コンシーの説明
コンシーはまず説明を分かりやすくするために、この場所の呼び名を決めた。
この、岩に囲まれたドーム空間全体を、拠点。
それぞれのプライベート空間の穴を、小部屋。
そして拠点の真ん中の微妙に色の違う床部分を、受付。
コンシーの仮提案に異論も出なかったので、これで決定した。
受付は、直径約二メートルの真円であり、そこからダンジョンへ転移するのだと聞き、みんなが警戒するように一歩下がる。
「ご安心下さイ。受付の中にいましテも、みなサンの意思に反してダンジョンへ送るようなことは絶対に致しませン。ワタシはあくまでみなサンの活動をサポートする存在なのデス」
コンシーはちょうど全員が受付から離れたので、受付台を召喚した。
二メートルの円にぴったり沿う形で、腰の高さくらいの台だ。
その中、受付台の内側にコンシーは立っている。
「拠点が狭くなりマスし、不評であれば引っ込めマス」
とコンシーは言うが、この拠点には七人しかいないのでそれほど狭くは感じない。
なので、とりあえずはこのまま受付台は召喚したままにすることになった。
次にコンシーはダンジョンの簡単な概要説明を始めた。
人を襲うモンスターが出ることや、ボスを倒せば地上に戻れることなどだ。
そして、モンスターからの攻撃などで身体にダメージを受けても、多少の衝撃と痛みはあるが、HPが残っている間は怪我をしないこと。
HPが0になるとゲームオーバーとなり、死にはしないが拠点へと転送され、蘇生薬がなければ小部屋に閉じ込められること。
ゲームオーバーの際に拠点への転送を拒否することは可能だが、その場合は生身のままダンジョンで戦うことになるため、命の保証はされないこと。
それとジョブやスキルとはなんなのか。そしてアイテムや宝箱の存在など。
完全に初心者用の解説で、そこに日向汰にとって未知の情報は一切なかった。
「うぜえ。んなもん端折れやッ。知らねえわけねえだろうがッ」
「オーガっち、うるさーい。授業中は静かにー」
王我が舌打ちをして、やれやれというジェスチャーをする。
ルナはダンジョンに疎かったので、一人コンシーの話を興味深そうに聞いていた。
しかし王我はやはり我慢がならないようで、見るからにイライラしていた。
コンシーの話が一段落付いたのを見計らい、すぐに口を開く。
「おい人形ッ、てめえはタダでずっとオレらに協力するタイプか?」
「イイエ。恐縮デスがノーでございマス。ワタシは主に拠点でみなサンの身の回りのお世話、掃除や洗濯に料理などをさせていただきマスが、それには対価としてコインが必要となりマス」
「チッ! ハズレかよクソがッ!」
ここではない他のダンジョンには、コンシーのようなダンジョンコンシェルジュが無料でサポートをしてくれるパターンもある。王我はそれを知っていた。
ただし、拠点にサポート役がいないパターンもあるので決してハズレではない。
さらに言えば、コインを求めるタイプのほうが優秀だったりもするのだ。
「それト、この受付でダンジョンへのみなサンの転送や、お買い物の窓口などもさせて頂きマス。そちらもコインが必要にはなりマスが、どうかお気軽にご利用下さイ」
王我に暴言を吐かれ睨まれても、コンシーは気にせず説明を続けた。
それは日向汰には出来ない芸当だった。
自動人形にすら劣等感を感じてしまい、少し悲しくなる日向汰。
「ダンジョン内のお金デスが、それはモンスターに勝利した際にドロップしたり、宝箱から出たり、それと道に落ちていたりもしマス。そのお金をダンジョン円――略してd円と呼ぶことが一般的デス。コインとはつまり、d円の硬貨となりマス。ワタシにお仕事を任せて頂く際は、それをワタシの胸部のこの穴にお入れ下さイ」
コンシーの胸の真ん中には、確かに自販機などにある硬貨投入口を少し大きくしたような穴が存在していた。
「みなサンには初期資金として10000d円、そしてスキルポイントが10ポイント与えられていマス。それを使い、ダンジョンへの準備を整えて下さイ」
一万d円と十ポイント。
その初期資金とスキルポイントは、全ダンジョン共通である。
コンシーはさらにd円とポイントの使い方を説明したが、それは日向汰の知っている方法と何も変わらなかった。
それに他の六人も、その辺りのことは昨日すでに確認済みらしかった。
というか、日向汰にとってはここまで全てが知っている情報ばかりだった。とはいえ、再確認は絶対に必要である。もしかしたら情報に食い違いがあるかもしれないのだ。
なので日向汰はふむふむと、しっかり話を聞いていた。
「それでは地上への帰還を目指し頑張って下さイ。説明は以上デス」
が、コンシーの話は突然終わった。
みんなはこれから本題に入るくらいの気持ちで聞いていたので、当然驚く。
「は!? もう終わり!?」
「ハイ。以降の質問には対価が必要となりマス。コインをご用意下さイ」
「いやいやいやいや! そんなこと言わないでさっ! 頼むよ!」
「お金取るとかー、コンちゃんケチロボじゃーん。ぶーぶー」
茶太郎は持ち前のナンパテクでコンシーをなだめすかしにかかった。
ルナは口をとがらせ後ろから文句を言った。
ちょっとした飴と鞭だったが、しかしコンシーは言うことを聞いてくれない。
「――俺たちは……ダンジョン内のモンスターや、罠の情報が欲しいんだが……?」
「今の段階デはモンスターや罠の情報はコインを払って頂いてもお答え出来ませン。それをシテしまうとダンジョンが楽しめなくなる為デス。デスが、実際に出会ったモンスターや経験した罠などの情報については、お答えできマス」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞクソ人形ッ!」
そしてついに、王我の不満が爆発した。
彼は待たされるのが嫌いだ。自分は待つ側の人間ではないという自負がある。
そんな彼にとって、一晩待った上でのこの結果は、受け入れられるはずがなかった。
王我にとってもコンシーの話は日向汰と同じで、知っている情報しかなかったのだ。
期待を裏切られ、出鼻を挫かれた気分だった。
「おいッ! オレらはこれから命賭けてダンジョン潜んだぞッ! その情報くらいタダでいくらでも話すのが当たりめえだろうがッ! じゃなきゃテメエは何のために存在してんだよッ!!」
威圧感丸出しでブチギレて、コンシーへと詰め寄る王我。
彼は与えられることに慣れてしまっているのだ。
そして自分が文句を言えば、弱い者は言うことを聞くと思っている。
今までずっと、そうやって生きてきた。それで得をしてきたのだ。
「黙ってんじゃねえぞッ! ナメてんのかテメエッ!」
しかしコンシーは王我の思い通りにはならない。
コンシー自体は見た目通り弱いが、ダンジョンという大きな後ろ盾がある。
ダンジョンはルールを守らない者を許さない。
「聞いてんのかゴラァッ!!」
王我がコンシーの細い肩を掴み、力任せに揺さぶった――その瞬間だった。
頭上から、大音量の警告音が鳴り響く。
『ヴゥーッ! ヴゥーッ! 警告! 警告! 玉頭王我はこのダンジョンのルールに抵触しています! モンスター以外へ危害を加えてはなりません! ただちに心を改めてください! ヴゥーッ! ヴゥーッ! 警告! 警告! 玉頭王我は――』
みんなが一斉に天井を見上げると、そこには巨大な岩の拡声器が生えていた。
そして王我の顔の前、空中に黄色い警告マークが表示される。
警告の音声は止まることなく、繰り返し発せられた。
「うるさっ! もー! オーガっちのせいでなんかヤバイことになってんだけど!」
「とりあえず~その手は離したほうが良さそう~?」
「チッ! うっぜえッ!」
オーガがコンシーから手を離すと、警告音はピタリと止み、拡声器も引っ込んだ。
一転して、場に静寂が訪れる。
しかしそれでも、まだ何か起きるんじゃないかと誰もが緊張していた。
そんな少しの時間を置いてから、ルナが大きなため息を吐いた。
「はぁ~……たぶん、もーだいじょぶっぽいね。あー、うるさかった!」
「いやーオーガ君、さすがに無茶しすぎだって。ビビったわー」
「あァッ? オレが悪いってのかよッ!?」
誰が見ても、どう考えても王我が悪いのだが、彼だけはそれを認めたくないらしい。
茶太郎に突っかかった王我のせいで、場の雰囲気が険悪になる。
「――で、質問には……いくらのコインが必要になる……?」
その空気を変えようと、計がコンシーに質問をした。
「ハイ。そのような些細な質問には無料でお答えいたしマス。コンシーはケチではないのデス。質問の内容により異なりマスが、基本的には100d円でお答えしマス」
「――そうか。なあ、提案なんだが……皆、一度それぞれ、準備を整える時間を設けないか……? 俺は少し小部屋に戻って、一人で考える時間が欲しいんだが……」
「さんせー。ウチもコンちゃんが売ってくれる物、もっかい見たーい」
計の提案にルナがすぐさま賛成した。
王我は不機嫌になると、面倒くさいのだ。それは他の六人全員が知っていた。
だからとにかく王我を一度リセットするための時間が必要だった。
それに、日向汰は自分だけが出遅れて装備やスキルなどの準備を整えられていないと思っていたが、王我たちは今日コンシーの説明を聞いてから、それに応じて必要な準備を整えるつもりでいた。
そのため、計の提案に反対意見が出ることもなく、一端解散することになった。
とりあえず十五分経ったら再び集合という流れだ。




