灰色家族と育成契約 1
ジンは困っていた。
先ほど、同期の上司に呼び出されたのだ。その場所が、問題だ。
「やあ、久しぶり。仕事は気心の知れた奴とする方がうれしいな」
黒髪の少年は、10代と思えない大人びた仕草で、執務室のソファーに腰掛けていた。
上司とは、ここ数年ジェスタと名乗っているこの公爵子息だ。
「わざわざこんなところに呼び出して、何の御用ですか?仕事の打ち合わせだったら通信呪具で足りると思うんですがね〜」
小柄で茶髪の少年は、心底嫌そうな表情でジェスタを見た。
「通信呪具は使い捨てだからもったいないし、ジンの腕が鈍っていないか確認のためだよ」
「そーですか。そんなことの為に、一つ間違えると今後の仕事に差し支えそうで困りそうな場所を指定し、こんなクロムウェストのど真ん中に、誰にもわからないように来いって、どーいうことって思いま〜す。」
軽いノリの割に、そこに立っているジンの気配はなく、その言葉はジェスタにしか聞こえないくらいの音量だった。
「できただろ?依頼だ。アルバートに護身術を。ルーベンス王達に気づかれないように教え込んでくれ」
「えー、むずい。王宮は、黒いのが常にいるじゃん。」
「ああ、専任の監視は、前国王の依頼でクロムウェスト公爵閣下に報告書を提出するのが仕事だ。現王には、適当な報告書を提出させているので、今回は無視して構わない。」
「適当に仲良くしとく。お仕事の方は了解。ジェス兄」
右手をヒラヒラさせてから少し開けておいた扉から堂々と出て行った。
「音も気配もさせずに、いつもながら器用だな」
ジェスタは立ち上がり、次の仕事に取り掛かる。
ジンがグレイファミリーと呼ばれるギルドに入ったのは、つい最近。
王家御用達の一つ、フルーラ商会。
一般的には、とても高価な芸術品や古美術を販売する、敷居の高い店として有名。
一部の特権階級だけに超有名で、固定の上得意を持つ。
固定客には、幅広すぎる品揃えで、なんでも揃えてくれる便利なお店と重宝されている。
表と裏の商売をしていると勝手に言われるが、彼らにとっては取扱商売の違いがあるだけだ。
モノは差別せず、お客様を区別する。
人材派遣、育成も商品の一つ。
育成完了した商品がどのように使われるかは、お客様次第なのだが、それによって、暗い噂が立つことを止める事はしない。
そんな灰色な噂のあるフルーラ商会を牛耳る家族の事を揶揄してグレイファミリーと呼ぶ。
認められたものだけが入れるギルドのようなものだが、未だかつて脱退者はいない。
ギルドでは、本当のファミリーのように兄弟姉妹、叔父叔母など、まるで血縁者のように立場が与えられる。表の身分も同時に与えられる。
「とりあえず、レミリア姉から聴いてみるか」
そのレミリアによって、数年後にはさらに難易度の高い後宮に出入りさせられ、王宮の影まで出し抜くハメになることをまだ知らない少年は、さして気負うこともなく、仕事を開始した。




