」


「あ、はい」


 雄大先輩は最初の宣言通りこちらに対して、無理に何かを聞くと言ったことは一切してこなかった。


「 最後、私に聞きたいことはあるかい?


 出来うる限りの答えよう」


 全てが終わった後、生徒会長はそう言った。


「・・・・・・」


 すぐには答えられなかった。


 単純に怖かった。


 辛い現実を突き付けられことが怖かった。


「あの・・・・・・登校しない理由に他の誰かが関わっていた時、その人はどうなりますか」


 気が付けばそんなことを聞いていた。


 罪悪感からなのか、単純に気になっていたのからか、どうして聞いたのかは分からなかった。


「 それは場合によるね。


 仕方ない事情があったならそのことをできるだけ配慮したいとは考えている。


 ただ、悪質性があり、隠蔽などをしているならそれなりの罰は受けることになるだろうね」


「罰とは・・・・・・?」


「そうだね。


 ここで言うなら、法律だね。


 もし、イジメがあった場合だと仮定するなら。


 体を殴ると言った刑法208条暴行罪、暴行の結果、怪我をしたなら刑法204条傷害罪、所持品の隠蔽、盗難があった場合は、刑法235条窃盗罪、刑法252条横領罪、破壊された場合は刑法261条器物損壊罪とざっと上げてもこれだけことで訴えることができる。


 まあ、犯罪行為なのだから当然だね。」


 淡々と告げられわたしは、頭が真っ白になる。


 刑法と言った現実的な言葉が受け切れなかった。


「最も最悪の事態はいじめによってその子が自殺をした場合だね。」


「じ・・・・・・さつ」


 考えもしなかった言葉に私は更なる恐怖が襲う。


「いじめとは、やっている側は軽いことかもしれないけど、やられている側は違う。


 それこそ命の危機にいたるほどものだ。


 私たち人間は、痛みが無ければその重さに気が付きにくい。


 何気ない言葉が相手にとって命を捨てるほどまでの威力を持つことがあるように、私達は簡単に人を追い詰める力がある」


 生徒会長のその言葉に今まで自分がしていた行為の重さを理解させられる。


「だからこそ、イジメによって命が失われることがある。


 その場合は殺人罪に問われる可能性はある。」


(殺人罪・・・・・・)


 非現実的なことだったものが、そうではなくなっていて体が震える。


「ただ、悲しいことに罪の立証は極めて難しい。だからこそ、軽い罪で終わるのが多い、とても悲しことだ」


 生徒会長はとても悲しいそうに答える。


「誰も幸せにならない。だからこそ、そのようなことにならない為に全力を尽くさなければならない。みんなが幸せになれるようにね」


 生徒会長の力強い言葉がそのまま私に突き刺さる。


「森岡君の聞きたいことに答えることはできたかな?」


「あ、はい。ありがとうございます」


「 それはよかった。


 森岡君もそうならないことを願ってます。


 失った人の辛さと憎悪はそう簡単に消えるものではありませんから。」


 生徒会長の最後の言葉が胸深くに突き刺さりながら、私は生徒会室から去った。

 

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