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第八十九話 崩落序曲


「どうぞくつろいでほしい」


カンザキに言われて私達は一度通された客間のソファに腰を降ろした。


話をするのに広間では……という事で客間に通されたのだった。



カンザキも腰を降ろして、メイド達がお茶を置いて部屋から出ると、


「さて……まずは何から話したものか……」

眉間に皺を寄せ思案し始めた。


ちなみにクレアは自室に追いやられている。

バコパ達は治療院に運ばれたようだ。




「事の起こりは三か月ほど前の事だ」

考えていたカンザキが急に話始めた。


「世界的に知られている様に、カタクリの国は巨大な霊峰の地下にある洞窟を利用して作られている」


国の成り立ちはマリーが教えてくれた事と差はない様だ。


「硬い岩盤に覆われビクともせず……そして洞窟ゆえに出入り口は限定されており、他国からの侵略を許さない」


確かにこの国を攻め落とすのは苦労しそうだ。

豊富な鉱山資源があるとしても……その魅力を上回る困難さだろう。


「過去には魔族が攻めてきたこともあるが容易に撃退したそうだ……しかし」


カンザキはさらに声を落とすと、


「最近この国で魔族が暗躍している様なのだ」


「暗躍……ですか?」


「うむ。 この国への入口はある程度限定されるが、それでも外に繋がる穴が他にないわけではない。 小さいものであったり、天井に出る様な穴は私達も使えないとして放置している」


放置された穴を通じて入り込んでいる……という事かな?


「そこから入り込んだ魔族達が集まって集団になったり、更には要石かなめいしを狙う輩もいる様なのだ」


「要石ってなんですか?」

私が尋ねると、


「どんなに強固な岩盤であろうと、構成している岩の中にはそれを支えるかなめと言うものがあるのだ」


「つまり魔族が密かに要石の破壊し、この国を崩落で潰そうとしていると?」

マリーの言葉に、


「そんな大げさな……」


冗談の様な話に私が一蹴しようとしたが……。


「その通りだ」

カンザキは真面目な顔で肯定する。


「う、嘘……こんな大きな洞窟がそんなに簡単に崩れるの?」


「大きい故に要石はいくつかある。 しかしある程度要石を壊されれば崩落しかねない」


「どうして魔族が要石を狙ってるって分かったの?」

カンナが興味深そうに尋ねる。


「既に何か所か壊れているのだ」


「「「「えぇ!!」」」」


私達全員が驚いて叫ぶ。



「だ、大丈夫なんですか?」


「結論から言うと今はまだ大丈夫だ。 先程も言ったがこれだけの巨大洞窟だ。 要石は数個程度ではない」


その言葉にみんなが少し安堵する。

しかしカンザキは渋い顔で、


「そうは言っても確実に破壊はされている。 既に全体の一割程度は破壊されたとみている」


「えぇ!?」


「それに全部破壊せずとも恐らく三、四割程度破壊されれば崩落には繋がるだろう……一度崩落してしまえば後は数珠繋ぎで全て……この国は地図上から消える」


「そ、そんな……カタクリの軍とかは?」


「軍も動いている。 しかし侵入して集団を形成した魔族が鉱山に繋がる穴をあちこちに開けているようでな……外部からの侵入も相まって、そいつらの撃退に覆われて手が回っていないのが現状だ」


確かに途中の鉱山でも魔族が現れていた。


「そんな訳で……今この国はその対処に追われているのだ」


国が亡びるかどうかとなれば、確かに私達に会う暇すら惜しいだろう。



「せめて手引きしている者が分かればな……」

カンザキがぼそりと呟く。


「え? 手引きしている人がいるんですか?」


「あ、ああ。 魔族達を撃退する中、どうやら指示を出している者がいるらしいと分かった。 隠密行動に長けており影で暗躍する者達のリーダーらしい」



隠密行動……ねぇ。


先程戦った少女が脳裏に浮かぶ。

足音もせず気配も感じさせなかった少女。


(まぁ彼女は魔族に見えなかったしね)


私は軽く頭を振って脳裏から少女を追い出した。




「でも、どうしようか?」


カンナが私達に目を向ける。

すぐには署名をもらえそうにない為、これからどうするかという事だ。


「そうですわね……せめてどれくらいとかが分かれば宜しいのですけど……」

リアも腕を組んで考える。


「魔族達の穴からの進行が収まれば、要石に軍を回せるのだが……今のところは……」

カンザキもはっきり言えず思案顔だ。



「ん~……じゃあ、暫く滞在してみんなを助けようよ。 国がなくなるなんて絶対防がなきゃ!」

カンナが両手をグッと握って決意を固める。



「そうだね。 他にやりようはないし……」

「ただ待つのも暇ですわね」

「カンナが言うなら僕もやるよ」


私達三人が同意した時、


『それなら吾輩も手伝うのじゃ。 ちょっとした魔族の位置なら掴めるしのぅ』


「えぇ! そうなの!?」

私が驚いて叫ぶ。


「!?」

その私に驚いてカンザキが目を丸くする。


あ……今のは私達だけに言ったのか。

カンザキには聞こえない様にしていたらしい。


「あ、あ~。 気のせいでした。 ごめんなさい」

私は気まずそうに腰を降ろす。


「あ、ああ……」

カンザキは度肝を抜かれたような声を出しつつ気を取り戻すと、


「カンナ様の言う様にして下されるのであれば、こちらとしては助かる上に心強い。 是非お願いしたいところだ。 ただあまりに危険な場合は軍に通報してくれ」


それを告げると、


「暫く街に留まるなら、うちの館に泊まるかね? 部屋ならいくつもあるが……」


「ごめんなさい! 流石にそれはお断りさせて頂きます」

私は間髪入れず答える。


部屋があっても私の大事なものが無くなりそうだ。

間違いなく変態クレアに襲われるだろう。


……そんな気がする。



無言だったがリア達も察してくれたようで、


「では私達は宿を手配いたしますので、これで失礼させていてだきますわ」

そう言ってリアが立ち上がる。


「そうか、色々とすまなかった。 せめてもの詫びだ。 宿に着いたら私の名前を出すと言い、国にいる間宿代は全て負担しよう」


これは非常にありがたい。

配布されたお金が尽きたら自分達で稼がなくてはならなくなるからだ。


「ありがとうございます。 お言葉に甘えさせて頂きます」


「いやいや、何。 これぐらいは……な」

私の言葉にカンザキが手を振る。



そうして私達はカンザキに見送られ館を出ると宿屋に向かって歩き出した。




私は……いや、私達は気付かなかった……。


そんな私達を見つめる二人分の目があった事を……。


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