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第六十八話 鼻血入都


フェンリルが一行に加入して一週間後。


私達はスノーランドのすぐ側まで辿り着いていた。


道中何度も王国兵達の追跡や待ち伏せはあったものの、フェンリルの魔法やマリーの作戦により上手く回避する事が出来たのだった。



しかしスノーランドの城及び城下町はその特殊な立地条件により、一筋縄では行きそうになかった。



「うう〜ん、これは……」

私は街を見ながら思わず唸ってしまった。


城を含めて城下町全て、宙に浮いているのである。


浮いている場所はだだっ広い荒野のど真ん中。

中に入るには浮いている都市の真下の荒野に投影されている転送用の魔法陣、それに入れば良い様だ。


宙に漂う空中王城都市……それを見上げながら、

「やっぱり僕の『転移テレポート』でも届かないね」


「じゃあやっぱり、あの街の下に出ている魔法陣を使うしかない?」


「現状ではね」

私の言葉にマリーが頷く。


「では魔法陣を使うとなると、やはりあの人達を……」


「何とかするしかない……かなぁ?」

リアの言葉に続けつつ私が向けた視線の先、そこには魔法陣の周りにいる多くの王国兵がいる。


王城そして城下町への入口警護の為であろう。



「魔法陣に入ってしまえば直ぐに転送されそうだね」

マリーも魔法陣の方に目を向け思案している。



街に入る人達が列を成して警備兵達の検査を受けている。

魔法の国と言うだけあって、魔法を使用して検査している様だ。

簡単な変装等ではバレてしまうだろう。



「よし! 強行突破しよう」

既に王国兵達に手配されているなら、今更強行突破してもそんな代わりはないだろう。


「いいの? 中で動きづらくなるかもだけど」


「でもあの魔法陣に入る手立てが思いつかないし……」

私がそう言った時、ため息を付きながらリアが、


「はぁ……仕方ありませんわね。 本当はやりたくないのですが……私に考えがありますわ」

可愛い顔を嫌そうに歪めてそう告げたのだった。





「次の方、どうぞ」

王国兵の言葉に、列に並んでいた私達は前に進み出る。


「それでは色々確認させて頂きます」

王国兵の言葉に被せるように、


「私達は教会による巡礼一行です。 こちらがその証明書です」

王国兵に一枚の紙を見せるリア。

その姿はいつもの服装では無く、いつもより金の刺繍をあしらった豪華な聖女服だ。


そして言葉遣いもいつもより気を遣い、物腰も柔らかく姿勢もピンと伸ばしている。

しずしずと歩く姿、極上の微笑みを浮かべるその姿はまごうこと無き聖女だろう。


実際紙を差し出された王国兵のみならず、周りの兵士達もその姿に固唾を飲む。


まぁ、顔は美少女で髪は長いストレートの金髪……柔らかな微笑みや物静かな物腰は誰が見ても見惚れるだろう。


……まぁ、見た目では性格までわからないからね。



「こちらを……」

微笑みを浮かべながら紙を見せるリアに、兵士が我に返って慌てて紙を受け取る。


「あ、ああ。 確かに……。 教会の使いは全ての国で通行が許可されている。 通るが良い」


そう言って王国兵達は私達の方も一瞥する。


私達も教会の使いと言う事で修道女の様な服装をしている。

白を基準とした清楚なローブにフード姿で、私やマリー、カンナも同じ様な格好だ。

ちなみにフェンリルは鞄に隠れている。



そして……私は大興奮していた。


(うへへ……カンナの清楚なローブ姿。 堪んないわ)

ちょっと憂いを帯びた表情で、下を向いているカンナ。


本人は女装再びという事で落ち込んでいるだけなのだが……その姿が更に修道女に相応しくしている。


と言うか、私から見たらリアより聖女に見える……このカンナの姿を目に焼き付けて置かなければ……。



「あの……」

通り過ぎて魔法陣に入ろうとしていた私達に、兵士の一人が声を掛けてきた。


リアが表情には出さず緊張した面持ちで、

「はい? なんでしょうか?」


もしかしてバレた?


そんな緊張が一行をよぎる。



「お連れの方から……その……鼻血が」

兵士が私の方を向く。


(え? 私?)

私が慌てて下を見ると……真っ白い純白の修道服に赤い筋や点が入っている。

下を向いた事で更にタタタッと鼻から雫が垂れて服を赤く染める。


(ぐあっ! カンナの姿に興奮し過ぎた!?)



「ああ、何ということでしょう! 長旅で疲れたのだと思います!」

リアが私によりながら少し大袈裟に言い聞かせる。


私の鼻にガーゼを当てつつ……、


(!?)


足! めっちゃ足踏んでる!! 顔は微笑んでるけど私を見る目が笑ってないし! 


「申し訳ございません、早く休ませたいので通過させて頂きますね」

私の腕を掴み引っ張る様に魔法陣に連れて行く。


(痛い! 引っ張りながら私の腕を抓ってるし!)


王国兵達は特に気付かず、

「お気を付けて」


そう告げて見送った。




魔法陣を抜けた先……底は大きな建物の中だった。

こちらでは逆に街を出る人達の検査を行っている様だ。


私達は早々に建物を出る……そして、


「……ライラ姉様? 言いたい事は分かりますわよね!」


うぅ……睨み寄ってくるリアが怖い。

さっきの聖女姿は微塵もないわ。


鬼の様な気迫だ。


「ええと……ごめんなさい」


「全く!」

リアは呆れた様な表情で、


「私が我慢して聖女っぽい行動をしているのに目立つような事を! ……バレたら承知しませんでしたわよ!」


「はい……ごめん」

シュンとする私に、カンナがガーゼを差し出してくる。


ああ……今当てているガーゼは赤く染まりきっていた。


「ひとまず鼻血を止めよう。 このままじゃ目立つから」

マリーが鞄からフェンリルを出してやりながらそう告げる。


「もう! 『回復ヒール』これで良いですわね!」


リアの魔法で鼻血が止まった。


「リア、ありがとう」


「フン! それよりライラ姉様は着替えて下さる? 白い服にその血のあとは目立ちますわ」


「うん、そうだね」


たしかに目立つし、街行く人たちが奇異の目で見てくる。


真っ白い修道服の一行で、血の跡がある服を着ていては尚更だろう。

私はローブを脱いでササッと上着を着替える。

ちなみに下はズボンのままだから問題ない。


着替え終わると今後の行動だが……、


「ひとまず、荷物を降ろそうよ。 宿を探さないと」


マリーの言葉に頷くと私達は宿を探し始めた。


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