第七十六話 雨過天晴
あれから数日。
私は、朝露や湧き水などで喉を潤ませ木の実などを食べて飢えをしのぎ、カタクリを目指していた。
森の中は夜になると底冷えし寒く満足に寝る事も出来ない。
また、骨折した場所は次第に熱く熱を帯び、歩けないほどの激痛が続き、いまや剣を杖代わりにして歩いていた。
(熱も……引かないわね)
目も回り、足元もおぼつかない……今の私はゴブリンにすら勝てないだろう。
っていうか、下手するとこのまま死んじゃうんじゃないかなぁ……。
(あれ? ……私……)
気が付くと地面に倒れこんでいた。
歩いている途中で意識が飛んだらしい……。
(もう……体に力が入らないや……)
こんな事なら素直にクレアの餌食になっていれば良かったのか……。
ううん……その前に……リア達と喧嘩なんかするんじゃなかった……。
目の前がぼやけて……次第に暗くなっていく。
頭もぼーっとしてあまり良く分からない。
ただ分かるのは……このまま死んじゃうんだろうなーって事。
お父さん……私バカだったのかな?
こんなところで……死んじゃうなんて……。
こんな情けない私……お父さんのところに行ったら……きっと……笑われ……ちゃ……。
そうして私は何も分からなくなった。
……ラ
……イラ
……ってば
……ライラ
(誰かが……呼んでる?)
(誰? 誰なの?)
……ライラ、起き……
起きてってば……イラ!
霞む頭を必死に動かし、声の主を確認しようとする。
次第に声もはっきりしてきた……。
「ライラ! しっかりして!」
「ライラ姉様!!」
「ライラ姉! 目を開けて!!」
たった数日なのに……懐かしい。
心地いい声。
私の目はまだ開いていない……でも涙が出ているのは感じる。
「ライラ!」
「しっかりしなさい!! もう大丈夫ですわ!!」
「ライラ姉!!」
そうして……やっと私の目が開かれる……。
まだ少しぼやけてはいるが……見知った顔がのぞき込んでいるのは分かる。
「ライラ! 大丈夫? 目を覚ました?」
「しっかりしなさいライラ姉様! 傷は治しましたわ」
「ライラ姉! 分かる? 意識ある??」
三人そろって口々に言うものだから重なって聞こえにくい。
でも、私の事で必死になっているのは分かる。
(私は……こんなに愛されていたんだ……)
更に涙が目の端から顔を伝って流れていく。
「……」
声を出そうとしたが出ない。
それでも皆に言いたい! 声を……振り絞る。
それはとても小さな声だっただろう。
でもみんなの耳には届いてくれた。
「……た、だいま……」
私の声にみんなが安堵した様に感じる。
「ライラ……良かった!」
「ライラ姉様……意識戻りましたのですわね」
「ライラ姉……僕……僕……」
皆が口々に声を掛けていたが、リアが止めて、
「まだ疲労が激しいですわ。 もう少しお眠りなさい。 私達が傍についておりますわ」
優しい声……天使の様だ。
私は微かに頷くと、再び眠りに落ちて行ったのだった。
後から教えてもらったが、私はこの後三日間丸々眠ったらしい。
三日後に目を覚ました私は……まず、みんなに謝った。
でも、リアもマリーも謝ってくれた……二人も言い過ぎたと思っていたとのことだった。
『ライラ姉様は何でも受け入れて下さるから……申し訳ございませんでしたわ』
『うん……だから甘えちゃってた。 ごめんなさい』
でも、私も大人げなかったし……だから、おあいこ!
そう言うと二人とも恥ずかしそうに頷いた。
カンナはそんな私達をずっと笑顔で見つめていた。
起きて色々話を聞いてみた。
元々、私を心配していたリアがちょくちょく祈りで探索していたみたい。
なんだかんだ言っても気にしてくれてたんだ……嬉しいなぁ。
そうして動きがおかしい事に気付いて……たぶんほとんど動けなくなっていた時かな?
様子を見に来てくれたらしい……おかげで私は助かった。
すぐさまそこにテントを張って……それからみんなでずっと看病してくれていたとのこと。
何度も言うけど、ほんっと! みんなには感謝しかない!!
それから更に二日。
やっと歩けるまで回復してきた。
リアが言うには死ぬ寸前だったらしい。
骨折と栄養不足、そして風邪もひいて体は衰弱し高熱が続いていたそうだ。
みんなには感謝! 本当にありがとうね!!
そうして更に五日後、やっと完全復活した!
「ご心配をお掛けしました!」
私の言葉に、
「これでようやくライラ姉様に厳しく当たれますわ」
「また、リアはそんな事を言って~。 一番取り乱して泣いていたのに~」
カンナの言葉に慌ててそっぽを向く。
「やっと先に進めるね。 それにしてもライラ姉の荷物がなくなったのは困るね。 魔族に襲われて落としたんだよね?」
「う、うん。 何かゴブリンがたくさん来てね……いつの間にか荷物が消えていたから、多分取られちゃったんじゃないかな?」
……という事にして置いた。
クレアの存在はともかく、された事なんて言えないしね……。
あれから日数も経っている。
クレア達もカタクリに行くとは言っていたけど……会わない事を祈るしかない。
そうして森の中を進む事半日。
私達は森を抜け、見上げるほどの崖の袂に出た。
目の前には大きな洞窟が口を開けている。
中は暗く奥まで見ることは出来ない。
手前の様子を見るに、硬い岩盤の洞窟の様だ。
「ここから地底の国に入るんだよね?」
カンナの言葉に、
「みたい……このまま地下に続くのかな?」
私は地図を見ながら返事する。
地図には『地上』『地下』みたいに書いている訳じゃないから分かりにくい。
「地図で見るとここを真っ直ぐらしいから……やっぱり洞窟かな?」
私は崖の上を見上げる。
上が全く見えない程高い……これを登るという選択肢はないだろう。
「はい、ライラ姉」
マリーが火のついた松明を渡してくる。
カンナは手にランプを持ち、マリーとリアも松明を持つようだ。
まぁ確かに各々持っていた方が安心だし安全だろう。
「じゃあ、行こうか」
私はそう言うと暗い洞窟に入って行った。




