第八十八話 懲らしめ作戦
月曜日、僕は学校に行く準備をする。
(今日から第二段階か)
思い出すのは、藤井さんを説得した後のことだった。
「藤井君の次は、クラスメイトの説得と大変だね。弓弦君の理想は」
藤井さんの説得が済んだ後、私と雄大先輩は次の手を打つべく学校の生徒会室にいた。
「大変ですが、やらないといけないことです」
「やらないといけないことね。なあ、弓弦くん。一つ聞きたいことがあるんだかいいかな?」
「かまいませんよ」
雄大先輩は佐紀先輩お手製の弁当を用意する。
(相変わらず凄い弁当だな)
おせち料理みたいな弁当に僕は苦笑いする。
量も1人では食べきれない程ある。
「一緒に食べてくれるよね?」
「あ、はい」
雄大先輩の無言の圧に苦笑いしながら答える。
「それで聞きたいこととは」
「今回の作戦について弓弦君の考えを知りたい」
「作戦に不備がありましたか?」
私が考えた作戦も完璧ではない。
私自身、不安なところはいくつもある。何かあるなら早急に対策しないといけない。
「作戦自体はよく組まれていると思ってる。ただ、他の人に説明する際にその真意などを知っておかないと説明ができないからね」
「なるほど。確かにそうですね」
今回の作戦で人に指示を出すのは雄大先輩になってくる。
人を動かすためには何かしらの理由が大切だ。
誰だって無意味なことはしたくない。
「分かりました。一から説明します。渡した資料とかはスマホから見れますか?」
「ああ、用意はできている」
「それでは説明を始めたいと思います。
まず、今回の作戦の目的について。
今回の作戦においての目的は、森岡さん達の安静化です。
具体的に言うなら、森岡さん達が自分たちのしたことがどのような事なのか理解をしてもらい、その上で自分の考えを見つけてもらい、赤菜さん達と話し合いができる状態にすることです。」
「徹底的に懲らしめないんだね」
雄大先輩はわざとらしく聞く。
恐らく、ここあたりについて納得しない人が現れるかもしれないからしっかり話してほしいと言うことだろう。
「はい。自分たちがしたことについて理解してもらうためにある程度は痛い目に遭ってもらいますが、必要以上のことはしません。
私たちが2度とやらないように徹底的に懲らしめてもいじめた側といじめられた側の問題が解決できるわけではない、特に今回は。」
今回は事情が複雑だ。
いじめられるまでの経緯もそうだが、赤菜さん達はそんな謝罪よりも前に進みたがっている。
「私たちはどこまでいっても部外者であり、正義の代行者ではありません。
私たちが介入する理由は、最悪の事態を避けるため。それ以上のことをしたら、問題を悪化させるだけです」
無理矢理押さえつけるだけでは人は変わらない。
問題に向き合わなければ解決しない。
「以下の理由から、私は過度な介入はするつもりはありません。
そのことから今回の作戦はあり得たかもしれない展開を再現することにしました」
「私がイジメに気が付かなく、弓弦君が春野君の自殺を止めなかった場合か、よく考えるね」
感心するように雄大先輩は言った。
「ありがとうございます。それでは作戦の具体的な説明をしたいと思います。
今回の作戦では森岡さん達に自分たちの行いがどのような結果をもたらすのかを知ってもらうことが大切です。
そのために3段階に分けてやっていきます。
第1段階は、記者のフリをして近づき自分たちのしてきたことがバレるかもしれないと不安の種を植え付けます」
「記者のフリをして近づくね。バレる可能性もあると思うけどそこのところはどう考えているんだい?」
「その可能性は限りなく低いと考えてます」
私は断言する。
「その理由は?」
「人は納得できる理由があれば、ある程度不自然であっても気にしません。
春野さんがいい例です。
春野さんは万能の天才だから、自分たちと住む世界が違うと、自分よりもできるから、そう言って一歩離れたところから見ているだけでした。
人とは心理的に納得する理由があれば殆どのものが不自然を見逃します。
万能の天才なのだから取材を受けて当然、そしてその本人が数日前から音信不通でどのような状況にあるか分からない。
ならば、調べるためにクラスメイトに取材をするかもしれない。
また、ドラマとかよかある者では記者は突然話しかけてくるものとイメージが強いところもあります。
それだけではありません、森岡さん達には音信不通の理由が自分たちにあることを分かってます。
記者の人、言い換えればしっかりとした第三者が調べるとなればバレるかもしれない、その恐怖が彼女らの視野を狭くします。
今までの森岡さん達の動向などを総合的に見ても、これが罠だとは気がつくことはないでしょう。
あとは予想以上に恐れ暴走しないために、藤井さんに監視してもらってます。」
「なるほどね。人の心をよく理解しているね」
雄大先輩は苦笑いする。
雄大先輩の反応も仕方ないだろう。
やっていることは完全に悪人のそれですから。
「これが第一段階です。
これによって不安の種を植えたあと、第二段階に移行します。
ここでは、雄大先輩やクラスメイトの方に春野さん達のことについて聞いてもらいます。
身近な存在から不安を煽ることで自分がしたことがどのようなことなのかより実感してもらいます。」
「先に第三者から話させ不安にさせることで、身近な人の言葉が聞きやすくしたんだね」
「はい」
知っているとは人に安心を与える。
最初に知っている人から春野さんのことを聞いても、何とかなるとあまり重く捉えないだろう。
元々、クラス内での隠蔽はそこそこ出来ている。何もしていない状態で聞いても大した効果はない。
しかしながら、先に外部、全く知らない第三者から言葉の後では違う。
第三者が何をしてくるか分からないと言う未知が、知っている人物の言葉ではなくなる。
もしかしたら、あの記者の人の仕業かもしれないと恐るからだ。
「さらに効力を上げるために月曜日にクラスメイト、火曜日に雄大生徒会長という順番で聞く予定です」
「そこで私は第三者が糸を引いていると思わせるようなことをすればいいんだね?」
「話が早くて助かります」
生徒会が動くことになれば、森岡さん達はかなりの危機感持つことになる。
さらにここで第三者を匂わせれば不安な気持ちにさらに拍車がかかるだろう。
それと同時にもう2つこれには狙いがある。
「こうして、最大限自分たちがしたことに危機感を抱いたあと、第三段回、私が第三者として森岡さん達を呼び寄せます。
そこで自分たちがしたことについてどう考えているのかなどを話し合い、目的を達成するつもりです」
「第三者の存在を強調するのは、危機感を煽るだけかと思ったが、ヘイト管理と誘導の意味もあったんだね」
雄大先輩の言う通りで、第三者を匂わせる目的は3つある。
一つ目は、不安を煽ること。
二つ目は、追い詰められた人の刃が他の人に向かわないように第三者、私に向けること。
三つ目は、相手が私の誘いに乗ってくれるようにするため。
特に二つ目の目的は重要だ。
今回の問題は出来るだけ小さく解決したい。
問題が大きくすればする程、春野の復帰が難しくなり上、最悪の場合、春野の親に知られることになれば、今までやってきたことが全て吹き飛ぶ可能性がある。
そのためにわざわざ生徒会など色々と引っ張り出している。
「それで話し合いと言っていたが、相手が反省を見せてくれればいいが、それでもなお反抗的ならどうする?相手は暴力を振るってくる可能性も考えているかい?」
「しっかりと考えてます」
反省してくれれば一番だが、全てがうまくいくわけではない。
納得できないこともあるだろうし、強行手段に出る可能性もあるだろう。
その可能性を無視することはできない。
出来るはずがない、だからこそ確固たる覚悟の元、私は言う。
「その時は徹底的に叩き潰します。変なことをしないようにそのあとゆっくりと話し合います。そして、私は強いです。なんでもありなら、4対1でも負けません」
相手がなんでもしてくるなら、私はなんでもしよう。
そのための準備はすでに出来ている。
「・・・・・・そうだったね。なんでもありの弓弦君なら大丈夫だったね」
雄大先輩はどこか楽しそうに笑った。
「作戦の説明ありがとう。納得したよ。是非とも成功させよう」
「そうですね」
そうして私達は作戦のための準備を進めた。




