第八十七話 怨恨再会
「きゃん!」
私達を捕まえようとしたメイドがまた一人床でのびる。
「あらかた片付いたかしらね?」
私は周りに倒れているメイド達を見ながらそう言った。
既に荷物を回収して、私も服を着替えている。
……ちゃんと下着も着けたわよ?
「マリーの方はどう?」
カンナがマリーに尋ねる。
「駄目だね。 館の外に直接『転移』は出来ないみたい。 多分壁に魔法への障壁かなにかしてるんじゃないかな?」
マリーが残念そうに首を振る。
「そっか、直接逃げられたら良かったのにね……」
「まぁ商家だからね。 泥棒や盗難対策だと思う」
「やはり直接正面か裏口から出るしかなさそうですわね」
リアが眉をひそめる。
睡眠薬とか使うクレアの事だ、何をしてくるか……。
「仕方ないわ。 こうなったら強硬突破あるのみよ!」
服を着て元気になった私は意を決して廊下を歩きだす。
「これだからゴリラは……」
「筋肉……」
「ライラ、無理しないでね。 気を付けて」
言わずもがな……上からリア、マリー、カンナである。
やっぱりカンナだけ優しいわ……このパーティの癒し! オアシス!!
っていうか、ゴリラとか筋肉とか……私そんなに力任せかしら?
と考えつつも急襲には咄嗟に反応する私。
「華月流 無刃術 霞初月」
廊下の曲がり角から咄嗟に飛び出して来たメイド二人、その一人とクリルと立ち位置を入れ替える。
「ええ~い! あ、あれ?」
私と思って棒を突き出したメイドが、私と入れ替わったメイドを捕まえてしまい目を白黒させる。
「てい!」
私はそのまま二人の頸椎に手刀を食らわせ昏倒させた。
「お~」
後ろからカンナがパチパチ拍手をしてくれる。
「えへへ! ぶぃ!」
嬉しくなってついついカンナにVサインをしてしまう私。
いや~私ってちょろいのかも……。
「『重力』」
後ろから来ていたメイドが魔法により地面に押さえつけられる。
ポカリとリアが後頭部を叩くと失神した。
「これで後ろは大丈夫」
マリーに言われて階段を降り始める。
眠らされて分からなかったが、私は三階に、マリー達は二階に運ばれていた。
階段を降りていくと、一階の広間に辿り着く。
目の前には大きな両開きの扉がある。
入ってきたから分かるけど、あれが入り口だ。
しかし……広間には誰もおらず……。
『怪しいよね』
『これ罠かな?』
『どういたしましょう?』
私達は階段したでコソコソ話し合う。
そんな私達にしびれを切らしたのか、向こうから出て来てくれた。
「もう~ごちゃごちゃと……遅いですよ!」
広間横にある通路からクレアが出て来た。
その横には女の傭兵らしき二人を携えている。
他にもメイド達数名と執事が二人、別な扉から広場に入ってきた。
「ちょっと数が多いね……」
私は面倒そうに呟く。
殺すわけにはいかないから、全て峰打ちにしているが……正直ちょっと手間なのである。
そんな時、広間に怒声が響き渡った!
「やっと会えたな。 このクソ女!」
「無様に床を舐めさせてやる」
クレアの両脇にいた女が二人前に進み出た。
凄く怒り顔だ。
私何もしてないと思うんだけど……。
「ああ、あの二人は……」
マリーが言葉を漏らす。
「マリー知ってるの?」
「いや、どっちかって言うとライラ姉が知ってると思うけど……」
「?」
私は身に覚えがなく顔をしかめる。
「はぁ……ストケシア王国で絡んできた冒険者だよ」
そう言えば……ストケシア王国の喫茶店を出て冒険者に囲まれたっけ……。
私は改めて二人を見る。
どちらも剣を持ち、ハーネス系の鎧をまとった女と、鱗鎧の女。
ハーネス系の方は筋肉がムキムキで、鱗鎧の方は頬に大きな傷跡がある。
(ああ、思い出した! たしかベテランの冒険者ね……確か名前は……)
「……ごめんなさい。 名前忘れちゃった」
私の言葉に馬鹿にされたと思ったのか、
「人をコケにしやがって! 忘れたとか……。 決めた、お前絶対殺すわ」
ハーネス女が切れたように怒鳴る。
「あのですね。 契約を違えないで下さい。 ライラおねぇ様を殺すことは駄目と言ったはずですよ」
クレアの言葉を聞くに、どうやら彼女が雇ったらしい。
鱗鎧の女が、
「じゃあ、あの体に名前を刻んでやるよ。 あたしはコピア。 あいつがバコパ。 二人の名前をね」
こちらは冷静に告げる。
二人は広間の中心に出てくると、
「誰も手を出すなよ! こいつは俺等の獲物だ」
「入ってくるようなら命の保証はない」
……仕方ない。 名指しの様だし行くしかなさそうだ。
「ライラ、気を付けて」
カンナが私にウルウルした目を向ける。
「大丈夫、ここで応援していて下さいね」
私は三人に背を向けると広間の中心に進んで行き、バコパとコピアに対峙する。
「……あの日以来だな? この日が来るのを待っていたぜぇ~」
口をにんまりさせてバコパが剣を構える。
「お前のその顔にも傷を付けてやろう。 この傷より大きいのをな」
コピアが頬の傷を撫でると心底嬉しそうに口を歪めた。
(あの時は大したことはなかったけど……今は強くなっているのかもしれない)
私は剣を抜く。
「死ねぇ!」
「フン!!」
二人が同時に襲い掛かって来た!!
前回の教訓があるのか、双葉葵を警戒するように私を挟み込んで攻撃してきた!
私が後ろに下がると、二人とも私を追いかけて剣先をこちらに向ける。
(えぇ~これって……)
結果、私の前には二人が並び、以前二人を倒した時の場面が再現される。
あんまり成長してなさそうだ……。
「華月流 双葉葵」
コピアの剣を受け流し、それをバコパ側に押しやる
ザシュ!
コピアの剣がバコパの右腕に深々と刺さった……。
(なんか……デジャビュだわ)
「うぎゃぁ!」
「くっ! よくも!!」
悲鳴を上げるバコパの腕から剣を抜くと、コピアが再度私に振りかぶって来た!
キン!!
残念な事に力も以前と変わらない様だ……それを受け止めると力で押し返す。
「ぐっ!」
コピアが大きくのけぞった!
そのがら空きの懐に入り剣の柄で鳩尾を強打する。
「ぐはっ!」
胸を押さえてヨロヨロと後退するコピア。
「くそがぁ!!」
右腕を負傷したバコパが左手で剣を薙いできた!!
「華月流 繊月」
それを剣で受け止めると、バコパの方に進みながら一回転する。
そうすることで、バコパと私がすれ違う形で互いに横並びとなった。
そのまま剣の柄でバコパの背中に一撃を加える!!
「ごほぉ!」
バコパから変な声が漏れそのまま地面に倒れこんだ。
「きずぅ!!」
狂気にかられた目をしてコピアが私に剣を突き出して来る!
「華月流 明月」
それを剣で払いのけると、
「華月流 一輪刺し」
コピアの右腕を狙って剣で突き刺した!!
「きききき、きずぅぅぅ!!!」
私の剣が刺さるや否や、右手から左手に武器を持ち替え振り下ろす!!
(痛み感じていないの!?)
私は瞬時に剣を手放し地面を転がって避ける。
急いで立ち上がった時には、コピアが私に駆け寄り剣を振り下ろそうとしていた!
それを横に移動して躱すと、コピアの右腕に刺さっていた私の剣を引き抜く!
「がぁぁぁ!!!」
コピアが逆袈裟で私を斬りつけようとし、私は引き抜いた剣を振りかぶりコピアの剣に叩きつけた!!
ガァン!!
大きな音がして剣がぶつかり合う!
しかし、上から下に叩きつけたことで、コピアの剣が押さえつけられ体勢が崩れた!!
今度は私が逆袈裟でコピアに斬りつける!!
私の剣は……コピアの顔を削った!!
血飛沫がパッと飛び散る!!
コピアの目がぐるんと白目をむき……そのまま地面に大の字に倒れた!
ガシャン!と鎧が大きな音を立てるが、コピアは立ち上がって来なかったのだった。




