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第八十六話 決着良話


私が神速を使って時間の流れを遅くに感じている時、アンズが間合いを詰めて来た。


アンズの消える様な移動方法……その正体は歩き方と目の錯覚の様だ。



通常、人が歩く時は体重移動に伴い後ろ脚を前に出しこれを繰り返す。


そして前に大きく進むために踏み出す時は前の方に出した足を大きく踏み出す。



しかし彼女は、踏み込み時に後ろ脚を使用している。


後ろ脚を蹴って前に進むと同時に、前に出した足はそのままスライドさせるように前に進める。

しかも地面スレスレをスライドさせており、体や頭の位置、そして重心もそのまま並行するように動く。


そしてそれらを全て同時に行う。

つまり後にある足と前に出した足を同時宙に浮かべて体全体で平行移動するような感じだろうか。


その為、上下にぶれずそのままの体勢で移動となる為、相手からは近寄って来ているのが分かり辛い。

結果、目の錯覚により急に目の前に現れたように感じる。



神速中の私の目にはアンズが構えた姿のまま、滑る様にこちらに寄って来るのが見える。

それは神速中にも関わらず普通に動いているように見え、いかにアンズの接近が早いのかを伺い知ることが出来た。




「華月流 奥義之壱 百華龍乱」


ゆっくりした時間の中こちらに向かってくるアンズに剣の平で一撃を加え、振り向きざま再び叩きつけ、それを繰り返していく!


途中で短刀を持つ腕にも一撃加えておく……これでまともに短刀も持てなくなるだろう。



連続して打撃を加えた後、距離を取った所で神速が切れた。



「!?」


アンズは声こそ出さなかったものの、短刀を取り落とし片膝を着く。


「……何をした?」


憎々し気に私を睨みつける。

無表情だった顔が怒りに歪んでいる。



「それを言うつもりはないわ。 今は峰内で済ませてあげたけど、次はないわよ?」


私はアンズに剣先を向ける。


アンズは短刀を拾い上げたもののその動きはぎこちない。

合計十発近くの打撃が入っている、まともに戦う力はあまりないだろう。



「……いいだろう。 覚えていなさい。 次こそは……」

アンズは懐から何かを取り出すと地面に叩きつけた!!


一瞬にして廊下が灰色の煙に覆われる。



「煙玉!?」

叫んだ瞬間吸い込んでしまった!


「ゴホッ! ゴホッ!」

大きくむせつつも耳を傾けるが音は拾えない。


元々アンズ自体が足音を立てないが、それでも何かしてこないとも限らなかった。


「『ウィンド』」


風が巻き起こり煙を吹き飛ばしていく!

煙が収まるとアンズの姿は消えていた。



「っはぁ!」

私は詰めていた息を大きく吐き出す。

そして呼吸を整える。



「ライラ姉様、大丈夫ですの?」

リアが少し心配そうにする。


いくら『回復ヒール』で治ったとはいえ、手を斬られて感じた痛みが消えたわけではないし、まだ他にも腕や耳から血が滴っている。


それでも、

「ありがとうリア。 貴方には沢山助けられちゃって……立つ瀬がないわ」


流石に我ながら情けない。

しかし、


「でも、ライラ姉がいないと僕達も安心して魔法を使えないし、やっぱり頼りになるよ」

「そうですわね。 確かにマリーの言う通りですわ」


二人が少し早口で述べる。


う、な、なんか気を遣われてる?



「そうだよ、それにライラはやっぱりつよ……」

カンナも私に駆け寄り声を掛けて……不意に途切れる。


カンナと目が合い……カンナは一瞬でゆでだこの様に赤くなると背中を向けた。


「ん?」


私が首を傾げると、


「ライラ姉様、今の格好分かってらっしゃる?」


「え?」


私は自分の体を見下ろす。


白い肌や二つの双丘が目に入る。

うぅ……双丘って言っていいのか……もう少し大きかったらなぁ……。


「じゃっなーーーーい!!」


いきなり叫んだ私にカンナがビクッと震える。


「わ、わ、わ、わ」


焦り過ぎて「わ」しか出てこない。


「私こんな格好で!!」


私は腰に巻いたシーツ以外、全裸だった。

勿論胸も全てさらけ出されている。


(あ、ああ……ま、またしてもカンナに……み、ら、れ、た)

ヘナヘナと力が抜けて座り込む私。


「まぁ、どんまい」

マリーが言い、


「大丈夫ですわ。 ライラ姉様の体は見せられるものではないですし、きっとすぐに忘れてくれますわよ」

リア……それって慰めなの? 悪口なの?



私が廊下にへたり込んでいると……。



ふさぁ


「え?」

見るとカンナが目をギュっと閉じて私に上着を掛けてくれている。



「み、見てないから! こ、これでも着てて」


「カンナ……」

私を気遣って……。


カンナの優しさと、そして紳士的な頼れる姿に私は顔が赤くなるのを感じる。


(カンナ……なんかカッコいいよぉ! 何か……ドキドキして……)

いつも可愛くてキュンっとするけど、今のカンナはかっこよく見えて胸が高まる。


(あ~もう私どうしよう!)

へたり込んだまま頬を赤く染めウネウネする私。



『……壊れた?』

『そうかもしれませんわね』

『魔法で治せる?』

『さすがに馬鹿は治りませんわ』


私から距離を取ったマリーとリアがヒソヒソ話をしているけど、聞こえてるんだからね!

私の聴覚なめるなよー!


私はカンナの上着を羽織ると、すくっと立ち上がる。



そしてまだ少し赤くなっているカンナに近寄ると、

「カンナ、ありがとう。 そ、それとね……」


凄く恥ずかしいけどこれだけは聞きたかった。

見られたからには……どうしても気になった。



「わ、私の……その……体……綺麗だった?」


ぐうぅぅ~顔から火が出そう!!!

めっちゃ恥ずかしいよぉ!!


カンナも一瞬で再び顔を赤く染めて、恥ずかしさから下を向く。



そして下を向いたまま、すっっっっっっごく小さな声で、



「……うん……綺麗だったよ……」



その言葉に胸が締め付けられるような……そんな感情で胸いっぱいになる。



「そ、そっか。 うん……うん、ありがとう」


見られたのは凄く恥ずかしかったけど……なんか、こう……胸が熱くなって来た。



「エヘ、エへへ……なんか恥ずかしいけど。 ありがとう、カンナ」


私がそう言うと、カンナも恥ずかしそうに、


「う、うん。 ええと、一緒にがんばろうね!」


そう言って笑顔を見せてくれたのだった。






少し離れた所にいたリアとマリー。


「私達は何を見せられているのかしら?」

リアは少しふくれっ面でぼやいた。


「まぁ……ライラ姉も吹っ切れないとやっていけないのかも」

マリーは肩をすくめる。


女として何度も裸全開ともなれば、開き直りが必要なのかもしれない……たぶん。



「それより、早く荷物を取って館から出ないといけませんわね」

「確かにね。 ライラ姉も立ち直ったみたいだし……、行こうか」


リアとマリーはそう言うとライラ達の方へ歩き出したのだった。


読者の皆様、いつもありがとうございます。


ちなみに今回のアンズの歩行は「二歩一撃」をイメージしております。

小説内の説明で分かりにくかった方は……ごめんなさい! 私の力不足です!


気になった方は良ければ調べてみて下さい。


それでは引き続き物語をお楽しみ下さい。

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