第九十二話 怪物惨状
「これは……」
クレアに案内され商業会場に到着して、建物の中に入るとそこは惨状と化していた。
至る所に人が倒れて血の海に沈んでいる。
「カンザキさんはどこに……?」
椅子やら机やらが散乱している中、会場内に足を進める。
首を斬られた若者、腹を裂かれて内臓が飛び出している女性、顔の真ん中に深々と刺し傷のある老人……酷い有様だった。
「これは……一体何者が……」
私達も急いで追いかけて来た……アンズの偽物がこれをやったかと言うと時間的に無理だろう。
つまり何者かが既にこの会場で暴れていたという事だ。
ガタ!!
音がした方を見ると、会場の奥にステージがありその上に誰かが立っている。
私は剣をすぐに抜けるよう手をかけて進んで行くと……。
「貴方は……バコパ?」
クレアが立っている者の名前を呼んだ。
ハーネス系の鎧に盛り上がった筋肉。
確かに冒険者のバコパに見えるが……。
バコパが私達の方を向いた。
「ヒッ!」
それを見たクレアが思わず悲鳴を上げて口を手で押さえる。
確かにそれはバコパだった……いや、だったであろうと言うべきか。
そしてそれはコピアでもあった。
……いや、それもだったであろうと言うべきだ。
バコパの体の上にはバコパとコピアの首が二つ乗って接合されており、それぞれの口や目がおぞましく蠢いている。
体はバコパなのだろうが、そこには腕が二本繋ぎ足されており、併せて四本の腕と化していた。
バコパとコピア……二人を合体させたような生き物がそこにはいた。
「な、何て事……」
流石の私も血の気が引く……何があってこうなったのかは分からないが、間違いなく外道的行為によって生み出された物だろう。
クレアも真っ青になって言葉を失っている。
バコパ達だったもの……怪物は、私達に気付いたのかこちら側に歩いて来た。
目は何も捉えておらず四つの目全てが白目と化している。
ぶつぶつと呟く口からは常に泡や唾が飛び散り、涎が垂れている。
どう見ても……知性がある様には見えなかった。
と、怪物は急に走り出すと私達との距離を詰める!!
そしてその四本の腕全てが血まみれの剣を握っていた。
コイツがこの会場を血に染めた元凶の様だ。
私の隣では立ち尽くすクレアがいる!
私は大きく叫ぶと横に向かって走り出した!!
「こっちにこい! バコパ!!」
怪物は足を止めると、大声を出した私の方に顔を向け……私を追って走ってきた!!
よし、これでクレアからは引き離せた。
あとは……。
怪物が四本の剣を同時に振り下ろす!!
私は剣を抜き放ちつつ後退して間合いから出た!
(予想より動きが速い……そして……)
四本の腕は自在に動く様だ……。
実際私が躱したと分かると、次の瞬間四本の剣で連続して斬りつけて来た!
一撃目を躱して……、
「華月流 双葉葵!!」
二撃目を受け流すが、受け流した先の腕が器用に避ける!
三撃目を剣で受け止め四撃目を下がって躱す!
(ならば!)
「神速! 華月流 五色!!」
五連続斬撃を叩きこむが、神速中にも関わらず二つの斬撃を受け流された!
それでも胸から脇腹に掛けて二つの斬撃、両太ももに一つの斬撃を加える!
(徐々に削って機動力を奪う!)
私は距離を取り直して剣を構え直した。
すると、
「そ、そんな!」
(私の付けた傷が……ない!)
確かに斬撃を叩きこみ斬った……手ごたえは間違いなくあった。
しかし……その体に傷は見られない。
再び私に四本の剣が迫る!!
それをいなして隙を見て斬りつける!
脇腹を深々と断ち切った!
普通の人なら致命傷だが……。
「う、うそ!」
私の見ている前で傷が瞬時に塞がっていく。
(勝手に傷が治るなんて……!)
驚愕する私に剣が薙ぎ払われる!!
キーン!
それを受け止めると残りの剣がまとめて突き出された!
「くあ!」
必死に体を捻って躱す!
肩、胸、太腿の三ヵ所を浅く切られた!
瞬時に飛び退る!
(何か手は……)
瞬時に回復する……回復するなら……。
「回復出来ないほどの傷を!!」
私は剣を構えて突っ込む!!
「神速!!」
四本の剣を躱して懐に入ると、
「華月流 三斬華!!」
胸を両断せんとばかりに剣で断ち切る!!
「どうだ!!」
斬りつけた後、振り返って見た私の目には傷が治っていく姿が……。
「このぉ!!」
神速は切れたが私に向かって背中を向けている状態。
私は隙だらけの背中に向かって、
「華月流! 三斬__」
ズン!!
私の腹に何かがめり込んだ……。
「げほっ!!」
私の体は宙を舞い、数メートル飛ばされて地面に叩きつけられる!
「おごっ! げほっごほっ!!」
胃の中が空にも拘らず、何かが逆流してくる……のを無理矢理抑え込んだ。
「はぁ……はぁ……」
か、完全に後ろを取ったはずなのに……。
私は目を凝らす……と、
(あ、足も四本……)
よく見ると二本脚に見えるが二つの足を重ねる様にしてあり、その実四本あるようだ。
どうやらこちらも四本とも自由に動くようで、あの足で蹴りつけられたらしい……例えていうなら馬の背後から近寄って後ろ蹴りされる様な感じか。
(それよりも……)
私は立ち上がりつつ剣を構える。
体を動かすが幸い骨などは大丈夫そうだ。
(あれだけ深く傷つけても治るのね……さて、どうしようかしら?)
まだ手はいくつかある……まぁ試してみようかな。
私が体勢を整えている間に怪物は近寄ってきていた。
再度剣を私に繰り出す!!
(案その一。 剣を__)
「華月流 三斬華!!」
(折る!!)
ギィィィン!!!
相手の剣一本に狙いを定めて三斬華を叩きつける!!
激しく金属音が響き渡るが、折れないし弾き飛ばせもしなかった。
(案外頑丈だわ……)
これでは一本折るのにも苦労しそうだ。
時間が掛かれば私の体力が持たない。
(じゃあ、案その二ね)
四本の剣が一気に突き出される!!
狙いは両腕と両足らしい……四方向に差し出される!
ひょいっと横向きになり、剣の間に入って躱す。
結構際どいがスレンダーな私は十分躱せた……胸があったら無理だったけど。
(くっ! 嬉しいような悔しいような!! なんか屈辱!)
モヤモヤな思いを持ちつつ、
「華月流 三日月!!」
相手が剣を引くのに併せて、腕の付け根を狙い剣を振り下ろした!!
この為に接近して躱したのだ……その結果、腕を切断するのに成功する!
右腕一本……ゴンっ!! と音を立てて床に落ちた。
すぐさま離れて様子をみる……が、
「むぅ……やっぱり駄目か」
腕が生えて来た……落ちた腕はそのままなので、文字通り生えて来たのだろう。
すぐさま落ちている腕から剣を取ると、生えて来た腕に持たせた。
(うぅ~ん、剣も駄目、腕切断も駄目……となると……)
私が考えている案は後一個。
これが通じないと厳しくなるだろう……。
私は剣をブンっと振った。




