第五十九話 救援依頼
ユーフォルビアの街に戻って三日経った。
あれから私達は体を休め体調を整えていた。
と言うのも、実はああ見えてリアはかなり無理してらしく、宿に着くなり倒れこんでしまったのだ。
ほんっと! 素直に『きつい』とか『苦しい』とか言えばいいのに!
宿に着くなり意識失って倒れたからビックリしたわよ。
……まぁ私のせいなんだけどね。
私を助ける為に使ってくれた『聖光障壁』。
あれがかなり体に負担が掛かるみたい。
リンドウの強力な攻撃すら食い止めたんだからかなり強力な魔法なんだけど……やっぱりその分魔力とかも使うみたい。
口は悪いけど……無理してまで私を助けてくれた事とか感謝しかない。
……これでもう少し素直なら可愛い聖女様なんだけどなぁ~。
そんな訳で私達は情報を集めつつ宿に籠っていた。
ちなみにリンドウについての情報はユーフォルビアでは得られなかった。
そもそもこの街に図書館はなく本と言えば書店しかなかったが、そこにはほとんど魔導書関係しか置いていなかった。
やはり王立図書館に行くしかない様だ。
そしてもう一つ……宿に籠っていた理由は……。
バタン
扉を閉める音がしてマリーが外から帰って来た。
手にはいくつかの魔導書を持っている。
どうやら買い物をしてきたらしい。
帰って来るなり、
「どこもかしこも兵士だらけだ。 全く……まるで戦争にでも備えているみたいだよ」
椅子に腰を降ろす。
何処から情報がいったのか……私達がユーフォルビアの街にいることを知ったスノーフレークの兵士が、この街を囲い始めたのだ。
幸い情報だけで、私達の顔は割れていない様だ。
なんとか出かけることは出来るが……さすがに全員で出かけるとバレてしまう恐れがある。
おかげで個人個人で外出する必要があった。
私は部屋の窓から外に目を向ける。
巡回らしき兵士が目に映る。
各門だけではなく、街の中も兵士だらけだ……。
コンコン
不意に部屋のドアがノックされる。
振り返るとマリーはすでに本の世界に旅立っている様だ。
カンナはベッドでスヤスヤ眠っており、リアは外出中で部屋にはいない。
「はい、どちら様ですか?」
兵士による手入れ……はないだろうが、一応声を掛ける。
「僕だよ。 レムルスだ」
あれから暫く会っていなかったレムルスの声がドア越しに聞こえる。
声だけ聴くと少し疲れている様に聞き取れた。
私がドアを開けると……そこには私に向かって微笑む……でもやはり疲れたようなレムルスの姿があった。
「久しぶりだね、ライラ。 元気していた?」
「ええ。 と言うか、貴方の方が疲れてるんじゃない?」
「そうか、そう見えちゃうのか。 ……中に入っても良いかな?」
「どうぞ」
私が場所を譲ると部屋に入ってくる。
寝ているカンナを見て声のトーンを落としつつマリーに挨拶していた。
「紅茶ぐらいしかないけど……」
レムルスに席を勧めて私がカップの準備をしながら言うと、嬉しそうな顔をして、
「いやいや十分だよ。 ライラが入れてくれるなら何でも好きになるさ」
(じゃあ、今度から水でいいかしら?)
とは思ったが、流石に私はそこまで子供じゃないから口には出さない。
……でも思った時点で子供なのかしら?
「はい、どうぞ」
レムルスと自分の前に紅茶を置いて席に着く。
「ありがとう」
お礼を言って一口すすると、「何てうまいんだ!」と声を上げた。
……そこら辺に売ってるような安い紅茶なんだけど。
レムルスはカップを置くと座り直して話始めた。
「まずは君達の事なんだけど……気付いていると思うけど国の兵士たちが探している。 理由はとくに明かされていないけど……まぁ君達が悪いことをするようには見えないし、間違いなく政治がらみとかなんだろうね」
む、結構鋭いわね。
「すでに街の門全てに兵が置かれて街中も巡回を始めている。 もしかしたらその内全ての宿を調べだすかもしれない。 その前に街を出た方が良いかもね」
「その時は……強行突破かしら?」
ユーフォルビアの街は高い塀に囲まれている。
塀を登って出ることは厳しいだろう。
「う~ん、仮にも王国の兵士だし、暴れると逆に国中に指名手配されてしまうかもしれない。 強行突破はお勧めしないな」
「た、確かに……」
国境の兵士ともそんなやり取りをした覚えがあった。
「……街を出るなら僕に任せて」
本を捲りつつもマリーが会話に参加する。
一応耳では聞いていたらしい。
「僕には『転移』があるからね」
「あ、そっか」
距離は近くても見えない場所にも飛べる利点がある。
塀の内から外に飛ぶぐらいは問題ないだろう。
「なるほどね。 それなら街から出るのは大丈夫そうだね」
レムルスがマリーに頷くが、マリーの視線は本に向けられている。
「それじゃあ、次は僕達の事」
レムルスはカップに口を付け紅茶を一口飲むと、
「結論から言うとアザミの呪いが分かった。 『病死』だ」
「『病死』?」
「ああ、高熱状態が一週間ほど続き、徐々に熱が上がり続けて最後は体中の臓器がやられてしまうらしい」
「ええ! 一週間って……」
すでにあれから三日経っている。
「ああ、今冒険者ギルド経由で治癒術師を依頼中だ。 一応連絡では明日来るらしい」
「ああ~、よ、良かった」
私はホッとする。
いくら睨まれたりしていても一緒に戦った仲、助かることに安堵した。
「……だったんだが」
「うぇ?」
急にレムルスの声のトーンが下がり、私は思わず変な声を上げてしまう。
「ユーフォルビアの街から北東……スノーランドから向かっていた治癒術師の一行が魔族に襲われたらしくて……」
「ええ!」
「なんとか撃退はしたのだが……治癒術師が攫われてしまったらしいんだ」
何という展開……喜んだり驚いたりがっかりしたりと忙しい。
「幸い護衛の一人が魔族達の後を付けていて治癒術師がいる場所までは判明している。 そこで冒険者ギルドに救助の依頼が発生したんだ」
冒険者ギルドの依頼で呼んでいた治癒術師を助ける為に冒険者ギルドに依頼が来るなんて、何と言っていいか……。
「勿論僕とフローラは行く。 依頼達成が遅くなればアザミは助からない。 だけどもし僕達二人だけなら流石に厳しいと思う。 そこで」
私の目を見つめる……レムルスの眼差しは真っ直ぐだ。
「ライラ達にも手伝ってもらいたい……いや、助けてほしい。 頼む」
レムルスが頭を下げる。
流石にこれを断るつもりは私にはない。
まぁみんなに聞いてもカンナの一言で助けることになるのは分かっているしね。
私は即答した。
「もちろん! 早くアザミさんを助けよう!」




