第百十一話 京都旅行④
「時差、あり得なくはないのかしら」
僕のひとことで春野も大体の事を察したようだ。
外国への旅行で面倒な事の一つは、やはり時差だろう。
数時間ならいいのだが、日にちが変わるほどになってくる面倒になってくる。特に時差が12時間の場合は面倒になってくる。
24時間表示ならいいのだが、12時間表示の場合、数字だけ午前、午後どちらであっても変わらない為、どちらかであるかの表記がなければ数字はあっている為見逃すといった有り得る。
時差12時間の所はアメリカなどをはじめとしたところ、英語は幅広く使われていることから喋れるだけで断定するのはいけないが、可能性はある。
それに長旅で疲れているクリス君を迎えると考えた時、一日の始まりよりも終わりにしたほうが自然な流れで休憩させることが出来る上にその後の進行もやり易い。
今回が何かのツアー的なものなら別かもしれないが、一人で来るところや計画書を見る感じ祖父母に会いに来たといった感じが強い。
それに電車や飛行機は30分ごとや数時間ごとと固定された間隔で設定されているため、12時間ズレていても、時刻だけなら同じの可能性がある。
勿論気が付けるポイントはいくつかあったのだろうが、今回は不運にも気が付かれなかったというところか。
「もしも、椿君の仮説が正しければ、本来の集合時間は午後7時・・・・・・」
12時間、見知らぬ土地で子供が危険な目に遭うには十分過ぎる時間だ。
「仮説で物事を考えるのは良くないか」
確定していないことよりも今は、クリス君の安全確保の方が優先だ。
「取り敢えず、クリス君を休ませれる場所に移動しよう。対処はその後だ」
「そうね」
僕はスマホを取り出して現在の位置を確認にして次の手を思考する。
緊急時の時にスムーズに対応できるように、何処に何があるかを把握していたこともあり、対応はすぐに決まる。
「10分ぐらい歩いた先に、伏見港公園がある。あそこなら休める場所もあるし、近くに駅と交番がある。今後の対応もしやすいから、そこに移動したいけどいいかな?」
「かまわないわ」
春野も同意したことで、行き先は伏見港公園になる。
「僕は英語が得意じゃないから、公園までの先導や迷子の対応は僕が受け持つから、春野はクリス君のことを頼んでいい?」
「任せて」
そうして、僕は公園までの道筋を覚え場所の移動を開始する。
クリス君は春野の高いレベルでの対応もあって表情に笑みが戻ってきている。
(警戒心が完全になくなっている。それどころかもう大丈夫だと安心している)
会話が英語なので内容は分からないが、公園に向かっている最中、常に話し続けていたことからかなり打ち解けている。
(面倒ごとはこっちで片付けないとな)
外国への一人旅、きっと大きな期待と思いがあったはず。
目を輝かせ色んなことを経験して最高の思い出になるはずだったのだ。
それが時差程度で最悪の思い出は嫌だろう。
子供が笑って成長していけるように理不尽から守るのも年長者の役目だ。
クリス君の輝きは春野が守ってくれた。
ならば、僕がすることはこのハプニングすらも使って最高の思い出へ、大逆転劇を披露することだ。
(今やっていることを考えるなら、これぐらいのことはやらないと話にならないな。それに・・・・・・)
僕はチラリとクリス君と楽しげに話す春野を見る。
何のしがらみもない楽しそうに笑って過ごしている姿は、本当に悔しいが、僕にはまだできないことである。
(この時間は、春野にとって実に多くのことを気付かせてくれるはずだ。面倒ごとはすべて僕が引き受けるから、存分にその時間を堪能してほしい)
そうして伏見港公園にたどり着く。
周囲を見渡すとテーブル付きで休むにはちょうどいい場所を見つける。
「あそこで休憩をしようか」
「分かったわ」
春野はすぐにクリス君に休憩することを伝えてくれ、クリス君も了承したので、僕たちは椅子に座る。
「Sorry for the delay in introducing myself. I'm Yuzuru Tsubaki, nice to meet you.」
(自己紹介が遅れてすまない。僕は椿弓弦、よろしく)
「My name is Chris Kelly. I heard a lot about Mr. Tsubaki from his sister. She said he was persistent and troublesome.」
(クリス・ケリーです。椿さんのことはお姉ちゃんから色々い、聞きました。しつこくて面倒な人だと)
(あ、やばい。後半何言ってるか分からない。)
英語が苦手なこともあって、完全に読み取ることができなかった。
僕のことについては春野がある程度話しているとぐらいしか分からない。
僕はチラリと春野を見て助けを求める。
僕のSOS信号に春野は気がつくが、一瞬こちらを見ただけで何もしてくれない。
(大丈夫てことだよね?そうだよね?)
どっちか分からないが、春野ならクリス君を困らせるようなことなら教えてくれると信じて話を進めることにする。
クリス君もこちらを見る目も普通なので大丈夫だと思いたい。
「Chris, I have a general idea of your situation. There are a few things I need you to do, but I will get you to where you need to go. I want you to rest assured.」
(クリス君の事情は大体は把握している。少しだけやってもらうことがあるけれど必ず目的地まだ連れていくから。安心して欲しい)
「yes」
(うん)
「Then, as soon as possible, if you have a cell phone, can I borrow it?」
(なら、早速だけど携帯電話を持っているなら貸してくれないかな?)
僕がそう頼むと、クリス君は少しだけ困った表情をしてバックから携帯電話を取り出してこちらに差し出してくれる。
「I have a cell phone, but it's broken and I can't use it.」
(携帯電話はもっているけど、壊れて使えないんだ)
(え……と、壊れているであっているっけ)
なんとなくの意味を理解することが出来るが、ハッキリとした自信を持つことが出来ない。すれ違いを防止するためにも、春野の方へアイコンタクトを送って助けを求める。
「壊れていて使えないらしいわ」
アイコンタクトを受け取った春野はすぐに意味を理解してカバーしてくれた。
「It doesn't matter if it's broken and you can't use it, it doesn't matter.」
(壊れていて使えなくても問題ないから大丈夫だよ)
出鼻を挫くような形になってしまったこともあって不安そうな表情をしているクリス君に自信たっぷりに応えつつ、携帯電話を受け取ってどんな状態なのかを調べる。
(ローカルで済むやつは動いていて、インターネットとか通信が必要なものは動かないとなるとSIMカード関係かな)
使えない原因に大まかな辺りを付けた僕はSIMカード関係を調べる。
(日本にも対応しているSIMカードだから、設定の方かな。機種の問題もあるかもしれないけど、最近の機種は大体使えるようになっているし、僕の記憶が正しいならこの機種は使えたはずだから、やっぱり設定かな)
そうして設定の方を見ると案の定ロックが掛かっていた。
デフォルトではロックは掛かっていないため、見逃してしまったのだろう。
僕はロックを解除して更新すると問題なく使用することが出来るようになった。
「cured.」
(治ったよ)
「Really!?」
(本当!?)
携帯電話を受け取ってから一、二分で治ったことにクリス君は信じられないのかすぐに携帯電話を受け取って確かめる。
「It really works! It's awesome! Your brother is awesome!」
(本当に使えてる!凄いよ!お兄さん凄い!)
「Thanks for the compliment.」
(褒めてくれてありがとう)
携帯電話の復活が相当うれしいのだろう。とてもはしゃいでいる。
(携帯電話が使えるなら色んなことができるようになるから、ここまで喜ぶのも当然か)
これによってクリス君の中では絶望的な状況ではなくなり、この状況をどうにかできるという確信できる手段を獲得することが出来た。
それによって心の中で張り詰めていた緊張がゆるんだのか、グーーとお腹から音が鳴る。
「……」
先程まで元気にはしゃいでいた姿から一転、顔を真っ赤にするクリス君。
そんなクリス君を見て、僕たちは顔を見合わせてクスっと笑う。
「Shall we have lunch first」
(先にご飯にしましょうか)
「yes!」
(うん!)
そうして僕たちは昼食を準備を始めるのであった。




