第六十話 卑策兵団
深夜……ユーフォルビアの一角で暗闇に紛れて蠢く影があった。
数人の影がごそごそと動く。
そして街にある街灯……魔法によるもので、その光に照らされてライラの顔が映し出される。
私達はアザミを助ける為、魔族に囚われた治癒術師を助けに行くところだった。
……ただ全ての門に兵士が配置されており通ることが出来ない。
そこでマリーの『転移』で塀の向こう側へ行くところだった。
まず転移先を見る為にマリーが飛んで……戻ってきて私、カンナ、リア、マリーの順に街の外へ脱出する。
塀の向こうは各門からも離れており人影も明かりもない。
……まぁ暗闇のおかげで怖がりなカンナが私にしがみついていて、私は幸せいっぱいだけどね!!
カンナの手を握ってあげて安心させつつ私が幸せに浸れるという……何という『一石二鳥』。
エへへ……カンナの手暖かいなぁ~。 子供って体温高いよね、あんな感じ。
カンナ本人が聞いたら、『僕は大人です!』って言いそうだけど。
幸せに浸っていたら、いつの間にかレムルス達との合流地点に着いていた。
ユーファルビアから北東に進んだ場所。
ここは通称『バラバラの森』と言われているらしい。
名前の由来は色々あって、『みんながはぐれてバラバラになる』だとか『魔族にバラバラにされる』だとか『入った者の秘密がバレる』などがあるらしい。
そうは言うものの、この森の中をスノーランドに続く道が通っており、みな普通に使っている道ではあった。
……今回運悪く魔族が出て治癒術師が襲われたようだけど。
「行こうか」
レムルスが歩き出し、私達も歩いて行く。
……?
なんか違和感を感じる。
レムルスの表情はさらに疲れたように……そして暗い。
驕る訳じゃないけど、前の様に私と一緒に歩けば話しかけたりしてきそうだがそれもない。
……アザミさんを心配してそれどころじゃないのかな?
私はそう結論付けてレムルスに続いて歩き出した。
レムルス、フローラ、私達の順に歩いて行く。
そうして歩くこと十分ぐらいだろうか?
森の中の道を進んでいるうち少し開けた場所に出た。
「止まって!」
レムルスが鋭く声を上げる。
私達がその言葉に足を止めると……レムルスとフローラが様子を伺う様に前に進んで行き……。
二人してクルリと振り返ってこちらを見る。
その表情は……二人して今にも泣きだしそうに見えるほど辛そうだった。
「ど、どうしたの?」
私が尋ねると同時に……周りから何者かが動く音が聞こえた。
ザザッ
ザッ
その瞬間辺りから何人もの人が現れ、その姿は……。
「スノーフレーク王国兵!」
それは王国兵達だった。
私達の周りを逃がさぬように囲んでいく。
「……どういう事?」
マリーが静かに、しかし怒りを押し殺した声でレムルスに尋ねる。
「っ! 本当に……すまない!!!」
レムルスは顔を歪めると頭を深く深く下げる。
そしてそれは隣にいるフローラもそうだった。
そして理由を話す為かレムルスが口を開きかけたその時、
「いや~。 ご苦労様ですね~」
背の高いひょろっとした男が兵士達の中から現れた。
背は2メートルぐらいありそうだが、体は細く手足も凄く長い。
顔も縦長で目も切れ長……何もかも細長い男だった。
鼻の下にはカイゼル髭がピンと跳ねる様に整えられている。
ひょろ長い男性は、私達の……いや、カンナの前に進み出ると優雅に会釈を行う。
「お初にお目にかかります。 ストケシア王国カンナ王子。 私はスノーフレーク王国の魔法兵団を束ねておりますシバと言うものです。 以後よしなに……」
カンナはオドオドしつつもコクンと頷き、
「宜しくお願いします」
シバは大げさに後ろを振り返ると、
「冒険者レムルス。 約束した通り治癒術師をお前に引き渡しましょう。 その仲間とやらを助けるがいいです」
(そう言う事か!)
卑怯にも王国兵達は治癒術師を盾にレムルスを使って私達を嵌めたのだ!
恐らく私達とレムルス達が一緒にいるなどの情報を知ったのであろう。
「下種な人達ですわね……」
リアも気付いたのかシバに向かって毒を吐く。
私も同じ気持ちだ……何て卑怯な奴ら!
「本当にすまない!!」
レムルスがこれでもかと言わんばかりに頭を下げる。
「レムルス……」
私が声を掛けるとビクッとする。
その姿は凄く小さく見えた。
私はそんな彼に向かって穏やかに話しかけた。
「貴方は悪くないわ。 仲間の命がかかっているんですもの。 それより一刻も早くアザミさんを」
レムルスは私の言葉にハッとして顔を上げる。
その目は涙であふれていた。
すまない……レムルスとフローラは何度も繰り返し謝罪しながらその場を去っていく。
彼等も仲間を救うのに必死なのだ……私達に背を向けると駆け出して行った。
(レムルスも苦しんだに違いない……きっと私も同じ立場なら……)
だからこそ彼は責められない。 そして悪いのは……。
私はシバを睨みつける。
しかしシバは涼しい顔で、
「カンナ王子、私達と王城へ同行して頂きます」
カンナが私達に縋るような目を向ける。
私はその視線を受けて、
「悪いけどそのお誘いは拒否させてもらうわ。 私達は自分の足で王城へ行かせてもらう」
カンナを背後に回して庇う様に立つと、
「そして何より……私は貴方達のやり口が気に食わない!」
私の言葉にリアとマリーも頷いてそれぞれ杖を構えた。
私の叩きつけた言葉を聞いて、シバがニィと口を歪め目を細める。
「では、少し遊んで差し上げましょう。 その後にでも無理矢理お連れさせて頂きます」
そう告げるとその長い手を大仰に広げたのだった。




