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五日目の朝


 ――ダンジョン五日目、朝。


 アラームに起こされた日向汰は半分寝ぼけながら、おみくじ感覚で、小部屋の隅にある壺から葉っぱを一枚引いた。



  ヒカリバナの葉

 大きく成長したヒカリバナの葉

 食べるとHP、MP、状態異常が回復する



 それは、まだ自分は夢の中にいるのではと疑ってしまうほどの、欲張りセットみたいな効果の葉だった。

 おかげで日向汰の目はバッチリ覚めた。


「なにこれすごい!」


 これで簡易鑑定は百枚中八十枚くらいを終えたが、こんな葉は始めてだった。

 大当たり中の大当たりかもしれない。

 今日は良いことがありそうだと日向汰は思った。


 レベルが上がりMPも14に増えたので、調子に乗ってもう五枚ほど簡易鑑定することにしたが、それらは全部ハズレだった。


 気を取り直して、日向汰はカタログを開く。

 ダンジョンで3920d円を稼いだので、それで買える物を探す。


 このカタログには、時間経過で載っている商品が変わるページがあったので、日向汰はちょくちょくそこをチェックしていた。

 とはいえ、何かしら問題があって普通には売れない商品を特別価格で並べてる、みたいなページなので、そこに大体ろくな商品はないのだが、ひょっとしたら凄い掘り出し物があるのではないか、と日向汰はついついロマンを求めてしまうのだった。


「んん!? これは……っ!」


 そして今、始めて日向汰の心を震わせる商品が現れた。



  必中のゴムカバー 3000d円

 パチンコ・スリングショット限定のオプションパーツ

 グリップなどに装着することで、必中の効果が追加される



 これはもう絶対に買うしかない。

 日向汰はそう思い、誰かに買われる前にと速攻でポチった。


【購入した商品を今すぐ召喚しますか?】


「もちろんイエス!」


 日向汰の目の前に光が灯り、そこからポトリと小さな黒い物体が床に落ちた。

 すぐさま拾い上げる日向汰。


「……なるほど。確かにゴムのカバーだ」


 早速、魔弾パチンコのグリップのところに装着してみた。

 ゴムカバーは綺麗にピッタリとはまった。


「す、すごい……ぼくは、最強の武器を手に入れてしまった……」


 なにしろ”必中”である。

 日向汰のテンションが変に上がってしまうのも、仕方がない。




 ――が、世の中はそんなに甘くないのだ。


 試し打ちをしてみたら、その効果は日向汰の思っていたものとは違った。

 必中には、厳しい条件があったのだ。


 まず、ターゲットには動いているものは設定出来ない。

 そして、必中の効果が発動されるまでには、十秒ほどの待機時間が要求される。

 ターゲットの距離が遠くなるほどに、この時間も伸びるらしい。

 さらに、待機時間は動いたり、集中力を途切れさせてはいけないようだ。


 つまり、止まっている標的に対して、十秒間棒立ち出来る状況でしか使えない。

 日向汰はダンジョンでの戦闘に使える気が全くしなかった。


「ぼくの、3000d円が……」


 円が付いてはいるが、日本円とダンジョン円では価値がまるで違う。

 日本で三千円の無駄な買い物をしてしまうよりも、そのダメージは大きかった。


「騙された……」


 だが確かに必中の効果はあった。

 つまり勝手に過度な期待をした日向汰のほうが悪かった。


 悲しいし、この時間はみんなが外でワイワイしているだろうし、身体の疲れも取りたいしで、日向汰はまた魔弾の補充にMPを消費して昼頃まで寝ることにした。




 ――ダンジョン五日目、昼前。


「おはようコンシー。みんなはダンジョン?」

「ハイ。先程お送りしまシタ」


 コンシーが出してくれた椅子に座り、受付台に肘をつく日向汰。

 200d円の定食を頼み、それを食べながらコンシーと話す。

 昨夜のダンジョンのことや、さっき失敗した買い物の愚痴など。


 低価格定食のメインである焼き魚は、小骨が多い割に身は少なかった。

 その小骨に苦戦をしている日向汰に、コンシーが朗報を告げる。


「ヒナタ様。たった今、例の葉っぱに買い手が付きまシタ」


 そしてコンシーは、相手の提示した物々交換の品を日向汰へと伝える。


「そんなに貰えるの? ホントに!?」

「ハイ。デスが気に入らなければお断りすることも可能デス」

「いや断らないよ! え、なんで? 良い話だよね?」

「イエ。微妙デス」


 日向汰は驚いた。

 提示された品は、高品質の魔石と魔法水が三点ずつ。

 それがあれば老魔女の手鍋で丸薬が作れるのだ。

 しかも相手は、実際に使用したヒカリバナの葉の効果次第では、さらにプラスで謝礼を払うとまで言ってきてくれているらしいのだ。

 日向汰にはそれを断る理由が分からなかった。


「相手方が謝礼を渋るような事があればヒナタ様が損をされマス」


 ヒカリバナの葉一枚の価値は、日向汰の想像よりもかなり上だった。

 これは売るのが、怪我を治す効果を持つ葉だからである。


 大怪我の大金持ちたちは、それを治すためならいくらでも払うのだ。

 調合師がヒカリバナの葉を材料にして薬を作り、それで見事に怪我が治ったなら、余程の恩知らずでケチな人間でない限り、約束通り謝礼をはずんでくれるだろう。



 日向汰は迷ったが、結果的には売ることを決めた。

 ダンジョンに入る際に、回復薬は出来れば常備していたかった。

 丸薬を作って、もし高く売れそうなら、それをお金に換えることも可能だ。

 今はやはり、なるべく早く手持ちのカードを増やしたかった。

 足りない物だらけで不安なままダンジョンに入るなんて、馬鹿のすることだ。


 そして物々交換が行われ、魔石と魔法水はすぐに届いた。

 その魔石は、日向汰の持つ魔石の倍以上の大きさで、見るからに高級そうだった。

 日向汰は粗大ゴーレムがドロップした魔石を出して、コンシーにその価値を問う。


「こちらの魔石を上の中とするなら、そちらの魔石は中の下デスね」


 あんなに強い粗大ゴーレムが、中の下。

 じゃあ、上の中の魔石をドロップするようなモンスターって――と戦慄する日向汰。


 しかもそれに近い価値を持つ魔石が、さらに二つと、同じく高品質な魔法水三つまでが付いてきたのだ。

 その魔法水は、おしゃれで高級そうな小瓶に入っていた。


 初日に頑張って本当に良かったと、改めて思う日向汰だった。



 ――というわけで小部屋に戻り、お待ちかねの丸薬作成タイムである。


 あの宝箱に入っていた、老魔女の手鍋がようやくその力を見せる時がきた。


 日向汰はウキウキしながら、真っ黒な手鍋を渦巻き型の鍋敷きの上にセットする。

 壺をのぞきこみ、しばし考えてから――まずは手始めにと、HP回復効果のあるヒカリバナの葉を一枚取り出した。


 鍋に入れるには大きすぎるので、くるくると丸めて小さくする。

 そのヒカリバナの葉と、魔石、魔法水を一つずつ入れ、蓋をした。

 MPを10込めると、手鍋が妖しく光った。


 準備完了。

 あとは完成まで、適時MPを追加するだけである。


「……うん…………え、本当にこれだけ?」


 もう一度、老魔女のレシピに描かれたイラストを確認する。

 しかしやはり他にすることはなさそうだ。

 簡単過ぎて不安になる日向汰。


 ダッシュでコンシーに意見を求めに行ったが、これで良いらしい。

 あとは待っていれば勝手に丸薬が出来るとのことだ。


 日向汰は一応、料理はそこそこ得意だと自負しているので、丸薬作成もどちらかといえば得意分野かもしれないと思っていたが、料理のスキルなんて必要とされなかった。

 魔道具が便利すぎて、逆に少し残念な気持ちになる日向汰だった。



 ――そして約四時間後。


 鍋から離れることも出来ず、日向汰は暇を持て余していた。

 温度調整も鍋敷きがしてくれるし、本当にやることがない。

 MPを追加するのだって、一時間に一回もやれば充分過ぎるようだ。


 どのくらいの時間がかかるか分からないので、それが厄介だった。

 日向汰はつい眠くなってしまい、目が半分閉じた状態で、うとうとしていた。

 が、鍋からカタンと小さな音が聞こえてビクッ! となった。


「で……出来た……?」


 見ると、鍋の蓋が少し開いていた。

 これは丸薬が完成した時に起きる現象であるはずだった。


 おそるおそる蓋を開ける日向汰。

 モワッと煙りが溢れ、嗅いだことのない変な匂いがした。

 鍋の中には、抹茶色のミートボールみたいなものが出来上がっていた。


 明らかに入れた物の量に対して、出来た物が小さすぎた。

 魔石だけでも握り拳くらいあったのに、その魔石よりも全然小さい。

 が、ダンジョンの魔道具なのでそこらへんは気にしたら負けだと日向汰は思った。



  老魔女の丸薬

 飲み込むと30秒でHPが30回復する

 次のレベルアップ時にHPの最大値が増加する



 簡易鑑定した結果、この丸薬もまた尋常ではない回復薬であるようだった。

 とはいえ、その回復効果は優秀ではあるが最上級ではない。

 問題は回復効果ではなく、HP最大値増加のほうである。


 最上級の回復薬とは、口にした瞬間にHPが全回復するとか、そういった物だ。

 が、もし最大値が例えば100増加する薬があるなら、その価値は計り知れない。

 レベルを1上げても、増やせるHPは2までなのだ。

 つまり、それはレベルを50上げるのと同価値があることになる。


 さすがに100増えるのは夢物語だとしても、10増えるだけでも充分凄い。

 しかし、普通に考えれば1増えるだけというのが現実的だろう。

 とにかく、最大値の増加量によって、この丸薬の価値は大きく変動する。

 日向汰はまた、ややこしいアイテムを手に入れてしまったようだ。


「んー……どうなんだろ? 自分で使ったほうが良いのかな……」


 それは大きな迷いどころだった。

 が、とりあえず無事に丸薬作りが成功したことは間違いない。

 考えるのは後にして、日向汰は早速、次の丸薬作りを始めることにした。


 また暇を持て余すだけの時間が始まるが、どうせ今日はもうダンジョンに入ってしまったので、日付が変わるまでダンジョンに入るつもりはない。

 だから、ちょうどいいタイミングであるとも言えた。

 日向汰は壺の中に手を入れ、次に使う葉をどれにするか物色する。


「……思いきって……今朝の大当たり、使っちゃおうかな……?」


 そうつぶやき日向汰は、HP、MP、状態異常回復効果のある葉を取り出した。






 ――そして、一方その頃。


「ああああッ!! うっぜえッ! ッんなんだッこのクソダンジョンはよぉおおッ!!」


 王我(おうが)はブチギレていた。

 ダンジョンの壁に八つ当たりの連続キックをかます。

 しかしそれでストレスが発散された様子は、微塵もなかった。


 日向汰は、王我たち六人は順調に何の問題もなくダンジョンを攻略していると思っているが、実際のところは違う。


 ダンジョン五日目にして、すでに彼ら、特に王我の精神は限界に近かった。

 普通の高校生――いや、裕福な家庭に育った貧乏知らずの高校生が、こんな著しく生活水準の低い環境に、適応なんて出来るはずがなかったのだ。


 衣食住、全てが日本での暮らしを大きく下回る。

 それを改善しようと必死に毎日ダンジョンに入っているのに、思うように稼げない。

 娯楽品は手の届かない高級品で、気分転換する方法もない。


 このダンジョンは、王我の思い描いていた世界とは、かけ離れていた。


 

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