第六十二話 倍速魔法
シバに向き合った私は再度呼吸を整える。
「『倍速』」
シバが一言呟く……。
私は一瞬体を固くして身構える……しかし何も起きた様子はない。
(魔法……かと思ったけど、何も起きない?)
警戒をしつつ、
「神速!」
周りの時間がゆっくりと流れる。
私はシバとの間合いを詰めて、
「華月流 一輪……」
「『激痛』」
突如私の体を激しい痛みが走り抜ける!!
「かはっ!」
余りの痛みに肺から空気が押し出され、剣が手から滑り落ち……私はその場に突っ伏した!
痛みは一瞬だったが、それでも体中から悲鳴が上がる。
(な、なにが……)
剣を拾い上げつつ体を起こしてシバに目を向けると……ニヤニヤを薄気味悪い笑顔を浮かべている。
(そ、そんな! 神速中なのに動きが……)
神速中にも関わらずシバは普通に動いている。
再度杖を私に向けると、
「『突風』」
いきなり風が巻き起こり私は木の葉の様に吹き飛ばされた!!
バン!!
「つぅ……」
一瞬目の前が暗くなる!!
……必死に首を振って意識を覚醒させた。
どうやら……木に叩きつけられたらしい。
体中に痛みが走る……どこかの骨が折れたかもしれない。
私は剣を杖代わりに必死に体を起こす。
状況を見るに神速は切れたようで時間の流れは通常通りだ。
呼吸が乱れた為だろう。
「おやおや? もう終わりですか? 威勢だけでしたね~勢いがあったのは」
こちらに向かって歩み寄るシバ。
その表情は余裕の笑みを浮かべている。
私は痛みを押さえつけて立ち上がると、
(呼吸を整えて……状況は見極めるのよ)
体は……手足は折れていない様だ、恐らく左肩甲骨あたりと肋骨部分だろうか?
そちらから激痛が走る。
神速は……呼吸を落ち着かせれば使える様だ。
(神速中にも関わらず動いていたのは……さっきの魔法?)
『倍速』と言っていた……何も起こっていないと思っていたが、早さを上げる魔法だったようね……でも。
あの魔法は時間が短いのか、今のシバは普通に見える……『倍速』の効果中なら今の私には先程の言葉が早口で聞こえるだろう。
「立ってるのも必死そうですね。 今楽にしてあげましょうか」
シバが杖を構える!
私は……待った。
ここで仕掛けるとまた先程の『激痛』とやらを使われる可能性がある。
痛みはあるがあれでは止めを刺せない。
止めを刺しに来るなら……攻撃魔法で来るはず。
「さようなら。 『火炎』」
シバの杖から巨大な火球が放たれる!
普通の『火炎』の二倍の大きさはありそうだ。
だけど……私にとっては狙い通り!!
シバが魔法を唱えるとほぼ同時に、
「神速!」
シバも慌てて『倍速』を唱えようとする。
ゆっくりと流れる時間の中、私に向かって一抱えほどもある特大の火球が迫って来る!
しかしこれを躱していてはシバが『倍速』を唱え終わり、『激痛』が飛んで来るだろう。
私は剣を振りあげ、
「華月流 三斬華!!」
火球を……斬った!!
私の剣……ミスリルソードにより火球は真っ二つに割れる!!
割れた火球の先に、『倍速』を詠唱しているシバが見えた!
私はそのまま剣を一周させて……。
「華月流 三日月!!」
再び振り上げられた剣がシバの体を縦一文字に切り裂いた!!
神速が切れる。
シバは……その動きを止めていた。
そのままゆっくりと地面に倒れ……その体が二つに分かれる。
……これで回復魔法を使う事も出来ないだろう。
私はゆっくりと息を吐きだし……脇腹に激痛が走ってその場にうずくまる。
「『回復』」
『回復』の言葉に慌てて顔を上げるが……それはリアだった。
私の体から痛みが消えていく。
うずくまったままの私を見下ろしながら、
「よくやりましたわ。 下種に相応しい最後でしたわね。 ライラ姉様にはご褒美として『回復』を差し上げますわ」
聖女とは思えないセリフについ笑いだしそうになる。
立ち上がりながら笑いがバレないように顔を伏せるが、
「何笑っておりますの!?」
あら? 笑いを堪えていたけどバレちゃったようだ。
リアがむくれて頬を膨らます……。
「ふぅ~疲れちゃったよ」
そこへマリーが杖をブンブン振り回しながら歩いて来た。
「マリー! そっちは大丈夫だった?」
「まぁね。 あいつら頭弱いね。 あれで『魔法兵団』なんて良く名乗れるよ」
やれやれと首を振っている。
チラリと見ると、十五、六人の兵士が全員地面に突っ伏している。
「さすがマリー!」
いつの間に来たのかカンナがマリーに駆け寄っている。
「ふふん、そうでしょ? これからもカンナは僕が守るからね!」
「ありがとう! 心強いよ!」
嬉しそうにカンナがマリーに答える。
うぅ……私も頑張ったのにぃ……。
いやいや、私もカンナにアピールするぞ!
大人げないけど、カンナに褒められたいもんね。
私はカンナにすり寄って、
「カン……」
「ライラ姉様、レムルス達の様子を見に行きません事?」
リアから提案される。
(なんかすっごいタイミングだったけど、これ狙ってないわよね?)
でも確かに……アザミがどうなったかも知りたいし、レムルス達も気に病んでいるはず。
『あれは王国兵が悪いわけであってレムルス達のせいじゃない。 気にしないで』と一刻も早く伝えたかった。
「とりあえず街へ戻ろう。 リアの言う通りレムルス達に言葉を掛けて……」
これ以上ユーフォルビアの街に滞在するのは難しいだろう。
スノーフレーク王国軍の魔法兵団も戻って来てないと分かるのも時間の問題だし、そうなればもっと兵が押寄せてくるに違いない。
動けなくなる前にスノーランドを目指す方が賢明そうだった。
「スノーランドを目指しましょう。 女王様に一言言わないと気が済まないわ!」
私の言葉にみんな頷くのだった。




