第百十話 京都旅行③
「助けに行こう」
春野がこちらを振り向くよりも早く声を掛ける。
子供の周囲を見渡すが保護者らしき人物がいないというか、根本的にここは中央からそれなりに離れていることもあって人がいない。
そのことから子供がピンチな状況であることが容易に想像できる。
「……ええ」
そうして僕たちは子供の方に向かう。
向かう最中、僕は泣いている子供と周囲を見てどう対応すべきかを考える。
(周囲に人はいない、地図を持っていると言うことは一人行動が前提だったのかな。年齢は小学三年生ぐらいかな。髪は銀髪だけど男の子かな)
子供の方に近づいて行ったことによってより詳しい状況が分かってくる。
泣いている子供が美形なことや透き通るような銀髪のこともあって遠目からだと、どちらか判断がやりにくかった。
また、地図を持っていることから保護者と別れて迷子になったとは考えにくい。
保護者と一緒に来ているなら何処に行くかなどは保護者に任せていることが多い。そのため地図といった場所が分かるものを持っている可能性が低いし、今男の子が見ているのは紙の地図。
地図を見て行動すると言うことは、小学生ぐらいの年では難しい。読み解く為には多種多様な情報を上手く処理する必要があるからだ。
全くの知識がないのなら何も分からず、さらなる混乱に陥れるだけである。そして、人間は追い詰められた状況において希望を感じられないものを見ると言うことはしない。
しかしながら、男の子は泣いてはいるが地図から目を離そうとはしない。
それが意味するところは、男の子には今見ている地図から現在位置を割り出せると思っていること、地図に関して知識を持っていることが分かる。
地図とかに興味があるやこういった場合を想定して保護者が教えていたなどの可能性はあるが、その可能性は限りなく低い。
そうなると考えられる可能性は、男の子は地図を使って行動すること前提にしていたになる。
そう考えると、地図を持っていることや知識を持っていることにも説明がつく。
その事を踏まえて男の子の現状を考えるなら、保護者がいるなら地図を持っている必要はないため、一人で目的の場所に行く必要があり、地図を見ながら向かっていたが読み間違えなどの原因で場所が分からなくなって困っているのではないかと予測できる。
(もし、予測があっているなら目的地を聞き出して連れていくのベストなのかな。男の子のようだし僕がメインで対応していった方がいいよな)
迷子といった自分ではどうしようもない状況にある人の対応をするときに大切なのは、もう大丈夫だと希望を持たせ、危機的状況から脱してあげる事である。それが今回のような子供なら特に大切になってくる。
その上で最初の接触は非常に重要になってくる。
余裕がない人は思考する力も弱っている。そんな状態の人に必要なことだとしてもあれこれ聞くことは大きな負担になってくる。
少しでも早く安心してもらうために、周囲の状況などを分析してその人の置かれている状況を少しでも多く理解することが大切なのだ。
そうして様々な思考を高速で巡らせながら子供の方に近寄っていたが、男の子の顔をはっきりと見た瞬間、足が止まる。
「春野、すまないけど男の子の対応をしてくれないかな」
「英語、本当に苦手なのね」
「ああ、早く何とかしたいよ」
自分の不甲斐なさに苛立ちを覚える。
銀髪の時点である程度察するべきだったが、迷子の男の子は外国人だった。
何処の国なのかまでは分からないが、少なくとも英語を喋れない僕では男の子を不安にさせる可能性がある。
だからこそ、英語ができる春野に任せた方がいい判断して頼んだ。
(英語が苦手なことを覚えていたんだね)
事情も説明する必要があると思ったが春野はすぐに察してくれた。勉強関係の話は全くしていない。英語が苦手なことも最初の方に言ったぐらいだ。
(やっぱり、春野は人のことをよく見ている)
そんなことを考えていると春野が深呼吸をした後、男の子の目線と同じになるようにしゃがんで話しかけた。
「Are you okay?」
(大丈夫?)
「!」
声を掛けられた男の子は一瞬驚く表情をしたが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「The crying stopped immediately. You are so strong」
(すぐに泣き止んだ。君は強い子ね)
「Uh-huh!」
(う、うん!)
春野は、落ち着きのある男の子のことをとても優しく声色で褒めて頭を慈しむように丁寧に撫でる。
その行為に温かみを感じたのか、男の子の緊張は一瞬でとけて嬉しそうに応える。
「I am Aika Haruno, and I would like to know your name.」
(私は春野愛佳、君の名前を教えてくれないかしら)
「My name is Chris Kelly.」
(僕の名前はクリス・ケリー)
「Chris, that's a beautiful name.」
(クリス君ね、素敵な名前)
「Thanks, your older sister name is lovely.」
(ありがとう、お姉ちゃんの名前も素敵だよ!)
「Oh, that's very nice of you to say.」
(あら、とてもうれしいことを言ってくれるわね)
「tee-hee」
(えへへ)
英語が苦手なため、春野とクリス君が話している内容が大まかにしか分からないが、二人の雰囲気からそれなりに上手くいっていることが分かる。
「Chris, you looked troubled earlier. Can you tell me if I can help in any way?」
(クリス君、さっき困っているような表情をしていたけど、何かあったのかしら?何かしら力になれるかもしれないから教えてくれないかな?)
「My ・・・・・・ grandma didn't pick me up and I tried to go to ・・・・・・ with a map and got lost.」
(・・・・・・おばあちゃんが迎えに来なくて・・・・・・地図を持って行こうとしたら迷子になったの)
「I'm sorry to hear that. But don't worry, we can help you with this.」
(それは大変だったわね。だけど安心してこれなら私たちでも力になれるから)
「Really!」
(本当!?)
「Yes, and for that reason I have a few questions for you.」
(ええ、その為にも少しだけ質問していいかしら)
「yeah」
(うん)
クリス君の表情が明るくなった。
安心しているように見えるあたり、クリス君が抱えていた問題に対して希望を見出せるようなことを言ったのだろう。
その後もしばらくの間、クリス君と春野が話し合う。
その最中、計画書みたいなものや持っていた地図など春野に渡していた。
周りの事を気を付けながらも僕はその様子を見守る。
(まるで別人だな)
いつもは表情が乏しく淡々とした声色の春野だが、今の春野は声は明るく温かみを感じ、暗い雰囲気を吹き飛ばすような笑顔でクリス君と接している。
声や動作、言葉選びと一つ一つの事に子供を思う気持ちと工夫がなされている。
春野の対応する姿からは、子を思う母親のような印象を受ける。
何処までも深く相手を思う対応はクリス君の警戒を完全に消し去っていた。
(自然にやれているといった感じでもない、どちらかと言えば真似ている?)
その場ですぐに出来たといった感じではないと僕の感覚は判断する。そして、今と近い感覚を僕は春野から感じたことがあると気がして、記憶を振り返り見つける。
(料理の時か……)
春野の料理から感じる信念と近しいものを感じる。
言葉で言い表すことは難しいが、ただ一つ分かるのは、それは誰かに受け伝えられたものだということ。
(この感覚は大切にしておいた方がいいな)
春野愛佳と言う人物の成り立ちを知る上でこれは大きな鍵になってくると思った。
さらに考えを深めようとした時、春野はこちらの方に来る。手にはクリス君から借りた計画書があった。
「彼について大体の事が分かったわ。目的地もここから少し遠い場所だけれど行けないことはない。どうにかすることは出来る。」
困っているクリス君を助けることは出来るので最低限、問題は解決できる。そうだというのに春野の表情は何処か引っ掛かることがあるのか若干反応が悪い。
手に持たれた計画書に、事前の予測、先程の会話から部分部分だが読み取れた内容から春野が何を気になっているのかを予測する。
「クリス君が迷子になった原因がどうして起きたのか分からないといったところかな」
「ええ」
春野は僕に計画書を見せてくる。
関西国際空港に7時に合流
電車を使用して京都駅に8時半に到着
車で移動、9時に到着
計画書の大まかな内容はこんな感じだった。
「クリス君は1時間待っても来なかったからの、この計画書と地図を頼ってここまで来たみたい」
「なるほど」
(見知らぬ土地なのにクリス君も中々にやるな)
クリス君の勇敢さに驚きながらも、この計画と現状との矛盾点を探す。
(計画自体はとても細かく作られてる。クリス君が頼りにしてある程度来れるぐらいには、だからこそ9時以降の計画書がないことが違和感がある。
別途で渡す可能性も当然ある。いや、遠いところから長い時間をかけて来るのならば、疲労していることぐらいは予想できるはず。
なら、こんな朝早くから迎えることはするか。
それに受け入れる側だって平日の昼間から子供の面倒を見るのは色々大変なはずだ。
やるならもっと・・・・・・)
様々な不都合なことから、一つの可能性が思いつく。
「時差か・・・・・・」




