第四十五話 裏庭密談
「パパぁ!!」
助けられた子供が泣きじゃくりながら父親の元に走り寄る!
「コリー!!」
父親はしゃがんで娘を迎えると力いっぱい抱きしめた。
父親の方も涙を流して喜んでいる。
(良かった無事で……)
私はその様子を見ながらほっと息を吐く。
そう言えば……リアは大丈夫だろうか? なんか苦しそうだったが……。
リアの方を見ると、特に変わりなさそうに見えるが……。
私はリアの元に歩くと、
「大丈夫? リア」
「何がですの?」
いつも通りの口調……全く、素直じゃないんだから!
「無理することはないわ。 無理を通すようならカンナに言いつけるわよ?」
リアもなんだかんだでカンナに弱い。
私の言葉に一瞬目を泳がせたが……すぐに私の方を見て、
「どうしてそう思われるの?」
「それよ」
「?」
「気づいてないでしょうけど、額が汗だくよ……あの魔法私初めて見たけど、その様子からすると結構負担が掛かるんでしょ?」
「……」
リアはまたしても私から目を逸らしていたが、
「フン! 私ちょっとお手洗いに行って参りますわ!」
気丈にもしっかりした足取りで歩いて行った。
(全く!! ほんっと素直じゃないんだから!)
リアが去った後、レムルスが話しかけて来た。
「ライラさん。 お怪我はありませんでした?」
「ええ、私は大丈夫。 子供も……助けてくれてありがとう。 正直手が出なくて困っていたのよ」
「お礼を言われる事ではないですよ。 僕も助けたいから助けたわけですし……」
レムルスは嫌味を感じさせない……恐らく本心からそう言っているようだ。
しかも……恐らくかなり強いと思う。
少ししか見れなかったがかなり素早く力強い攻撃だった。
「ライラさん」
「はい?」
「僕と一緒に行きませんか?」
「ふぁ!?」
なんかいきなり誘われた!
「い、いや無理です!」
「嫌なのですか?」
「あ、そ、そう言う嫌じゃなくて! ううん、私は私でやるべきことがあるの!」
私はカンナに付いて行かなくてはならない。
そして私はカンナが……でも……。
私が言い淀んで黙ってしまったのを見て、
「すみません。 ライラさんの都合も考えずに……今のは忘れて下さい」
レムルスは優しく微笑んで、
「ご、ごめんなさい。 何か……」
私が言いかけると、
「いえ、気にしないで下さい。 また会う事もあるかもしれませんし……」
「レムー!」
遠くであの派手な女性がレムルスを呼んでいる。
「では、僕はこれで行きますので」
「あ、うん。 気を付けて」
「ライラさんも」
そう言ってレムルスは仲間達の方へ戻って行った。
う~ん……なにも悪いことしてないけど、なんか心苦しいわ。
でも、いきなりパーティに誘われるなんて……結構強引なのかしら? 私にも仲間がいるのにね。
そう思いつつ私はカンナやマリーがいる方へ歩いて行く。
二人はケガした人を助けているようだ。
「カンナ、マリー。 怪我人は大丈夫そう?」
カンナはちょっとだけ眉をハの字にしている。
「うんー、大きなケガはリアが治してくれたから。 でもちょっとした怪我の人がいっぱいいるの……」
「まぁ、死ぬような人もいないし、掠り傷程度だよ。 安心して」
二人から状況を聞くと、
「なら……大丈夫かな? リアが戻って来たら出発しようか?」
「うん」
「そうだね」
二人が大きく頷いた。
……リア遅いな。
リアがお手洗いに行ってからだいぶ経つ。
方向的に私達が泊まった宿屋に借りに行ったようだけど……。
「ちょっと様子見てこようかな?」
「あ、じゃあ僕も行くよ。 僕もお手洗いに行きたくなっちゃったし」
マリーも言いだし、結局全員で行くことにした。
宿の人は出発した私達が戻ってきた事に驚いたが、理由を話すと快く貸してくれた。
マリーがお手洗いに行っている間に宿の人にリアの事を尋ねると……。
「え、リア来ていないんですか?」
「ええ、どなたも来ておりませんよ」
「えぇ~?」
(どこに行ったんだろう?)
……方向的にはこっちに来ていたけど……。
カンナがちょいちょいと私の服を引っ張った。
「ん?」
「リア探す? 探すなら僕も一緒に探すから」
「そうだね。 ひとまず私がこの宿の周りを探してみるから、カンナはここで待ってて。 じゃないとマリーが戻ってきた時泣くかもしれないしね」
私はカンナを不安にさせない様にちょっとおどけて伝えると、
「うん、わかったよ」
カンナは素直に頷いた。
良い子や……ほんとはマリーと一緒にするのは怖いけど、リアに何かあったら……私はともかくカンナが悲しむからね!
と、自分で自分に言い聞かせる。
……私も素直じゃないなぁ~。
宿を出てまずは建物の周りを一周してみることにする。
すると……。
(あら? いたわ)
あっさり見つけた……宿の裏に清楚なローブを身にまとった長い金髪の後ろ姿。
間違いなくリアだろう。
……あれ? 誰かと一緒にいる?
そっと物陰から覗くと、リアはレムルスと一緒にいた派手な女性と何か話をしていた。
ただ……見た限りは友好そうではないけど……。
悪いとは思いつつ私は聞き耳を立てる……。
私は耳がいいから、これぐらいなら何とか……。
「……だから、お前あれの連れだろ? 何とかしろよ」
派手な女性がリアに食って掛かっている。
どうやら私の件で絡まれているらしい。
「何とかってなんですの? 具体的におっしゃっていただかないと」
リアの方は女性に対して平然としている。
「私達のレムに何したんだってことだよ! 会っていきなりあんな変な女好きになるとかおかしいだろ!?」
え? 流れ的に変な女って私の事? っていうか、会っていきなり好かれるなんてこっちもビックリよ。
「そんな事、私の知った事ではございませんわ」
「とにかくあいつを何とかしろ! どっか行かせるとか……これ以上レムに近付けさせるな」
「はぁ……全く。 私に命令しないで下さらない? そんな権利が貴方にあるとでも?」
「……わかった。 じゃああいつがどうなっても良いんだな?」
えぇ……何でそんな不穏な話に……。
「良くはありませんわ」
おぉ! リアが私を……なんだかんだ言ってもやっぱり仲間なのね!
「そんなに大事な仲間なのかよ?」
「え? 違いますわ」
何言ってるの? みたいな顔をするリア。
え? 違うの!?
「あれは私の犬というか道具というか……まぁ便利なのですわ」
ぐはぁ! そ、そんな扱いなの私!?
「だったらいいじゃねぇか! あいつを置いて先に出発しろ。 後は私が……」
「それは出来ない相談ですわ」
「なんでだよ? そんな存在なら別にいくらでもいるだろ? その容姿ならいくらでも」
「ええ、勿論そうですわ。 ですが……」
リアは一旦言葉を切った後、はっきり告げる。
「あの人がどうとかではなく、私は自分が恥じない生き方をしたいのです。 だから例え抜けているおバカな駄犬でも裏切るなんていたしませんわ」
……なんか……セリフの内容はカッコいいのに何であんなに私悪口言われてるんだろう?
派手な女性は舌打ちすると、
「くそっ! わけわかんねー! お前、後で後悔すんなよ!」
そう言って瞬時に姿が消える。
私の目でぎりぎり追えたが……神速に近いものを感じた。
あの女性もただ派手なだけではなさそうだ。
リアが戻りそうな気配を感じた私は、速やかにその場から離れた。
宿の中で待っていたカンナとマリーに合流すると……そこにリアもやって来た。
様子は普段と変わらなそうに見える……。
「あら? カンナまで迎えに来て下さったのですか? ありがとうございます」
柔らかな笑顔をカンナに向ける。
「ううん、リアは平気?」
カンナの言葉に嬉しそうなリア。
「心配して頂けるなんて……私は幸せ者でございますわ」
柔和で暖かな笑顔を向ける。
その姿は聖女に相応しい。
あれがさっきまで私を乏しめていた人と同一人物です……ありえなくない? あの子の性格どうなってるの?
ただ先程は本当に気分が悪そうだったし、心配はしていたので、
「リア、気分は?」
私が尋ねると、
「もう大丈夫ですわ。 ご心配おかけしましたわ。 出発いたしましょう」
確かに……顔色も問題なさそうだ。
「まぁ無理はしないでね」
「ええ」
珍しく素直に返事をするリア。
宿を出る……色々あったがまだ午前中。
旅を取りやめるほどではない。
私達は改めて村を出発したのであった。




