第四十話 入国対応
吊り橋を渡って旅する事四週間。
私達はついにテッセンとスノーフレークの国境に辿り着いていた。
旅の途中で様々な経験をしたが、一番驚かされたのはカンナの事であった。
カンナは自然や動物には好奇心旺盛で、何でも気になる事は尋ねてくる。
その都度教えるのだが、教えたことは1回で覚えてしまう。
瞬間記憶能力に近いものを持っている様だ。
おかげで旅の食料調達(木の実や茸)はカンナに任せておけば、大量に拾ってくるようになっていた。
まぁ、泣き虫や怖がりは変わらずなのだが……それはそれでカンナが可愛くて仕方ないから良し!
と、なんやかんやで国境に辿り着いたのだった。
「魔法ってすごいですわね……」
リアが感嘆のため息と共に呟く。
国境沿いにはどこまでも続くかのような壁が作られている……その高さは見上げて首が痛くなるほどであり、完全に二国間を分断していた。
どう見ても人の手によるというより、魔法によるものだろう。
「まぁスノーフレークは世界中の魔法使いが集まるしね……規格外の人もいたり、大人数で掛かればこれぐらいの壁はできるのかも」
マリーがリアに教えてあげている。
(……お? あそこに門があるじゃない)
長く続く壁の一か所に両開きの扉が見える。
「あそこから入れるみたい、行きましょう」
私の指さす方を見て、みんなでゾロゾロ門に向かう。
壁に対して門はそこまで大きくなかった……両開きではあるものの、高さ三メートルぐらいで幅も馬車が通る程度だ。
前述したがテッセンとスノーフレークは仲が悪い。
戦争などの有事の際、攻め込むのを想定して小さく作られているのかもしれない。
そして門の前には一人の門番が立っていた。
ここを通る人は皆無なのかすっごい暇そうにしている。
(私ならこんな場所に立ってるだけなんて考えられないなぁ……)
私達が近づくと、足音で気付いたのかこちらを見る。
そして、信じられないといった表情をした後……凄い笑顔になった。
まるでお客さんを待ちわびる店員さんの様だ。
「いらっしゃい! ようこそスノーフレークへ!」
……やっぱり店員さんぽい。
こういう時の話す役目はまず私となる。
やっぱり年上だからね。
「すみません。 私達スノーフレークに入りたいんですけど」
「はい、ではどう言った方々になりますか?」
「えと、どういったとは?」
「例えば商売に来た商人。 冒険者の者。 貴族や国賓。 親戚の者に会いに来た……こちらは冠婚葬祭とかもですね。 単純に観光。 まぁ理由は様々ですが……」
私はみんなの方を振り返る……ストケシア王から連絡が言っていれば国賓となるが、できるだけ大掛かりな歓迎とかは避けたい。
そんなことをすればカンナ王子が来た事が知れ渡り、カンナ王子を狙う者が現れかねない。
「観光です」
私が振り返ると、マリーが間髪入れずに答えた。
予め予想していたのかもしれない……流石、マリー。
「では、あなた方の中に魔法を使う者はいらっしゃいますか?」
門番が私達の顔を見回しながら尋ねる。
残念ながら私は魔法が使えない……便利だから羨ましいけどね。
「私ですわ」
「僕も」
リアとマリーが答えると、
「では、少々お待ち下さい」
門番は奥に引っ込み……すぐに大きな丸い水晶を片手に戻ってきた。
包まれている布越しに支えており、直接触らない様に気を遣っているようだ。
「お一人ずつこちらの水晶に手を置いていただけますか?」
「これは?」
私の問いに、
「この水晶はその人の魔法の質や素養を色や明るさで教えてくれます。 また魔法を悪用している者も分かる仕組みとなっております」
門番が親切に教えてくれる。
「分かりましたわ」
リアが前に進み出ると、門番が持つ水晶に手を置いた。
すると……水晶が眩い金色の光を放ち始めた!
「おお!! こ、これは……」
門番が絶句する。
「あ、貴方様はもしや聖女様なのでは!?」
「……まぁ血は引いておりますわ」
「やはり……金色の輝きは聖女の証でございます! ようこそ参られました!」
門番の対応が凄い丁寧なものに変わる。
っていうか、やっぱりリアは聖女なのね……聖女に性格は関係ないみたい……。
私がそんなことを考えている間に、マリーが水晶に手をお置いた。
するとこちらは銀色の眩い輝きを放つ!
「お、おお! ま、まさか……貴方様は大賢者コットン様の?」
「……そうだよ」
「やはり! この輝きが証明しております。 ……お二人が来国されたことは本来大体的にお伝えしたいところですが……」
「うん、やめてほしい」
「……の方が宜しい様ですね。 分かりました。 それでは観光として入国なさって下さい」
門番はかなり気の良い人だったみたいだ。 開門して私達を中に入れてくれる。
「ありがとうございます」
そうして門を通って中に入る。
壁のこちら側は見ることが出来なかったが、こちらは草原ではなく林になっている。
そして、先ほどの門番とは別に三人の門番が談笑していた。
交代の人達だろう。
私達が門を通ると、談笑がピタッと止んでこちらを見てくる。
(なんかジロジロ見られてやだなぁ……)
そう思いつつ門を後にして歩き出そうとした時、
「ちょっと待て」
後ろの門番から声が掛かった。
振り返った私達の前に対応してくれた門番含めて四人が立っている。
笑顔だった門番は……今はニタニタとした笑いを浮かべている。
先程のにこやかな笑顔は微塵もなく不気味な笑いだ……良い人かと思ったのに。
そして、
「おい、こいつが例の王子様とやらだぜ」
「成程な、聖女の娘達と旅をしているという……」
……ストケシア王からは付き添いの私達の事も含めて連絡していたようだ。
門番はスノーフレークの兵達であり、そう言った情報も伝わっているらしい。
そしてどうやら王子を狙っていたようだ。
もしかして私達を見て門番が笑顔になったのは、王子一行と察したからかもしれない。
スノーフレークに入国させたのは……まぁテッセン側に逃げられると困るのもあるだろう。
「で? どっちが王子なんだ?」
門番の一人が入国対応をした門番に尋ねる。
「そうだな……あっちとあっちは聖女と大賢者の娘だったから……」
そう言いつつ私とカンナを見比べて、
「まぁあっちじゃないか? 胸もないし」
そんなことを言いながら、なんと私の方を指差した……。
「プッ!」
「クッ!」
私の後ろからリアとマリーが吹き出すような……笑いを堪える様な声が聞こえる。
……よし、この門番達ぶっ飛ばそう!
どちらにしろカンナを狙っている時点で許すわけにはいかない。
私は腰の剣を抜いた。




