第九十三話 手向之氷
剣を振って付いている血を払うと鞘に納める。
そしてもう一本の剣を抜きはなった。
青白い刀身が煌めく……アイスブレードの方だ。
そうして私は眼前に立つ怪物に目を向ける。
戦うのが嬉しいのか、知性がないにも関わらずどちらの顔もニタニタと狂気の笑みを浮かべる。
(バコパ……コピア……)
確かに勝手に私の事を恨んではいたようだが……それでもこんな姿になるのは酷すぎた。
なんとか倒して……眠らせてあげたい。
私が剣を構えると同時に怪物が剣を薙ぎ払った!
戦術などはなくただ力任せの一撃!
それ故に攻撃が単調だ。
四連続攻撃でも剣筋がはっきりわかる。
それらを全て躱して肉薄すると、
「はぁ!!」
剣を持つ指に斬りつける!
(指ならそんなに力もいらないはず!)
狙い通り、左腕の指を切り落とすと握っていた剣が地面に落ちる!
怪物はすぐさま剣を拾おうと手を伸ばし……もぞもぞしている。
どうやら指が回復しているつもりで剣を拾おうとして拾えない様だ。
怪物が指を切り落とされた手を見る……指が生えてきていない。
怪物は不思議そうに首を傾げる。
知性がないので分からないのであろう……切断面が凍り付いていることに!
その後ろから私が更に斬りつける!!
今度は右手の指が宙を舞い剣がガシャンと地面に落ちる。
そして怪物はその剣も拾おうとして……指が再生しないので掴むことが出来ず、しゃがんだ状態で動きを止める。
その隙をついて私は再度斬りかかった!!
しかし、野生の勘なのか……いきなり蹴りが繰り出される!!
「おわっ!!」
チッと服を掠める音がして、ぎりぎり躱すことに成功するが……。
どん!
「いたっ!」
そのまま尻もちをついてしまう。
ブン!!
そこを目掛けて怪物が私に向かって踵落としを繰り出す!!
「だぁぁ!!」
地面を転がって避けるとすぐに立ち上がる。
怪物も剣を取るのを諦めたのか、残された二本の剣で斬りつけて来た!
「華月流 双葉葵」
受け流した剣はそのまま地面に突き刺さる!
(やっぱり躱すのね……っていうか躱してくれてよかった!!)
怪物自身の剣で腕を切断したら、凍結させた手が復活したかもしれない。
(むむ、これは早く凍らせないと……)
私は剣を構えると、
「華月流 七鎌度!」
姿勢低く走り出すと、迫る怪物の剣を掻い潜る!!
そして、
「うりゃぁぁぁ!」
剣を左右に薙ぎ払い怪物の足首四本を全て切断した!!
グラリ……
怪物の体が傾き豪快な音を立てて転倒する!!
必死に起き上がろうとするも足首が無い以上立つことが出来ない様だ……腕で上体を持ち上げ四つん這いになった状態でもがいている。
「コピア……」
私はコピアの首に狙いを定めると、
「ゆっくり……眠って」
剣を大きく振りかぶった!!
「華月流 三日月!!」
弧を描き一回転した刃は、コピアの首をすんなり斬り落とす!!
「ゲッ?」
コピアとは似つかない奇怪な声が出て……首はそのまま地面を転がっていった。
怪物が四つん這いの状態で私に向かって手を伸ばす。
どうやら捕まえようとしているがその動きは鈍く緩慢としている。
首を斬り落とされた影響だろうか?
「はぁ!」
伸ばされた腕を気合一閃で斬り飛ばす!
立つことも攻撃する事も出来なくなった怪物は、そのまま動かなくなる。
最後は……バコパを解放してあげないと。
私は剣を上段に構える。
「バコパ。 貴方も休むといいわ」
コピアと同じように三日月を繰り出す!!
剣が首に食い込む寸前……それは微かに届いた。
「……あり……と……」
「!?」
バコパの首が切り離され……付け根が凍り付き、胴体はそのまま力を失い地面に倒れこんだ。
そして切り落とされた首は地面でバウンドして転がると……コピアの首に当たって止まる。
その表情は……先程より少し穏やかに見えた。
(耳が良いと……きついわ)
バコパの声が耳に残る……怪物になったけど最後に何かを取り戻したのか……。
私はそっと涙を拭い剣の血糊を払った。
血糊は氷の粒となりさらさらと地面に落ちて行った……。
「おねぇ様!!」
剣を納める私にクレアが駆け寄り抱き着いて来た!!
「ちょ! クレア何してるの? っていうか怪我はなかった?」
「大丈夫です! おねぇ様が私を守ってくれたおかげで怪我はしておりませんしピンピンです!」
「そ、そう?」
何やらよく分からないけど、興奮しているようなので、無理矢理引き離した!
「もぅ、意地悪なんですから……」
なんか呟いてるけど無視しよう。
「それよりカンザキさんは?」
「ざっとみましたがここにはおりませんでした」
私が戦っていた間に見ていたようだ……なんだかんだあっても父親なのだ、心配なのだろう。
「もしお父様が死んでしまったら……やりたいほーだいです!!」
……心配なんだよね?
「ひ、ひとまず他の部屋も探そう」
会場には別に繋がる扉が見える。
ステージの横や通路などに繋がっているのだろうか?
「ひう!!」
「な、何て事……」
「これは……」
丁度その時、表からカンナ達の声が聞こえて来た。
どうやら追いついてこの惨状を目にしたらしく、短い悲鳴や絶句する声が聞こえてくる。
「ひとまずみんなに合流して探そう! 人数も多い方がいい」
私はしつこく腰にすがりつくクレアを引きずりながらカンナ達の方へ向かった。




