第五十二話 百華龍乱
私が冒険者ギルドの外に出ると、先に出ていた男二人が体をほぐしている。
こういう準備を行う等、戦いに対して余念がない所などは流石冒険者だろう。
ただの筋肉質のナンパ野郎ではないようだ。
私は彼らから少し離れた場所に移動して向き直る。
私の後を追う様にカンナ達や他の冒険者達がギルドから出て来た。
カンナ達は心配してだろうが、他の冒険者は見学か余興の様な感覚だろう。
実際興味深そうに見ている者やニヤニヤしながら見ている者が見受けられる。
「ライラ」
不意にリアから声が掛かる。
「なに?」
「あの失礼極まりない下品な筋肉だるまに思いっきり躾てあげなさい」
かなりお怒りの様だ。
「最悪、嫌ですけど回復もありますわ。 腕の一本や二本落としても構いません」
(こら、聖女!)
心で突っ込む。
「おい、そろそろいいかよ?」
男の一人が剣を肩に担いで声を掛けて来た。
もう一人の方は大きな両刃の斧を担いでいる。
(片手剣と両手斧……か)
片手剣は私と同じ。 両手斧は身軽ではなさそうだが威力がありそうだ。
「では、僕が審判をしよう」
レムルスが私達の間に入り、
「殺さない程度なら全力で構わない。 お互いにそれで良いかな?」
「分かったわ」
「ああ」
「善処してやるよ」
確認をするとレムルスが私達の間から離れ、
「では、始めてくれたまえ」
私は剣を抜き放つ。
鈍い輝きを持つ剣……ミスリルソードと言うらしい……を構えた。
男達はそんな私を見ながら不意に魔法を唱える。
「『筋力上昇』、『敏捷上昇』、『防御』、『抵抗上昇』」
「……強化魔法」
私が呟くと、
「別に構わねーだろ? 魔法も実力のうちだぜ?」
私は無言で剣を構える。
(あの時……竜人に敗れた時、私は怠慢だった)
剣を握る手に力が入る。
(実力の分からない相手に……驕りがあった)
未だに後悔する。
……なぜあの時『神速』を使って技を打ち込まなかったのか。
それはきっと『私なら勝てる』『相手に当てられる』『相手の攻撃を躱せる』……そんな油断があったのだ。
(だから……)
相手は強化魔法を掛け終わったようだ……こちらに向かって武器を構えた。
(最初から全力で!)
「神速!」
私以外の動きが遅くなり……私はその中を全速力で駆ける!!
「華月流 奥義乃壱 百華龍乱」
剣の男……そいつにすれ違いざま切りつけ……振り返ると同時に一歩踏み出し、またしてもすれ違いざま切りつけ……振り返りつつ一歩踏み出し切りつけ……。
振り返り際に踏み出すことで男とすれ違う……その度に斬りつける。
それを男を中心に回りながら何度も行う!!
そして最後に大きく斬りつけて離れた!!
神速が切れ……男の体中から血飛沫が吹きあがる!!
「は? はぁぁぁ?? 何じゃこりゃぁ!!!」
剣を持った男が唖然としながら己の体を見つめ……そのまま前のめりに地面に突っ伏した!!
神速中の私を目で追い切れなかったようだ。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い……短時間に激しい動きを行う奥義は、体にかなりの負荷をかけてしまう。
「て、てめぇ!!」
両手斧を持った男がいきり立って私に襲い掛かる。
(暫く神速は使えない……)
体への負荷が酷い……息もまだ整っていない。
斧を躱そうと後ろに下がって距離を取る。
「逃がすか!!」
男が追いすがりつつ斧を振り回す。
「食らえ!! 『旋回斬』」
男は自らを軸に回転しながら斧を振り回す……まるで独楽の様だ。
そのまま私に迫って来る!!
(……回転の速度が上がっている?)
回転が徐々に速くなりつつある……遠心力が乗ってどんどん増しているようだ。
(この状態では剣で受けきれない)
剣を合わせたとたん弾き飛ばされるだろう。
(……何か手は?)
距離を取りつつ様子を伺う。
両手斧の男は回転しながらも私を追って来た!!
「逃げるんじゃねーよ!」
(相手の勢いが強い……少し押し殺せれば)
神速はまだ使えないけど……これで……。
私は相手に向き直ると、
「華月流 三斬華!」
重撃が相手とぶつかり合って……弾かれる!!
(駄目! 変わんない!!)
勢いは弱くなっていない。
三斬華すら簡単に弾かれた。
「ばかめ! そんなちんけな攻撃など無駄だ!!」
私は距離を取りつつ必死に考える。
回転する物の弱点は? 弱点……弱点……。
(そうか!!)
私は少し距離を取ると、地面にミスリルソードを突き刺した!!
柄が私の腰に来るぐらいの位置だ。
「剣を突き立てて何をする気だ!!」
相手が回転しながら迫って来る!!
私は迫って来る相手を見ながらタイミングを図ると……。
「やぁぁぁぁ!!」
剣の柄を踏み台に高く跳躍する!!!
「なに!」
「回転の弱点はぁ!」
腰にある、もう一本の剣を抜く。
青い刀身が陽光を受けてキラリと輝いた!
「ここだぁぁ!!」
剣の平で……回転の中心にある男の頭をぶっ叩いた!!!
「がっ!」
男からくぐもった声が漏れ……男は回転しながらその場で動きを止める。
そして徐々に回転の速度が下がっていき、最終的には斧に振り回される形で地面をこすりながら倒れ伏した。
「勝負ありのようだね」
レムルスが告げると見ていた観客達から歓声が上がる。
「すげーぞ、ねーちゃん」
「良くやった!」
「楽しいものを見させてもらったぜ」
カンナ達も私に駆け寄ってくると、
「ライラかっこよかった!」
「まぁ、良かったんじゃない?」
「甘いですわ! もっと切り刻んでよろしかったのに……」
(カンナから格好良いとか言われるとめちゃくちゃ嬉しい〜!)
「ありがとう。 みんな」
私は満面の笑みでそれらに応えたのだった。
お読み下さりありがとうございます。
今回なかなか分かり辛い場面もあったかも知れません。
ご了承下さい。




