第十二話 紆余曲折
「本当に信じられませんわ!! その頭はどうなってらっしゃるの!!」
「ほんとだよ! 馬鹿じゃないの! っていうか馬鹿でしょ! あり得ないよ!」
私は怒り顔のリアとマリーに怒鳴られ続けていた……。
もちろん原因はソリの事である。
「でも、ほら? 早く下れたし……」
私が口を開くと、
「だから何ですの!?」
「それとブレーキ付け忘れは関係ないよね?」
あうぅ、そんな怒らなくても……。
ちらりと移した視線の先には、途中で気絶したカンナが寝かせられている。
上にはコートが布団の様に掛けてあった。
「ちょっと聞いてらっしゃいますの!?」
「大人しく話も聞けないのかい?」
「ご、ごめん」
まぁ確かに……ソリ自体は何とか無事に止まったとはいえ、二人とも涙目だったしカンナも気絶していた。
ブレーキ忘れも考えると、自分に非があるだろう。
「……はぁ、まぁ確かにライラ姉様のおかげで早く下ることは出来ました。 そこは感謝しておきますわ」
「……だね。 ひとまず、今回はこれぐらいにするけど、次はないからね!」
ようやく矛を収めてくれるようだ……、私はホッとしてようやく辺りを見回した。
まだ下り坂の途中ではあるが、雪の場所は抜けることが出来た。
後は普通に下って更に北に進めば『テッセン』国の最初の村に付くだろう。
街道は未だあぜ道の様な感じだが……なんだろう? あれは。
「あれなんだろ?」
私の言葉に二人も私の視線の先に目をやる。
街道の両脇に棒みたいなものが立てられており、先が少し曲がって丸いものが取り付けられている。
それが街道に沿って間隔を開けて建てられている。
「なんでしょう?」
「なんだろ?」
リアとマリーも首を傾げる。
丁度その時、
「うっ……うぅ」
背後から声がして、見るとカンナ王子が目を覚ましたところだった。
「「「カンナ」」」
三人同時に声を掛けてカンナに近寄る。
カンナは上半身を起こした状態で目を瞬かせつつ辺りを見回す。
何が起こったか分かってないのであろう。
「カンナはこの馬鹿のソリで気を失ったんだ」
マリーが説明してあげる……っていうか馬鹿ってもう三回も言われてるよぉ。
「あ……」
思い出したのかガクガク震えだし頭を抱え込んだ。
その姿に私もショックを受けてしまう。
(私のせいでカンナ王子をこんなに怖がらせてしまったなんて……)
「すみません。 私のせいで怖がらせてしまって……」
私がカンナ王子に声を掛ける。
「……ううん、大丈夫」
首を振ってそうは言ってくれるものの顔色はすこぶる悪い。
「ライラ姉様。 もう少しで夕方になりますし……。 今日はこのままキャンプにしませんか?」
さすがにリアもカンナと私を気遣ってくれたようだ。
間に入り提案してくれる。
「う、うん。 そうだね。 じゃあ私はテント立てるから」
リアに軽く頭を下げると早速荷物からテントを取り出し始めた。
焚き火の側に腰掛け、私は一人デュランダルの手入れをしていた。
既に私以外の三人はテントで就寝している。
デュランダルを焚き火の灯りにかざす。
見た目は一般的なブロードソードの類であるが、刀身にうっすらと文字の様なものが刻まれている。
そして柄には装飾品なのか赤と青の宝石が嵌っていた。
父ハーデンから譲り受けた剣であるが、その切れ味は鋭くさほど力を入れなくとも簡単に斬ることが出る。
ライラはそこまで詳しくないものの、作りも鉄などではなく不思議な金属に様に見える。
実際錆なども浮き出て来ず、骨などを断ち切っても刃こぼれはほとんど無い。
……そうは言ってもやはり手入れをしなければ脂などで切れ味は鈍るし、その内に刃こぼれもしていく。
焚き火の灯りで照らしつつ刀身を確認して刃を砥ぎ油を塗っていく。
ざっざっ……。
私の方にテントから歩いてくる足音がする。
「まだ起きていたの?」
目は刀身に落としたまま……後ろを見ずに声を掛ける。
「隣良いかしら?」
私の問いには答えず、返事も聞かずリアは隣の石に腰を降ろした。
「……」
私は特に何も言わず剣の両刃を確認していく……曲がりもなさそうだ。
三分ほどそうして剣を確認している私。
その姿をリアも黙って見ていた。
シュッ……チャ
剣の手入れを終えて鞘に納めると、私はリアの方に向き直った。
「ごめんね。 待たせて」
「別に良いですわ。 剣はもうよろしいのですの?」
「うん。 終わったよ」
「そうですの……」
リアは私を見ずに焚き火に視線を向けている。
焚き火の暖かな光に金髪がキラキラ輝くように見える。
私が黙って焚き火を見つめていると……。
「あまり気にしないことですわ」
リアの方からそう切り出してきた。
「やり方はともかく、ライラ姉様が私達の事を考えてしてくださっているのは分かってますから」
「……うん、ありがとう」
私は心から感謝する。
正直なところ何かしていないと落ち込んでしまう様な状況だった。
「まぁ、ライラ姉様はいつもの明るく間抜けで元気なのが一番似合ってますわ」
「うん……ありが……」
あれ? 今途中でさりげなく悪口挟んでなかった?
「フフン! まぁライラ姉様がカンナに嫌われれば嫌われる程、私は嬉しいですけどね!」
立ち上がると口の端を上げながら私を見下ろす。
「じゃあ、私はそろそろ寝ますわ。 周辺にはマリーが『警報』の魔法をかけてくれているのですから見張りは不要ですし、ライラ姉様も早めに寝ることです」
そう言ってテントに戻っていく。
その後ろ姿に、
「ありがとね、リア」
私の声が聞こえたのか、少しだけ手を振ってテントに入って行った。
(私も寝よう……くよくよするなんてらしくないや)
いくらでも挽回は出来る。
「よっし! 明日からがんばるぞ!」
私は小声で呟いてガッツポーズをしたのだった。




