第八十九話 愛する者と嘘
森岡凛奈視点
「もう終わったはずなのに、もう終わったはずなのに」
部屋の隅で震えながらつぶやく。
「終わったはずなのに」
私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
あの日から多くのものを失い傷ついた。
地獄のような日々だった。
毎日何が壊れていく日々だった。
それが辛くて辛くて、少しでも守ろうとして頑張って頑張って、自分と相手が壊れていった。
やっちゃいけないを多くした。
そうしないと守れなかったから。
自分が分からなくなっていた。
もうなんのためにやっていたのか分からなくなりそうになった時、地獄の日々は終わった。
泣いて去っていく春野さんを見た時、ようやく終わったとホッとした気分になった。
そうして私が残っていたのは形だけのものばかりだった。
直樹との距離は今までになく遠くなった。
智子は泣いて家から出てこなくなった。
クラスでの地位は飾り物になりつつあった。
グループはあの時間でみんな暗くて険悪だった。
形だけの地位、形だけで彼氏、形だけで親友グループ、私に残ったのはそれだけだった。
それでも、もうこれ以上失うことはない。
もう失うことがないから、形だけでも守っていたらいつかあの日に戻るかもしれないと思って頑張って学校に行って守っていた。
それなのに、それなのに悪夢はまた始まろうとしていた。
綾香ちゃん達に記者が来たのだ。
春野さんについて調べているらしい。
春野さんが自殺したかもしれないとも噂になっていると。
このまま調べられたらイジメの件がバレるかもしれない。
(もしバレたら・・・・・・)
「ゴホゴホ」
私は咳き込む。
恐怖で体が震える。
最悪な未来に私は怯えることしかできなかった。
そんな時だった。ピコンと通知がくる。
私はスマホをとって見る。
「真美ちゃん・・・・・・」
相手は真美ちゃんだった。
私が頑張って守ってみせるから、元気を出して!
私を励まそうと力強い言葉が送られていた。
グループの中でも一番気が弱かった真美ちゃんが、今では誰よりも強くなっていた。
私達が明るくなれるように頑張って笑って振る舞うようになった。
そんな真美ちゃんに私は救われていた。
ありがとう真美ちゃん!私、元気出たよ!
よかった!また明日も学校で会おうね!
そうだね!
真美ちゃとのやり取りをした後、私は明日に向けて眠った。
月曜日、あの日の出来事以降初めて直樹から呼び出されていた。
「こんな感じに話すの、なんだか久しぶりだね・・・・・・」
「・・・・・・そうだな」
いつも何かしらのイベントで中心人物として色んなことをしてきた私達はこんな感じで誰もいないところでどうするべきか話し合ったりしてきた。
大変なことは多いけど、なんだかんだ楽しかった。
話し合う時は常に前向きだった。
しかし、今は違う。
直樹はいつもの自信に溢れたような感じではなかった。どこか気まずい感じで、辛そうにしていた。
そんな直樹を見るのは初めてだった。
「それで直樹はどんなことで私を呼んだの」
沈黙の中、私は恐る恐る聞いた。
そうすると、直樹は何処か弱々しく答えていく。
「凛奈を呼んだのは、春野さんについて聞きたい方があったからだ」
グサリと刃物に刺されたような気分になった。
今すぐにでも逃げ出したい、そんな気持ちを一生懸命に抑えて黙って話を聞く。
「 その・・・・・・春野さんについてちょっと聞いてな。
今、春野さんは休んでいるだろ?
その理由が凛奈達にあるかもしれないて噂になってるんだ」
力無く話すその姿は、信じたくないと言う気持ちが伝わってくる。
「 噂は噂だ。
こんなものに流されてはいけないことはわかる。だけど、ここ最近の凛奈達の様子や、文化祭の件を考えると何かあったんじゃないかと思ってしまう。
だからさ、教えてくれないか?
春野さんが休んでるのは凛奈達が原因なのか」
「・・・・・・」
ズキリとさらに深く刃が刺されたような気分になる。
どう答えればいいのか分からなくてすぐには答えられなくて沈黙してしまう。
失望されたくない、見捨てられたくない、嫌われたくない、そんな気持ちが私の中を駆け回る。
「もし、そうだとしたら直樹はどうするの?」
「 それは・・・・・・分からない。
俺は何も知らないから。
何があったか分からない。だから、凛奈達の味方に必ずなってやれるとは言えない」
味方ではないかもしれない。
その言葉が、私の心を抉る。
壊れてしまう。
最後に残った形だけの関係すらも壊れてしまう。
そんな恐怖が私を支配する。
「私達は・・・・・・何もしてないよ。何も知らないよ」
私は直樹に嘘をついた。
壊れるのが怖かった。
直樹は何処か悲しい表情をしているように見えた。
「そうか。何もしてないんだな」
「うん」
暗く思い沈黙が私達を包み込む。
「 凛奈がそう言うなら、俺はその言葉を信じる。
だからさ、困ったことがあったら頼ってくれ。」
直樹の信じると言う言葉が辛かった。
最愛の人物を騙している罪悪感が私を酷く苦しめる。
「うん、そうする。心配してくれてありがとう」
わたしはなんとか感情が表に出ないように答える。
「それじゃ、俺は部活があるから。また、教室で」
そう言って直樹は立ち去っていった。
直樹が立ち去った瞬間、私は膝から崩れ落ちる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私は涙を流しながら直樹に謝る。
私のことを心配して、愛してくれる人を裏切った罪悪感がとても痛かった。
涙が止まらない。
(どうすればいいの)
地獄のような状況に私はただただ膝を屈して泣くしかなかった。
「凛奈ちゃん!何かあった!?大丈夫!?」
「真美ちゃん・・・・・・」
私が辛く、泣いていると真美ちゃんがそんな私の姿を見て、急いで駆け寄ってくる。
真美ちゃんは優しく私を抱きしめてくれる。
「・・・・・・何があったの?私、なんでも力になるから言って」
真美のその言葉に私は小さくこぼす。
「辛いよ・・・・・・」
「!!」
私の言葉を聞いた真美ちゃんはさらに強く私を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫、私がみんなを守るから」
真美ちゃんは力強く言った。
「ありがとう」
その言葉に私は少しだけ救われた。




