第九十六話 待機時間
私達が国会議事堂前につくと、入口の所で警備をしている人達に止められた。
「こちらは国会議事堂ですが、何か御用でしょうか?」
ニコニコと笑顔でありながらもその目は笑っておらず、射抜くような視線で私達の事をチェックしている。
私達が理由を告げると「少々お待ち下さい」と下がって行った。
確認をしに行ったらしい。
その間にも他の警備の目がこちらを向いており隙はなさそうだ。
しばらくして警備の人が一人の男性を伴って戻って来た。
「お待たせいたしました。 確認が取れましたのでどうぞ中へ」
そう言って私達に道を開ける。
と、同時に連れて来た男性が、
「私が皆さんの案内をさせて頂きます。 トラノと申します」
私達に向かって丁寧にお辞儀をする。
全身を整った執事服に身を包み、髪を七三にぴっちり分けている。
歳は40歳ぐらいだろうか?
髪に白いものがチラホラ見えた。
「私はライラ。 こちらが……」
私が言いかけるのを手で制して、
「存じ上げております。 ライラ様、リア様、マリー様、カンナ様、そして……」
クルアに目を向けると、
「カンザキ様のご息女のクレア様で御座いますね」
全て把握している様だった。
「では、まずはこちらへ。 一時的に客間の方へお越し頂き、その後代表者の方々の準備が出来ましたらお呼びいたします」
そう言うと先頭に立って歩き出し、私達はその後を付いて行った。
「こちらで御座います。 お部屋の物は好きにお使い下さい。 お手洗いは部屋を出られてすぐ右に御座います」
トラノはそれだけ告げると「失礼します」と何処かへ行ってしまった。
色々忙しいのかもしれない。
部屋は普通の家にある部屋の少し大きめな感じだ。
革張りのソファや細工を凝らした高級そうな長机があり、落ち着いた重量感のある部屋だった。
「あ、これ食べて良いのかな?」
カンナの視線の先には机に置かれたお菓子がある。
「良いんじゃないかな? ご自由にって言ってたし」
マリーの言葉に喜んで頬張りだす。
……いや、いつ見ても癒やされますなぁ〜。
ハムスターを思わせる様なモグモグとした仕草に私が見とれていると、
「すみません、失礼します」
声と同時に部屋がノックされる。
「はい? どなたでしょう?」
私が声を掛ける。
先程案内してくれたトラノとは違う男性の声だ。
「準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
ドアを開けると貴族の様な出で立ちをした若い男性が立っている。
男性は優雅にお辞儀をすると、
「では、参りましょう」
私達を促した。
しかし私達が部屋を出ようとすると、
「すみませんが、大人数では質問の際など戸惑いが起こりますので……ええと」
男性は軽く私達を見回すと、
「そちらの方はこの部屋でお待ち頂いても宜しいでしょうか?」
と、カンナの方を示した。
「え? でも……」
なんで一人だけ?
「じゃあ僕も残るよ。 説明ならライラ姉が一番だと思うし」
マリーが言い出してカンナの横に立つ。
「確かに戦ったライラ姉様が一番詳しいですわね」
リアも同意する。
「では説明はライラ姉様にお任せして……」
リアが言いかけて部屋に戻ろうとするも、
「いえ、流石に他にも何人かいて欲しいと思います」
と男性が遮る。
「どうしてですの?」
「一人の記憶では記憶違いや勘違い等の懸念があるからです」
確かに一理ある。
リリスとの戦いや会話に関して、何もかも間違いなく覚えているかと言うと私も自信がない。
「すみません、私が気を失って無ければ……」
クレアが申し訳なさそうに告げる。
「いえ、クレアのせいじゃ……」
「分かりましたわ。 では、私が一緒に行きますわ」
リアがマリーに視線を向け、
「では、私達は行ってきますが……くれぐれも!」
言葉を強調して、
「手を出さないでくださいましね?」
「あのねぇ。 僕だって場所ぐらいわきまえるさ」
マリーが肩をすくめる。
「だったら宜しいですが……もしあれな時は外にほっぽり出しますからね?」
「分かってるよ。 もう、しつこいなぁ」
マリーが早く行けと言わんばかりに手でシッシと追い払う仕草をする。
ソファに座り直して再び本を読み出したマリーと、「説明頑張ってね」と手を振るカンナに見送られつつ、私とリアとクレアは部屋を後にして説明の場へと向かったのだった。
説明の場所……会議室らしいが、向かう途中でトラノさんと鉢合わせる。
「おや? ライラ殿では御座いませんか?」
「あ、トラノさん」
「今丁度呼びに行こうと思っていたんですよ」
トラノがそう言いながら私達を案内している男性に目を向ける。
「これは……ランタナ男爵。 ご機嫌は如何でしょうか?」
男性はランタナ男爵と呼ばれると、
「これはこれは……誰かと思えばトラノだったか。 もしかして彼女達はトラノが案内を?」
「その通りで御座います」
トラノが恭しく頭を下げる。
「そうか、ではここからはトラノに任せる。 会議室の準備が出来たそうなのでな、私が自ら呼びに参ったところだ」
「そうで御座いましたか……それはとんだお手数をお掛け致しました。 ここからは私がご案内致しましょう」
「うむ、では頼んだぞ」
ランタナ男爵は大仰に胸を張ると元来た通路を引き返して行った。
それをお辞儀して見送ったトラノは、
「お待たせいたしました、では行きましょうか」
私達に柔らかく微笑むと先に立ち歩き出した。




