第四十六話 異常遭遇
スノーフレークは魔法の国である。
そこに住む人々も魔法を扱う者が多い。
しかしそれはそこに住む魔族達もそうだった。
「おわっと!」
慌ててしゃがんだ私の真上を火球が通り過ぎた!
ギャギャ!
まさか躱されると思ってなかったのか、赤い腰布を巻いたゴブリンが奇声を上げる!
この国ではゴブリンですら魔法を使うらしい。
ちなみに魔法を使うゴブリンはゴブリンメイジと総称される。
私は体勢を立て直しつつゴブリンメイジに駆け寄ると、その胸目掛けて剣を突き出す!!
「華月流 一輪刺し!」
吸い込まれる様に胸に刃が突き刺さると、ゴブリンメイジが断末魔を上げて後ろに倒れこんだ!
それを見た他のゴブリンメイジ達は私に向かって魔法を放つ!
私を危険と認識したようだ。
「神速!」
私は飛んで来る火球や雷を横に走りながら躱していく……神速のおかげで直線的な攻撃を易々躱すことが出来た。
ゴブリンメイジは魔法職になっても頭が悪いらしく、常に攻撃魔法で襲ってきて搦手は来ない。
おかげで非常にやりやすかった。
どちらかと言えば、この前の様な『重力』等の方が私にとってはかなり厄介だ。
私に向かってゴブリンメイジが魔法を唱えてくるので、そこを狙ったマリーの魔法がさく裂する!
火球がゴブリンメイジ二体を巻き込んで燃え上がり、雷がゴブリンメイジ数体の体を貫いていった。
そうして十匹近くいたゴブリンメイジ達を全滅させたのだった。
「ふぅ……やれやれだわ」
私はため息と共に額の汗を拭う。
髪の毛がおでこに張り付いて気持ちが悪い。
髪をかき上げると……なんか指先がゴワゴワした部分に触れた。
「ああっ! 髪の毛ちょっと焦げてる!!」
ただでさえ天パでウェーブが掛かっている髪……その先端がチリチリになっている。
(うぅ……何てこと)
「あ、リア! 髪の毛! これ治せない? 『回復』とかで」
リアは面倒くさそうに私を見ると、
「……お似合いだから良いのではないでしょうか?」
どう見ても『似合っているから』ではなく『面倒だから』に見える返答が返って来た。
「ぅぅ、そんな……」
髪は女の命って言うんだぞー! ……まぁ確かに日頃からそこまでは気にしてないけどさ。
私は諦めて肩を落とした。
村を出て三日目……私達はスノーフレークの首都スノーランドを目指して足を進めていた。
道は普通の街道でそこまで歩きにくい訳でもない。
街道沿いは村を出てからずっと草原が続いており涼しい風が吹きピクニック気分で歩ける。
……ただし何故か魔族が非常に多く幾度となく襲われていた。
今ので計7回目の襲撃だ……ちょっと異常に思える。
「ライラ! 前から……」
カンナの一言で街道の先を見ると、ゴブリンの集団がこっちに向かって走ってきていた。
(うぇぇ……またなの?)
私はげんなりしながらデュランダルを抜き放った……。
その日の夜。
涼しい風が冷たく感じられ、私達は食事を終えると早々テントにもぐりこんでいた。
私は寝袋の上に寝っ転がりながら、
「なんか魔族多くない? スノーフレークってこんなに魔族がいるの?」
本に目を落としていたマリーがチラリと私を見て、
「僕が聞いていた話ではそんな事ないと思うけど……確かに遭遇率が異常だよね」
「そうですわね……こんなに魔族がいるのであればスノーフレークの兵達は無能なのではなくて?」
聖書を前に祈りを捧げていたリアもこちらに向き直り話に参加する。
祈りは終わったのだろうか?
「でも……あの魔族さん達少し様子変だったかも?」
カンナが考え込みながら呟く。
「何か変だった?」
私気付かなかったけど……。
「うん……なんか追われている様な……そんな感じだったよ?」
「そうだね。 それは僕も感じた」
「私もですわ」
え、私以外気付いていたの? ほんとに?
ううむ……私そんなに鈍感かしら?
「まぁでも向かってくる以上は倒さないと僕達が襲われるからね」
マリーが結論付けて再度本に目を落とす。
「まぁその時はライラ姉様が馬車馬のように頑張ってくれれば済む事ですわ」
リアも再度祈りを捧げ始める……やっぱり途中だったのね。
っていうか、
「ば、馬車馬って……」
そんな私にカンナが、
「あ、えと、ライラ! 僕馬も好きだから!!」
カンナ……フォロー有難いけど、それフォローの仕方が違うのよ。
(そう言えば……)
ふと気になって私はマリーに、
「マリーっていつも何の本読んでいるの?」
マリーは時間があれば本を読んでいる。
少し気になって聞いてみた。
「ん? うん……」
本を読みながら生半可な返事が返ってくる……集中していてあまり聞こえてないらしい。
チラリと見ると何やら魔法書の様だ。
この世界では魔法書を読んで、書かれている魔法を繰り返し練習することで魔法を習得出来る。
ある日突然覚えるとかそう言った事はない。
マリーも色々魔法を覚える為に影で努力しているのだろう。
……どこで『隕石』練習したんだろう……。
と、テントの中に急に声が響いた!
「魔族が来るよ! 魔族近いよ!」
四人の誰でもない声、しかもテントの中で声がする。
声だけ聴くと可愛らしい声だが姿が見えないので只々不気味だ。
「え、なに!? これ何の声?」
「な、なんですの? どこから?」
「何か可愛い声だけど……」
私達が狼狽えていると、マリーがポケットから人形を出した。
物語で出てくるような妖精の姿を模した人形だ。
そこから声がしている。
「僕が張った『警報』の範囲に魔族が入ったみたい。 入るとこれが教えてくれる様になっているから」
「そ、そうなのね」
私は声の正体がわかって胸を撫でおろす。
「びっくりしたわ。 まぁ正体がわかってよかっ……痛ったぁ!!」
いきなりリアにはたかれた!!
「何ゆっくりしてますの! 魔族が来ているって事ですわよ!?」
「あ……」
そうだ! そうだった!
私は鞘に入ったデュランダルを掴むとテントの外に飛び出した!
私はテントの側に立ち辺りを見回す。
風は冷たく吹きすさび、月も星も出ていない真っ暗な夜。
その暗闇の中、真っ赤に光る二つの眼が私を睨んでいた。




