第六十六話 勝負行方
私はコロセウムの観客席でマリーの戦いを見つめていた。
マリーは何度も『火炎』と『雷撃』を放っている。
しかもそれらは手を変え品を変えのようにされており、単純な力押しではない。
『転移』を使い、フェンリルの頭上や後方から打たれたり、タイミングを合わせて挟み撃ちにしたり……一つとして同じ方法では魔法を放たない。
しかしそれらすべてをフェンリルは足と尻尾で叩き落としたり弾いたりしていた。
しかもフェンリルは一歩もその場を動いていない。
『転移』
フェンリルの後ろに移動するなり、
『火炎』
火球がフェンリル目掛けて飛んでいく!
フェンリルはそれを尻尾で叩き落そうと……、
「『重力』」
尻尾に強力な重力が掛かり尻尾が床へ落とされる!
ここに来て初めて『重力』を使った。
これを狙っての未使用だったのかもしれない。
そしてついにフェンリルに火球が命中した!!
「やったぁ!」
私は思いがけず立ち上がって叫んでしまった。
「ううん。 まだかもぉ」
カンナの声によくよく見るとフェンリルの体は燃え上がらず、火球はそのまま消えてしまった。
『なるほど、威力はまぁまぁじゃな。 しかしこれではまだ合格をやれぬのう』
まともに食らったにも関わらずダメージが全く入ってない様だ。
『重力』の効果は切れた様で、フェンリルは尻尾を持ちあげてフリフリしている。
「そう……」
マリーは一言呟くと、
「『転移』」
そして闘技場の上から消えた。
「あれ? マリーはどこに??」
私はキョロキョロ見回すが見当たらない。
『ライラ』
カンナが小声で私を呼ぶ。
「どうしたの?」
『あそこ……』
カンナがコソっと指さした方……観客席の隅に隠れる様にマリーがしゃがんでいる。
『何しているんだろう?』
私も小声でカンナに言うと、
『多分、時間稼ぎ? 何か狙っていると思う~』
と、私達が話をした直後!
フェンリルの頭上に大きな隕石が現れる!!
(あれって……『隕石』だ!)
詠唱が必要な魔法だったから身を隠したのね!
流石にあれは足や尻尾で払えないしフェンリルも無傷じゃ済まないはず!
大きな隕石がフェンリルを押しつぶさんと落下してくる。
フェンリルは頭上を向くと……隕石に向かって咆哮した!!
ウオォォォォォォォォォン!!
咆哮は衝撃波となり隕石を粉々に打ち砕いた!!!
「は?」
「え?」
「わわっ!」
私、リア、カンナが唖然とする。
まさかあんな大きな隕石を粉砕するなんて思っても見なかった。
てっきり避けるかと思ったのに……。
『なるほどじゃの。 流石にあれは吾輩も食らうわけにはいかぬからのぅ』
粉々になった隕石がフェンリルに降り注ぎ、フェンリルは犬の様に体をブルブル回して小石や砂を払う。
うーん、フェンリルを倒す方法はないのだろうか?
「『転移』で空高くに移動するとかはだろうだろう?」
私はカンナに言ってみた。
「うーん。 『転移』の範囲から考えると空高くに移動してもフェンリルが怪我することはないかも……」
確か『転移』の距離は30メートルだったかな? フェンリルの大きさを考えると空中に出されても普通に着地しそうだった。
「そもそも無理だと思いますわ」
リアも会話に加わる。
「恐らく『転移』で使用する魔力。 相手の大きさや重量、質量等と飛ばす距離のどちらも比例すると思いますわ」
「もしそうなら、あの大きさは……」
「飛ばすのに大量の魔力を使うはずですわ。 使用後の効果と考えると得策ではないかもしれないし……もしかしたら魔力も足りないかも知れませんわね」
「そ、そっか。 確かにさっき結構魔力使ってたしね」
封印を解く為魔力を結構使ったはずだ。
もしかしたら今の『隕石』が切り札だったかもしれない。
「マリー……」
私は祈る様に両手を握りしめる。
その視線の先には闘技場に『転移』で戻ってきたマリーの姿があった。
『そろそろお主も魔力が底をつく頃じゃろう?』
「……」
『まぁ敵に教えるバカはおらんわな』
マリーは素早く目を走らせる。
「まだ終わってないからね」
フェンリルに告げると……。
「『転移』 『転移』 『転移』」
立て続けに『転移』を唱える!
そしてマリー自体は移動しない。
そして『転移』したものは……。
ゴン!!
フェンリルの頭に四角い石が降って来た!
ゴン!
次は前足に落ちる!
ゴン!
次は後ろ脚に……。
『あいた! いた! ちょちょっ!』
フェンリルから情けない悲鳴が漏れる。
「『転移』 『転移』 『転移』 『転移』」
ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!
フェンリルのあちこちに四角い石が落ちてくる!!
すごく高い所からではなく急に空中に出現する為、足や尻尾で払う事も出来ないし先程の咆哮も使えない。
そしてそれなりに大きな石なので重量もあって、フェンリルも痛そうだ。
『きゃう! 待って、待つのじゃ! 鼻先はやめてぇ~』
どんどん情けない声になっていく。
よくよく聞くと涙声に聞こえる気がする……。
マリーは闘技場を構築している石を『転移』で落としていた。
重量はあるが距離をそんなにとる訳じゃない為、残った魔力で何とか飛ばすことが出来たのだ。
マリーが魔法を止めると、
『うぅ……久しぶりに痛い思いをしたのじゃ。 お主結構容赦ないのぅ』
「見た所頑丈そうだから……」
『まぁ、そうではあるんじゃが……』
尻尾が項垂れる。
『お主の力認めるのじゃ。 魔力も知識も知恵も十分。 後は心じゃが……』
フェンリルは言葉を切って観客席のライラ達を見る。
『まぁお主やお主の仲間達の様子を見れば伝わるしのぅ。 お主を心配してずっと見守っておるし』
そして今度はマリーを見る。
『お主も……吾輩が攻撃した時を考えて、あ奴らへの射角にかぶらない様にしておったしのぅ』
「!」
マリーはバツが悪そうに顔をそむける。
まさか気付かれているとは思っていなかった。
そして気付いた……このフェンリルの言葉ってみんなにも聞こえているんじゃ……。
気付いてバッと振り返った先、ニコニコ笑顔のカンナと、ニヤニヤしているライラとリアが目に入る。
「……余計な事を……」
マリーは憎たらし気にフェンリルを睨み、
『吾輩ばかり痛かったし……ちょっとした仕返しぐらいええじゃろう?』
フェンリルは素知らぬ顔でブルンと尻尾を一振りしたのだった。




