第三十話 後日回想
朝靄が掛かり静かな時間帯。
遠くで鳥のさえずりが聞こえる……もう少ししたら陽が差し、そして街は徐々に活気づいてくるだろう。
そんな中、私は教会の裏手から少し進んだ場所に立っている。
目の前には真新しいお墓……その墓にはユリの名が刻まれている。
墓の前には花が飾られ、そして折れて穂先だけになった彼女の槍が添えられていた。
私は目を閉じて心の中で話しかける。
ユリ……おはよう。 今日も来たわよ。
あの爆発からもう一週間……ここには毎日来るけれど、それでも今だに貴方が死んだなんて思えない……。
私達は貴方のおかげで逃げることが出来た。
ありがとう……。
リアも無事よ。 目を覚ましたらあの子自分で傷治していたし……。
ロビーのガーディアンはマリーが全て倒してくれていたの、あの子も陰の功労者よね。
だから冒険者達も領府長も私達も……無事に逃げることが出来たわ。
あの後、領府長が世間に今回の騒動を公開したり、冒険者達が解放されたりと大忙しだったわよ。
寄ってたかって感謝を言われたけど……やっぱりあの場に貴方もいてほしかった……。
貴方とはたった二日間程度の付き合いだった。
それでも一緒に戦った貴方は私の大事な戦友で……ううん、あまりいい言葉が出ないわ。
とりあえず! 私は貴方より弱かった!
だから、私はもっと強くなる……そして、もしまた会えたら……。
私は目を開くと少しだけ笑みを浮かべる。
「リベンジしてやるからね!」
そろそろお昼になろうかと言う時間。
私達……私とカンナ、そしてリアとマリーの四人は領府の建物に向かっていた。
一週間前に私達が乗り込んだ場所である。
そして、今日は領府長に招待を受けての事だった。
「でも昼食にご紹介なんて楽しみだねー」
カンナが嬉しそうに私に話しかけてくる。
「ですね。 折角ですしお腹いっぱい食べましょう!」
私も楽しみだ……お腹も程よく減っている。
「沢山食べるのは良いですが、綺麗に食べて下さいまし」
「そうだよ。 ライラ姉は食べ方汚いんだから!」
後ろを歩く二人組からの言葉に、そちらを振り返りつつ、
「えー! 美味しいものは美味しそうにガツガツ食べなきゃ!」
「何ですの? その野性的な考え方は……」
リアが呆れたように私を見る。
「まぁ、でも美味しいものは美味しいよね」
カンナが間を取り持つ。
「ですよね! さすがカンナ。 私と気が合いますね!」
私はさらっとカンナと相性抜群を後ろの二人にアピールする。
「カンナを下品な道には引き込まないでよね」
マリーがぼそりと呟いた。
そんな話をしているうちに、領府の建物前に辿り着く。
門の前では領府長が数名の職員と話し込んでいた……どうやら建物の復旧について話をしているようだ。
私達が来たのに気付くと片手を上げた。
私達は話が終わるのを待つことにして少し離れた場所で待機する。
……話が一段落したのか、こちらに歩いて来た。
「いや、お待たせしてすまないね」
「いえいえ、まだまだお忙しい中お誘い頂きありがとうございます」
「いやなに、君達は私の、そしてテッセンの恩人だからね。 早々にお礼を伝えたいとは思っていたんだ。 遅くなり申し訳ない」
監禁された時よりかなり精力的にみえる。
容姿はござっぱりしているが、初めて見た時よりかなり精悍で逞しく見えた。
「では、行こうか。 自動車を使ってもいいんだが、すぐそこだし歩くことにしよう」
「あの、自動車って何でしょうか?」
聞き慣れない単語に私が尋ねると、
「ああ、自動車とはあれだよ」
領府長が指さす先には、馬が無くても走っていく馬車が見える。
「……どうしてあれば馬がいなくても走るのでしょうか?」
「ふむ、あれはだね……」
と領府長が説明しながら歩き出す。
私達も話を聞きながら後を付いて歩き出した。
「おっと、ここだ。 話に夢中で行き過ぎてしまう所だったよ」
一軒の店の前で立ち止まる。
通りに面した壁が全てガラス張りにも拘らず、中は暗くなり見ることが出来ない。
「……なんか真っ暗ですね?」
「ハハハ、このガラスは特別なやつでね。 こちらから中は見えないんだが、向こうからはこちらが見えるし、明かりなども入ってくる。 まぁ入ってみようか」
店内に入っていく領府長に続いて中に入ると……。
「ほんとだ……中は明るい」
私が目を丸くする。
外からだと見えなかったが、店内は明るいベージュ系で統一されている。
大きなガラス……こちらからは通りを歩く人たちが見える……そちらから採光が入り店内を明るく照らしていた。
店員に案内されて大きなテーブル席に腰掛ける。
「ここの店はおしゃれでありつつ、女の子向けの料理が多いと聞く。 好きな物を頼んでくれたまえ」
領府長がにこやかな笑顔でメニューを差し出してきた。
「ありがとうございます。 では、お言葉に甘えて……」
私はメニューを受け取るとカンナ達に渡そうと……置いてあるメニューをすでに手にしていた……のでパラパラ捲る。
見ると可愛らしく盛られた軽食的な物から、健康に考慮した大盛りのプレート、それと彩り溢れるセットメニューなど……どれも美味しそうだ!
確かに女の子向けなのかもしれない……私は質より量タイプなので拘らないけどね。
「ライラ、見て! これ美味しそう」
「カンナ、これも美味しそうですわよ」
「僕はこれが良いかなぁ?」
みんなでわいわいとメニューを見ながら注文を決める。
そして料理が来るまでの間、領府長が再び話しかけて来た。
「まず、今回の件。 国の代表者として申し訳ない。 本当にありがとう」
改めてそう言うと頭を下げる。
「いえ、そんな……」
顔を上げた領府長は、
「今はこんな状態なので、お礼をするのが正式や公式には難しい。 すまないが……」
「いえ、まだバタバタしていると思いますし……」
私の言葉に、
「そう言ってくれると助かる」
そして言葉をいったん切り、
「トギスのことだが……軍部の方を確認しているがどうやら部門長と言う立場を利用して独断で行ったという事らしい……まぁ軍の言う事をどこまで信じられるか……だが」
領府長は腕を組むと、
「トギスも中尉と言う階位がある。 軍にも何かしらの制約を出来れば良いが……」
独断でとなるとなかなか難しいかもしれない……領府長がそう呟く。
「あの……」
カンナが恐る恐る領府長を見上げ、
「戦争とか起こさないですよね?」
そんなカンナをしげしげ見つめていたが、表情を緩めると、
「勿論だとも! 先代の時代とは違う。 魔族も大人しくなり、ようやく人々も落ち着き始めた」
「でも、資源とか人口が減ってるって……」
トギスの言葉……本人の考えはともかく、背景としての話に嘘はないと思われた。
「ああ、それは確かにある……だから私は技術的な部分を売り込もうと思っている」
「技術的な部分?」
「ああ、技術的な提供をする代わりに資源をもらう……そして交易を通じて人の流れを作れば人口も対策できるだろう」
「なら戦争には?」
「ああ、私達には知恵があるんだ。 どうにだってなるさ」
カンナに笑顔で応える領府長。
カンナも嬉しそうにブンブン首を縦に振る。
丁度そこに食事が運ばれて来た。
「さぁ、料理が来たようだ。 存分に食べてくれたまえ」
領府長は笑顔で促すのだった。




