第五十三話 勝負開始
男達との戦いが終わった後、私はレムルスに話しかけた。
「さっきはありがとう。 それでね……今日私達が冒険者ギルドに来たのは貴方達に用事があったからなの」
私の言葉にレムルスは嬉しそうな表情を見せると、
「もしかしてそれって僕に……」
「ああ、ごめんなさい! そうじゃないの」
あら?がっかりしたみたい……。
「貴方のパーティに派手な服装の子が居るでしょ?」
「アザミの事かな?」
「アザミさんって言うのね。 ごめんなさい、名前知らなくて」
「それは良いけど……アザミがどうかした?」
「ちょっと手合わせお願いしたいの」
「君と?」
「うん。 お願い……できないかな?」
レムルスは少し考えていたが……不意に後ろを振り返ると、
「だ、そうだけど? どうするアザミ」
「!?」
いつの間にかそこには彼女が立っていた。
いつも遠目だから分かりにくかったが、近くで見るとなかなか可愛い顔立ちをしている。
髪は茶色で短いポニテ、瞳は黒色。
……黒色の瞳は東邦の出に多かったはず。
実際服装も東邦の出で立ちであるが、色が赤やらピンクと派手であった。
そしてアザミは……私を軽く睨んでいる。
レムルスが居なければ全力で睨まれているだろう。
私は何もしてないんだけどなぁ……。
アザミはレムルスに視線を移すと(移した途端優しい目つきになったし!)、
「私は良いわよ、ただし条件があるわ」
「何?」
「私が勝ったら二度とレムルスに近付かないで!」
レムルスが『え?』みたいな顔で見ている。
「分かったわ」
私の即答にレムルスが『ええっ?』みたいな顔を向ける。
「いつやる?」
私が尋ねると、
「少し時間をおきましょ? 貴方今戦ったばかりでしょうし」
あら?少しは優しいのかしら……と思ったが、
「負けた時、それを言い訳にされてもね」
嘲る様な表情を見せる。
まぁ、私としては戦ってくれるなら良いかな?
レムルスに会う会わないはどちらでもいいし。
「じゃあ今日の夕方。 街の外で」
私の言葉にアザミが頷いた。
こうしてアザミとの勝負を取り付けたのだった。
……あ、冒険者ギルドの人に夕方の件キャンセル入れなきゃ。
そして夕方、街の外。
私と見学に来たカンナ達の四人はアザミが来るのを待っていた。
「ライラ、頑張ってね!」
カンナがぎゅっと握りこぶしを作って応援してくれる。
「ありがとう、カンナ。 カンナが応援してくれるなら百人力ですよ!」
私は笑顔でカンナに答える。
実際カンナに応援されると、こう、やる気っていうの?グッと力が入る。
「待たせたわね」
いつの間にかアザミが近くに立っている。
「!」
私の耳でも音を拾えなかった。
「それじゃあさっさとやりましょうか?」
アザミが背中に背負っている剣……アレは刀?だったかな?……を抜いた。
でもかなり短い気がする。
刃渡り60cm程度だろうか?
アザミを観察しつつ、私もカンナ達から離れる。
そしてアザミと向かい合って剣を抜いた。
青白い刀身が夕陽をキラリと反射する。
「審判はいらないわ、行くわよ!」
言うなりアザミがこちらに向かってきた!
走りながら懐に手を入れ……こちらに何かを投げつけた!!
「神速!」
感覚が切り替わる……ゆっくりした時間の中、アザミが投げつけた物……クナイがこちらに向かって飛来する!
私はそれを剣で打ち払った!
打払いで剣が流れた所に、アザミが刀で斬りつけて来る!
それを後ろに下がって躱しつつ、私も剣で斬りつけ返す。
神速中の斬撃だったが……アザミは攻撃が外れたと分かると直ぐに後退していた……私の斬撃は空を切った!
神速が切れる。
その時にはお互い仕掛ける前の間合いに戻っていた。
「……あなた、やっぱり神速が使えるのね」
「……」
(神速の事を知っている……)
私に伝承されている華月流は、父ハーデンが東邦にいる時に習得したと聞いている。
神速もその時に。
つまり私の技は東邦では知られているのかも知れない。
ハーデンが編み出した技もあるから全てでは無いだろうが……。
少なくともアザミは神速を知っている。
「まぁ、良いわ。 続けましょうか」
お互いに武器を構える。
……今度はこっちから!
「神速!」
私は神速を発動させてアザミに駆け寄る!
「華月流 奥義之壱 百華龍乱!」
私の全力を叩き込む!!
アザミとすれ違いざまに斬りつける!
キーン!
刀で受けられ、金属音が間延びする。
神速の影響で音も伸びて聞こえるのだ。
振り向きざまにニ撃目!
またしても受けられる!
三撃目……受けられなかったようで右腕を浅く切り裂く!
四撃目! 五撃目……そして最後に大きく斬りつける!!
キーン!
最後のは防がれた!
一旦離れて……神速が切れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が乱れる。
私は無言でアザミを見つめた。
アザミの体の数か所から血飛沫が上がる。
まるで咲き乱れる華の様に。
(……だけど)
アザミは一瞬グラリと体を傾けたものの、直ぐに体勢を整え刀を構えた。
フラついてもいない。
(倒せなかった! 斬撃の半分近くが防がれた!)
私の体に疲労感がのしかかる。
奥義を使った負荷によるものだ。
暫く神速は使えないだろう。
そしてアザミはそれを把握しているのか、
「耐えたわ……これで貴方は暫く全力を出せなさそうね」
体から血を流しつつも、私に向かって不敵に微笑んだのだった。




