第二十九話 制圧決着
「死になさい!」
ユリを引っ張るリアを狙ってトギスが剣を突き出した!!
ズブッ!
くぐもった音がして腹に深々と突き刺さる!!
己の腹に深く突き刺さったそれを、トギスは信じられない様な目で見ていた……。
「わ、悪いですが……そうはいきません」
顔を苦痛に歪めながら折れた槍を突き刺したユリがトギスに言葉を投げる。
「あ、あ、わ、私のは、腹が……」
トギスはヨロヨロと二、三歩下がると……ドスン!とその場で尻もちをつく。
軍服が赤く染まっていく……。
(よ、良かった。 リアは無事!)
ホッとする私に蜘蛛が前足四本を一気に振り下ろしてきた!!
先程与えたダメージで神速を使わなくても見切れる!
「華月流 明月」
円を描く動きで全ての足に剣をぶつけて軌道をずらす!!
それぞれの足が床に突き刺さり床を破壊していく!
その隙に蜘蛛の側面に回り込むと、
「華月流 三日月!!」
先程切断し損ねた足を今度こそ断ち切る!
蜘蛛は更にバランスを崩し体を支えきれず床に腹をつけてしまう。
と……なんと後ろ脚を振り上げて私目掛けて振り下ろしてきた!!
しかし、やはり速度が落ちている……それを難なく躱すと、そのまま後ろ脚が床に突き刺さった!!
その瞬間、床に大きくヒビが入る!!
(これなら!!)
床に突き刺さった足の上から……。
「華月流 三斬華!」
三斬華で足を上から叩きつけ床にめり込ませる!
床のヒビが広がり……床に穴が開いた!!
後ろに跳び退る私の前で蜘蛛が穴に落ちていく……この床下は空洞……蜘蛛が出て来た穴である。
蜘蛛の力で床を抉らせて、床にヒビを入れ……ついに私の狙い通り床を崩壊させ落としてやった。
足も失っているし、登ってくるのは困難だろう。
「や、やっとだわ……」
私はすぐにリア達の元に駆け寄る!
リアはユリに『回復』を唱えていた……さすがに切断された為か回復に少し時間が掛かっているようで、ユリの左足がくっついた所だった。
「足は良いですわね。 次は腕を……」
魔法を掛けてもらう為腕を差し出すユリ、そしてそれを見守る私。
二人の間を……何かが飛来してリアに突き刺さった!!
「!?」
振り返るとトギスが醜悪に顔を歪めて笑っている……先ほどの好青年は欠片もない。
腹からは血が溢れて床に血だまりを作っている。
「アハハハ! 貴方達も死ぬのです! このまま私だけ死ぬなんてありえません!!」
血にまみれている中……自ら助からない事を察したのだろう。
私達を道連れにしようとしたらしい。
リアの方は……投げつけられた槍……トギスの腹に刺さっていたやつだ……が肩口に刺さっている。
その衝撃の為か気を失っていた。
「リア! しっかりして!」
声を掛けるが目を覚ます様子はない。
揺さぶるたびに長い金髪がサラサラ揺れる。
「ライラ! あれ!」
カンナの声に後ろを向くと……トギスが壁側にある機械まで這いずっている。
そして、
「ククク……、これで……」
何やら操作していたが……。
ビーッ! ビーッ!
けたたましくブザーが鳴り響き、続いて人の声とは思えない様な音声が流れる。
『プロトタイプ シグマの自爆機能が作動しました。 大至急シグマから離れて下さい。 爆発までの時間は五分』
「私達全員を道連れにする気の様ですね……」
ユリが青白い顔で呟く。
「早く逃げないと!」
私はリアを背負うとドアを開けようと……開かない!!
入ってくるときは普通に開いたのに!!
焦る私に、
「アッハッ! 無駄です! この部屋はロックを掛けました!」
狂ったように笑いながらトギスが大声で叫ぶ……と、
「ハッハっごふっ!!」
笑いながら血を吐きだす!
「ごっおごっづ……ふっふっふふ……」
血を吐きつつ笑い、そのまま床に倒れ込んだ。
そしてそのまま痙攣していたが、そのうち動かなくなった。
ユリは部屋の中を見回していたが……急に立ち上がると、フラつきながらも壁沿いにあるレバーに近寄る。
そこにはいくつもレバーがあったが……とあるレバーを見つけるとそれを下げた。
ロックが解除され、扉が音を立てて開く!
扉の向こうに廊下が見えた。
「やった! 解除された! よく分かったわね? 凄いわ」
私が笑顔でユリの方を見ると、
「行きましょう! 早く部屋の外に!」
相変わらずブザーが鳴り響く中、機械的な音声が残り三分を告げる。
「ええ! カンナ、行こ!」
リアを背負い、カンナを連れて部屋を出る。
そして振り返ってユリに声を掛ける。
「ユリも早く……」
振り返った私の目には、閉まった扉が映っている。
「ユリ! どうしたの? 早く逃げなきゃ!」
「先に行って下さい! この先、階段への道も壁で閉ざされていた筈です。 それも開けないと!」
扉の向こうからユリの声が聞こえる。
確かに階段も壁で塞がれていた。
「うん、分かったわ! でもユリも早く! 時間ないからね!」
「ええ、分かっています」
私はリアを背負い直し駆け出そうと……カンナがまだ部屋の前で立ち止まっている。
「カンナ! 早く!」
私が声を掛けると、
「う、うん……」
部屋の方を何度も見ながら、私に引っ張られる様に走り出した。
ブザーがけたたましく鳴り響く部屋の中でユリが別なレバーを操作する。
ご丁寧にレバーの下には『階段ー通路 隔壁』と書いてあった。
全てのレバーの下に表示がされていた……これで部屋の扉も開けることが出来たのだ。
右手でレバーを下げながら壁に寄りかかる。
このレバーは自動で戻ってしまう様だ……恐らく自爆機能のせいで、防壁として自動で閉じてしまう様になってしまったのかもしれない。
だから……開く為には誰かがレバーを下げ続けなければならない。
それに……チラリと左腕を見る。
……治療前にリアが倒れてしまったので今だ切断されたままになっており、血がずっと垂れている。
血を……流し過ぎた。
正直、ユリにはもう走るどころか歩く力も残っていなかった。
目的は……果たした。
領府長も助け、根源の二部門も抑えた……冒険者達も無事解放されるだろう。
それにライラ達なら無事外まで出れると信じられる……。
『残り一分です』
目の前が暗くなる……もう何も見えない。
手にしたレバーだけは下げ続けよう……ライラ達が通ったかは分からないが……彼女達の進む道は閉ざしたくない。
『残り30秒。 カウントダウン開始します』
暗い視界の中、ふと懐かしい人の顔が浮かぶ。
「ああ、そこにいたのですね」
その人は優しく笑いかけてくれる。
優しくて……楽しい人で……頼りがいがあって……笑顔が素敵だった。
私はその人が好きだった……勇気がなくて告白出来なかったけど。
でも、もう大丈夫……時間は沢山あるから……。
「ギルド長……私も今、お側に参りますね。 そうしたら……今度こそ、私の想いを……」
『3……2……1……』
巨大な爆発が巻き起こる!!
領府の建物……その五階以上の部分が爆風で吹き飛んだ!
建物自体も大きく揺れ……中にあるものは全て倒れるか床に落ち、人は全て床に転がされる。
ガラスは全て割れ、電気は全て止まり、壁なども剥がれたり倒壊した。
その時の爆発は、テッセンの住民達が『大きな地震が来たと思った』……そう口々に唱えるほどの爆発だった……。




