第三十八話 猪突猛進
猪突猛進……この言葉をご存知だろうか?
イノシシが走る時に脇目も振らず、ただただ突進していくアレである。
私達は今まさにその体験を直に味わっていた。
「早すぎですわぁぁぁ!」
「めちゃくちゃ上下に揺られるよぉ!」
巨大イノシシの背中に乗りながら大きな悲鳴や叫び声を上げまくるリアとマリー。
巨大イノシシはそんな事はお構いなしにガンガン走っていく。
草や枝を薙ぎ払い、木をへし折り、物凄いスピードで駆けていく!
そして上下に跳ねる様に進むので乗り心地は非常によろしくない。
「ひゃあぁぁぁ」
「あばぱば」
相変わらず悲鳴を上げる二人に、
「あんまり叫ぶと舌噛むわよ?」
だから乗る時思ったのに……。
まぁ日頃やり込められている私は、二人の悲鳴にちょっと嬉しかったり……。
たまにはね……だって、いつも私に厳しいんだから!
ちなみにカンナは子供イノシシに乗って後ろから追いかけて来ている。
巨大イノシシが道を切り開いてくれるからか、基本的には後を走って追いかけて来ている。
この前のソリと違って楽しそうだ。
楽しそうだから大丈夫だろう。
私は隣にいる二人の悲鳴を聞きながらイノシシの背中の毛をしっかり握る。
私達を乗せてイノシシ達は林の中をガンガン進んで行くのだった。
「うぅ、もう駄目ですわ」
「ぼ、僕も……気分が」
二人して地面にへたり込む。
私も巨大なイノシシの体から地面に飛び降りる。
さすがにずっと乗っていたので私もお尻が少し痛い。
二人程ではないが私も地面に転がって座りたい気分。
「ありがとう〜」
横ではカンナが子供イノシシにハグをしている。
めいっぱい笑顔で凄く楽しかったようだ。
(笑顔のカンナ可愛いなぁ……私もハグして欲しい!)
サラッと抱きしめてみようかな?
さり気なくカンナに近づくと……カンナがこちらを向いた。
(あら? 気付かれた?)
私が見ている前で……カンナの笑顔が凍りつく。
(え? 私そんなにヤバそうな顔してた!?)
確かにカンナに対して気持ちは昂ぶるが、表情に出さないのは得意なのに。
だがよく見てみると、カンナの視線は私の背後に向けられている。
私が振り返ると……私達の進む方向だ。
そしてそこには大きな崖があり吊り橋が掛かっている。
どうやらその吊り橋を見て固まっているらしい。
吊り橋は木の板と太いローブで作られており、崖を抜ける強い風にユラユラと揺れて、ギシギシ音を立てている。
橋の幅は1メートルぐらいで、確かにこれではイノシシ達も通る事ができない。
その為ここで私達を下ろしたようだ。
「も、もしかしてこれ渡る?」
カンナの声が震えている。
「えと、道としてはそうなります」
私が答えると……泣きそうな顔になる。
先程迄の笑顔が嘘のようだ。
う〜ん、吊り橋を渡るのが嫌なら……そうだ、マリーに向こう側へ『転送』してもらえば良いのでは?
私はマリーに今の案を訊いてみたが……、
「無理だね」
アッサリ告げられる。
「え、そうなの?」
「当たり前。 そもそも魔法には距離やら範囲があるんだ。 じゃなければ旅なんかしないで他国に『転送』すれば良い」
「う〜ん、『転送』の範囲って?」
「そうだね……およそ30メートルってとこかな?」
「あれ? でも以前ストケシアでカンナを攫ったとき……マリーの部屋まで結構距離ない?」
「30メートルって言っても私を中心とした半径。 広間の下の部屋の一つは僕の部屋なんだから届くんだよ」
私は回り込んでいったから30メートル以上走ったけど……確かに思い返せば真下付近の部屋だった。
ちなみに吊り橋は結構大きく100メートルはないにしろ7、80メートルはありそうだ。
「えと、結局渡るって事だよね?」
話を聞いていたカンナが恐る恐る尋ねてくる。
もしかしたら渡らずに済むかと期待していたのかも知れない。
「うん、残念だけど……」
「うぅ、やっぱり」
カンナが悲しげにうなだれる。
「カンナ御覧なさい、ほらイノシシさんも応援しておりますわよ」
リアがしゃがみ込んでカンナを励ますように優しく声を掛ける。
カンナが涙に潤んだ目を向けると、イノシシの親子が揃ってカンナの方を見ている。
確かにその姿はカンナの事を心配しているように見える。
カンナはグイッと袖で涙を拭くと、
「ありがとう、プー助。 僕大丈夫だから!」
イノシシ親子にグッと拳を握って見せる。
……と言うか、いつの間にか名前が付いていた。
私が、
「カンナ、私が背負いましょうか? それなら目をつぶっている間にぱぱっと渡っちゃえますし」
と提案してみる。
(と言うか、背負わせて下さい!! カンナの温もりに触れたいです!!)
が本音だけど。
しかしカンナは、
「ううん。 僕は男だし頑張るだけは頑張ってみたい!」
やはり背負われるのは断ってきた。
以前もそうだったしね。
「ありがとう、ライラ。 気を遣ってくれて」
私にそう告げるとカンナは吊り橋の方を向いた。
そうしてカンナの(私達もだけど)吊り橋を渡る挑戦が始まった。




