第82話 思い出した記憶は中途半端でした。
お待たせしました。
目を開くと先程の光景はなく急いで周りを見ると不思議そうに眺めるリリナと目があった。
「・・・テンリ、どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
どうやら元の場所に戻ったようだ、手が本に触れているのがわかりすぐに本から手を離す。
何があってもいいように警戒をしたが何かが起こるわけでもない。
「・・・大丈夫?」
「えぇ、大丈夫です」
「・・・そう、それでその本に触ってなにか感じた?」
さて、どう答えたものか?リリナに今しがた起こった事を話すのはいいのだが自分自身の頭が追い付いていない。
「・・・テンリ?」
「えっとですね、本に触れたら」
「・・・触れたら?」
「過去の自分に会いました、精神世界みたいなものだって言ってましたね」
俺の言葉にリリナは驚いた顔をする。
「・・・それで?」
「今の俺は弱すぎるって言われました」
「・・・うん、弱い」
「うぐっ」
はっきり言われるとショックだな。
「・・・そのあとは?」
「記憶の断片と力の一部だと言う短剣で心臓を刺されました」
「・・・あー、うん、そう」
なんとも言えない顔で俺を見る。
「いずれ一部の記憶と力を取り戻すそうです」
「・・・それは良かった」
リリナは笑顔で答える。
「こうなることをリリナもクロナも知っていたんですね、教えておいてくださいよ」
「・・・私は知らなかった、聞いていたのはテンリが持っていた本があるって事だけ、クロナは知っていたかもしれないけど」
「そうなんですか?」
「・・・そう」
何はともあれここでの目的は果たしたと言える。
「・・・本持って行く?」
「持って行って良いんですかね?」
「・・・大丈夫、クロナが良いって言ってた、それにもともとテンリの本、問題になるようなら神託を使えばいい」
なんて都合のいい神託なんだろう、そんな事でいいのだろうか?
「戻りましょうか」
「・・・うん」
俺は考えるのを止めて本をアイテムボックスにしまい上に戻ることにした。
部屋を出ると来るときと違い違和感は有るものの動けなくなるような事はなかった。
「これは力が戻ったって事なんでしょうか?」
「・・・完全ではないけど少しは戻ってると思う」
「凄いですね」
「・・・力が戻ると言っても一部だとたいしたことない、せいぜいSSSランクの魔物を倒せる程度、天使達には勝てない」
「SSSランクの魔物に勝てるなら充分なんじゃないですか?」
「・・・テンリの強さはもっと上、神格を持たずに中級程度の神を殺せる、本来神を殺せるのは神格を持っている同じ神だけ、たまに例外がいるけどその一人がテンリ、正直異常」
異常者扱いか。
「恐いですね」
「・・・そう、テンリは恐がられている」
俺が言いたいのは神殺しができるような人物を放っておかないだろうって意味なんだけど、どうやら俺が神達に恐がられているとは、一体どうしたものか。
「・・・これからテンリは少しづつ取り戻した力を制御出来るように訓練をする」
「今もしてますよ」
「・・・今までは強くなるため、今後は力を抑える訓練」
「どうすれば良いんですか?」
「・・・カリナとクロードに相談」
「わかりました」
来た道を戻り階段を上る、階段を上がるとゲオルククが不安そうな顔でこちらに近づいてきた。
「テンリ様、リリナ様、ご無事で何よりです、いろいろ見て回れましたでしょうか?」
「・・・ん、見た」
「そうですか、それで、その、持って来たり封印を解くなどしていません、よね?」
「・・・ゲオルククは心配性」
「ほ、本当に大丈夫ですよね、触れたりもしていませんよね?」
「・・・大丈夫、むやみやたらには触ってない」
「そ、そうですか」
「・・・そんな事より上に戻る」
「畏まりました」
ゲオルククはホッと息を吐いた、どうやら見て回っただけと思ったようだ、しかし実際は違う、触るどころか持って来ているのだから。
ただリリナもむやみやたらには触ってないと言った、言い換えれば必要でない物は触っていないと言う事だ、必要な物にはしっかり手を出している。
そんな事を思いながらクロナ達が待っている地下五階まで戻って来た。
「ただいまクロナ」
「やっと戻ってきたか」
「だいぶ待たせてしまいましたね」
「気にするな、下に行けと言ったのは我だからな、ゲオルククよ、後は任せても良いな?」
「はい、手続きはやっておきます、後はオークションの当日に来ていただければ大丈夫です」
「うむ、では帰るとするか」
俺、リリナ、クロナの3人は魔王城に戻りクルウィルに挨拶をしてエレノール領にある自宅に帰った。
「それで結局どうだったのだ?」
俺のベッドに座りクロナは訪ねてくる。
「何がですか?」
「決まっておる、あの本だ、持って帰って来たのだろ、結局なんだったのだ?我でも開くことができずあの場から動かす事もできなかったのだ」
「え?クロナはあの本がなんなのか知ってるんじゃ?」
「我が知っているのはあれがテンリの本であるという事だけだ、それ以外は何も知らぬ、もし解るものがおるなら本体であるアトレイア様くらいか」
俺はリリナに話したことをクロナにも伝える。
「ふむ、そうか、そんな事がな」
「なぜアトレイアはクロナやリリナにこの本の記憶を与えなかったんでしょうか?」
「・・・特に理由はないと思う、もし理由をつけるなら散りばめられた力を徐々に取り戻していき強大な敵に立ち向かう物語的ななにかにしたかったとか」
俺の疑問にベッドに寝転びながらリリナが答えた。
「なんですか強大な敵って、それにクロナとリリナの記憶が中途半端な理由にはならないでしょ」
「・・・力を取り戻す道具の存在だけ記憶に残しそれを探させる愛と友情の冒険譚」
「そんな訳」
「うむ、最初は力を取り戻すためにその存在を探し、そのうちに強大な敵と遭遇してそれに立ち向かうために仲間と共に突き進む物語、我等の記憶を中途半端にしたのはテンリに冒険させるためにわざとか」
「そんなまさか」
「・・・ありえる」
「我等の記憶を中途半端にした理由としては確かにありえるな」
「えー」
「まぁいくつかの道具に分けたのは少しずつ力と記憶を取り戻させて身体に馴染ませていくためだろう、一気に記憶と力を解放させればテンリの身が持たない」
「な、なるほど」
クロナとリリナの記憶云々はさておき、俺の記憶と力を別けた理由には納得だ。
「ってまだあの本のような物があるんですか!?」
「・・・「ある」」
驚きだ。
「一体どこに?」
「・・・天空城、世界樹、深海殿、後は魔界」
「なんて物騒そうな場所にあるんですか!本に関してはすぐに手に入ったのに」
「そんなことはないぞ、あの地下には元々罠が幾重にも仕掛けられていたからな」
「そうなんですか!」
「うむ、我にかかれば雑作もないがな」
「クロナが突破したんですか!」
「感謝するがよい」
そしてその夜眠りにつくと過去の記憶を大量に思いだし余りの情報量の多さに翌日から熱と頭痛で3日程寝込んでしまった。
4日目には何とか落ち着き動ける程にはなった、ただ思い出した記憶はどれも中途半端でピースの足りないジグソーパズルのようでとても違和感があり落ち着かない。
無理して動きオークションに出られないのは嫌だったので当日まで部屋でゆっくりすることにした、その間クロナとリリナは俺の部屋に入り浸り親達は時間ができると様子を見に来てくれた、俺が寝込んだ事を知ったフォルク達は驚いたものの何かと見舞いに来てくれた。
そんなこんなでオークション当日、完全復活した俺は準備を済ませクロナとリリナ、そして護衛と世話係りとしてフォルク、ソーシャル、ナユユの3人を同行させることにした、この3人の基準はフォルク達8人の中で今現在の上位3人だ、トップはソーシャル、次にフォルク、そしてナユユの順だ。
彼等の次にリュリュネが続きトロネとフォンが同じくらいの実力でコークルダ、ヘイトットと続く。
この中でソーシャルが頭一つ飛び抜けて強く冒険者ランクもBランクに匹敵する程になっている、さらにはメイドとしても優秀で今やエレノールの屋敷で知らぬものはいない、世話から料理に交渉から指示だしと何でも出来るようになってきている、一体どこまで行くのだろう。
そして驚きなのはナユユだ、コークルダとヘイトットと同じ日に鍛えだしたのに今やフォルクに並ぶ程に強くなった、まだ辛うじてフォルクの方が強いが気を抜けばあっという間に抜かされるだろう、リュリュネは本気で悔しがりトロネとフォンは驚きコークルダとヘイトットは立つ瀬がなかった、頑張れ男性陣。
「さて、ではゲートで魔王城に行きます、準備はいいですか?」
クロナとリリナはいつもどうりだ、ソーシャルは何故かやる気に満ちている、フォルクとナユユは緊張していた。
「なぁテンリ、じゃなかったテンリ様、護衛はホントに俺達でいいのか?」
「構いません、そもそも今回は護衛が必要と言うより世話役として来てもらうので、強いことに越したことはありませんが、それでは行きましょうか、クロナお願いします」
クロナは頷きゲートを開く、中をくぐり魔王城に到着した、前回魔王城に訪れた時はクロナの部屋だったが今回は違う部屋だ。
「お待ちしておりました」
ゲートをくぐった先で待っていたのは六天魔刻序列三位のゲルナだ。
ゲルナは深々と頭を下げゆっくり顔を上げる、とても洗礼された動きだ。
「で、できる!」
何故かソーシャルが衝撃を受けていた。
「それでは皆様クルウィル様の元にご案内させていただきます」
ゲルナに案内され部屋を後にした。
いつもお読みくださりありがとうございます。
誤字脱字の報告ありがとうございます。
コロナが猛威をふるっています、自粛要請で遊ぶ場所がないですがいつまで続くのやら。
次の投稿も3週間以内に出来ればと思っております、今後ともよろしくお願いします。




