第七十三話 助太刀後
グギャァ!
悲鳴を上げて最後のゴブリンが崩れ落ちる。
「フン!」
私は鼻を鳴らすと剣を振って血糊を払った。
カンナ達より先に進み、出会う魔族を片っ端から斬り捨てていた。
「こうしておけばみんなも安全に……。 ううん! カンナが安全に進めるからね!」
私は誰に言うでもなく独り呟く。
「そうだ、リアとマリーなんか知るもんか! 私がこうやっているのはカンナの為なんだからね!!」
荒野を抜けた先、そこは薄っすら茂った森となっていた。
昼でも暗く見通しが悪い。
私は耳を澄ませては音を拾い、いち早く魔族を見つけて殲滅していった。
「華月流 四龍」
私の剣が煌めき四匹のゴブリンが折り重なって倒れる。
ギャッギャッ!!
ゴブリンメイジが火球を飛ばすが、
ブン!!
私はミスリルソードで火球を一閃して叩き切ると、そのまま走り寄りゴブリンメイジの胸に深々と剣を突き入れた!!
イライラする……落ち着かない。
何だろうか? このもやもやする感じは……。
先程から繰り返しているが、再度私は深呼吸をする。
纏わりつくような空気と緑の匂い、そしてゴブリン達の血の匂い。
(あう、せ、せめて死体のない所で深呼吸するんだったわ……)
少し気持ちが悪くなり、傍にある倒木に腰かけた。
……みんなは大丈夫だろうか?
いっつも私が案内していたから方向音痴かどうかも分からない。
途中の魔族は全部倒して来たからそこは平気だと思うけどなぁ……。
あ、でもあの二人だと、どっちかが出し抜いてカンナと無理矢理契りを結んだりしないかな?
カンナが心配だわ……。
一人静かにしていると色々考えてしまう。
その時、私の耳が微かな剣戟の音を拾った。
!!
私はバッと立ち上がると、音のする方へ駆け出した!!
草を払い倒木を飛び越え音のする方へ行くと少し開けた場所に出る。
(オーガーと……あれはオーク?)
開けた森の一角で、魔族と戦っている人達がいる。
力自慢のオーガーが一体と、ゴブリンよりは少し上の強さを持つ魔族の雑兵オークが五体。
その魔族が老兵二人と女の子一人を襲っていた。
老兵達も巧みに立ち回り攻撃をいなしてはいるが、女の子を守りながらな為か攻めるのが出来ない様だ。
「助太刀するわ!!」
私は戦いの場に飛び込むと、
「神速! 華月流 双葉葵」
オークの剣を受け流し、流れた剣が別なオークの首に突き刺さる!
グガァ!
首を刺され悲鳴を上げて倒れるオーク。
それを見たオーク二匹が私に斬りかかって来た!
「華月流 五色」
二匹をまとめて斬り捨てる!
残りはオークとオーガーが各一体。
「オークはワシらが!」
敵の数が減り、攻撃に転じた老兵二人がオークに斬りかかる。
私はオーガーに剣を向けた。
挑発してやれば好戦的なオーガーは私に来るだろう。
そして思った通り、私に向かって突っ込んできた!
そして手にした棍棒を大振りする!!
それを後方に下がって回避すると、空振りした棍棒が横にある大木を叩き折った!!
(さすが馬鹿力)
それを見ながら冷静に分析する。
いきなり大振りとは、一撃必殺タイプかしら?
あんまり戦略とかはなさそうだ。
私はオーガーに斬りかかる!!
上段から振り下ろされる剣に、オーガーが受け止めようと棍棒を構える。
武器同士がかち合う前に私は素早く剣を引き、その胸目掛けて突き出した!!
振り下ろしのフェイントに釣られ、突き攻撃に対して反応が遅れた。
オーガーの胸のど真ん中に剣がズブリと沈み込む!!
グォォォォォ!
オーガーは胸を貫かれながらも私に掴みかかって来た!!
私は剣を手放して後ろに跳ぶと、二本目の剣を抜き放ちつつ突き出された両腕を斬り飛ばした!!
両腕をなくしたオーガーは、ヨロヨロと数歩歩いて行くと、そのままドッ!と地面に倒れこんだ。
私は手の中にある剣を収めると、オーガーをひっくり返して、刺さったままの剣を抜き取る。
残ったオークの方を見ると、既に仕留められており助けられた三人が私の方を見ていた。
三人が私の方に近寄ってくる。 そして、その中から女の子が前に進み出ると私に向かって深々とお辞儀をする。
丁寧なお辞儀と物腰、……どこかのお嬢様の様に感じる。
「すみません。 危ない所を助けて頂きありがとうございました」
綺麗な洋服姿で、金色がかった橙色の髪の毛をお下げにしている。
少しそばかすがあるが明るくてチャーミングそうな少女だ。
「あ、いえいえ、通りがかっただけですし……お怪我がないようでなによりです」
私の言葉に顔を綻ばせると、
「なんと慎まやかな方でしょう。 それにお強くて綺麗な方」
女の子は私に寄ってきて手を取ると両手で包み込む様に握りしめる。
(な、なんか凄く馴れ馴れしいわね)
そして真剣な眼差しで見つめてくると、
「お願いします! 是非私達と一緒にカタクリに行って貰えませんでしょうか!!」
「えぇ! い、一緒にって?」
急なお願いに困惑しながら尋ねると、
「はい……実は私はさる豪商の娘なのですが、この度不思議な鉱石を手に入れまして……」
「お、お嬢様! 宜しいので? 助けて頂きはしましたが、素性も分からぬ者ですぞ!?」
「見ず知らずの人を何も言わず助けてくれるのです! 悪い人には見えません!」
老兵の一人が慌てて止めるもそれをあっさり退ける。
「それに貴方ほどの方が居れば心強いです。 どうかお願い出来ませんでしょうか!?」
そう言いながらグイグイ私に迫って来る!
私の手を両手で包み込みながら体をすり寄せて来た!
ふよん、という感じに大きな胸が私に当てられ……それは少しイラっとした。
私そんなに胸ないのに! 当てつけなのかしら!?
「お願いします!! どうか! どうか!!」
そんな私に構わずグイグイ迫って来られて、私は遂に木に押し付けられる!
「ちょっと、ま、待って!!」
私は必死に逃れようとするが、
「嫌です! 待ちません!!」
私を逃さないと木に押し付けた上に顔を接近させてくる!!
(近い! 近いって!! ちょっとこの娘なんなの!?)
耐えきれず私は言ってしまった。
「あ~~!! もう!! 分かった! 分かったから離れて!!」
すると彼女はスッと私から離れて笑顔を見せる、
「ありがとうございます。 私はクレアと申します。 何卒よろしくお願い申し上げますね」
クレアはそう言うと私に対してニッコリと微笑んだのだった。




