第81話 過去の思いでは幸せでした。
何とか投稿できました。
中に入るとそこはかなり広い部屋だった、何だか居心地がよくさっきまでの嫌な感覚や身体の重さはない。
どうやら部屋の奥には祭壇がある。
「先程までと違い何だか神聖な感じがする部屋ですね」
「・・・なんだか安心できる」
「そうですね、ただ何か起こりそうな感じがするのはなんででしょう」
「・・・大丈夫、私がいる」
リリナは自信満々にそう言って胸をはる。
確かにリリナがいれば並大抵の事はどうにかなる、何せ竜人族最強の存在でこの世界の創造主である女神アトレイアの存在を切り離して生まれた一人なのだ。
「頼りにしてます」
「・・・ん、安心して」
「それはそうとあのいかにも何かありますよって祭壇には向かいますか?」
「・・・当然」
俺とリリナは祭壇に近づき階段を昇る。
祭壇には一冊の本が置かれていた。
「これはなんの本なんでしょうね?」
「・・・わからない」
「そうですよね」
「・・・でもこれが目的でここに来た」
「この何だかわからない本が目的なんですか?」
「・・・そう、だってこれはテンリのだから」
「俺の、ですか?」
リリナはコクりと頷く、俺の本って言われてもまったく身に覚えがないのだけど、前世の記憶にはまったくない、なら更に前の持ち物なのか?
「・・・この本から何か感じる?」
「うーん」
俺はじっと本を見つめる。
「いえ、まったく何も感じません」
「・・・そう、なら触ってみて」
「え!こんな得体の知れないものをですか?」
「・・・大丈夫」
「その根拠は?」
「・・・テンリのだから?」
「なんて曖昧な!」
そういいながらも俺はその本を恐る恐る触る、その瞬間フワッっと身体が軽くなり気づけば綺麗な日本庭園のような場所に立っていた。
「ここは!?リリナ?」
俺は周りを見るがリリナの姿がない。
「おやおや、これは良いことなのか悪いことなのか、まさかこれが使われるとはね」
俺は驚き声のした方を振り向く、先程までなんの気配も感じなかった、いや、今も気配を感じることは出来ない、しかしそこにはちゃんと人が立っている、なぜか浴衣を着て縁日で買ったようなお面を着けていて更にはわたあめが入った袋にリンゴアメの袋を持ちたこ焼きを片手に持つ。
「えっと、あなたは?」
「フッフッフッ、私か、私は」
「私は?」
「君だ!」
俺を指差し決めポーズをとる、なにこの痛々しい人。
「へー」
「あれ?反応薄くない?ちょっと恥ずかしくなってきたんだけど、ってかその痛い人を見るような目をやめて、本当にやめて、お願いしますやめてください!」
なんだろうか、凄く可哀想な、残念な人だ。
「あの、ここがどこか聞いても?」
「あ、あぁ、かまわないよ、その前にとりあえずそこに座らないかな」
浴衣を着た男はベンチを指差す。
「わかりました」
俺は何があってもいいように警戒しながらもベンチに座る、浴衣の男もすぐ隣に座った。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
「まぁ一応」
「ははっ、さて、まずは私の事を教えよう」
男は仮面を外し俺はそれに驚く。
「な!」
「先程も言ったけど、私は君だよ」
穏やかに笑うその顔は確かに俺の顔に似ている、だいぶ大人な顔立ちではあるが。
「そしてここは魔道書の中だ、とは言っても精神世界のようなものだから君の意識が一時的にここに来ているにすぎないけどね」
「どうやったらもとの場所に戻れますか?」
「そのうち戻れるよ」
「そうですか」
「あれ?それだけ、余り驚いてないね」
「そうかもしれません」
「ふーん、力も記憶もないのに堂々としたものだ、さすが私」
俺は大人な顔の自分に苦笑いをする。
「それにしても今の自分がこれ程弱くなってるとは驚きだよ」
「あの、俺ってそんなに弱いんですか?」
「うん、弱すぎるね、そんなんじゃ下級神に勝てないどころか下級の天使にすら勝てないよ」
「神様や天使様と戦う予定はないんですけど」
「今の所大丈夫かもしれないけど、私もアトレイアも多くの神達に恨みを買ってるからね、気をつけておかないと」
「え!一体何をすれば神様に恨まれるんですか!?」
「うーん、そうだね、例えば、神達が構築した世界を引っ掻き回したり破壊したり、あ、実験の為に神を捕まえたりもしてたよ」
「一体なにやってるんですか!?」
「いやーあの頃は若かったなぁ」
昔を懐かしむもう一人の自分にどう答えたらいいか全くわからない。
「そうだ、今の私にこれを渡さないと」
そう言って懐から短剣を取り出す。
「それは?」
「よくぞ聞いてくれました!ふっふっ、気になる?気になっちゃうよね?」
この人うざいな。
「いえ、やっぱりいいです」
「またまた、ホントは気になってしょうがないくせに」
「いえ、まったく」
「わかってる、わかっているよ、もうツンデレさんなんだかグハッ!」
俺はイラッとしたのでつい顔を殴ってしまった。
「酷い!今の子は暴力で物事を訴えるの!」
「ごめんなさい、つい、余りにもうざかったので」
「酷い!これがなんなのか教えあげないよ」
「構いませんが」
「え!ホントに教えないよ」
「はい、わかりました」
「なんで知りたくないのさ!」
なんでキレられるんだ、教えないって言ったのはあなたでしょ。
「はぁ、あー、なんなのか知りたいなー」
「仕方ない、教えてあげよう」
聞きたいと言ったら途端に機嫌が良くなった、まったくもってめんどくさい。
「これは過去の記憶の断片でもあり力の一部でもあるものです!」
「そ、そうですか」
思ったより重要なものだった。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございま」
「えい」
過去の俺は俺の心臓に短剣を突き刺す。
「くっ!」
俺はそのまま椅子から倒れる。
「ゆ、油断しました」
「ふっふっ、油断は禁物だよ」
まさかこんなところで死ぬとは、前回といい今回といい呆気ないものだ、そう思いながら目を閉じる。
「おーい、起きろ~」
過去の俺はそう言いながら俺を揺さぶる。
「あれ?大丈夫?」
どんどん揺さぶりが強くなる。
「え、ちょっと、なんで動かないの!?」
刺した張本人がなぜか焦っている声が聞こえる、まったく心臓を刺されて生きている訳がないでしょう。
「ちょっと!目を覚ましてー!」
揺さぶりが激しく俺の身体がガックンガックンと揺さぶられる。
「いい加減にしろや!」
「グハッ!」
余りにも酷い揺さぶりにキレ思い切り過去の俺を殴り飛ばす。
「心臓を刺されて生きてる奴がどこにおるねん!」
過去の俺はゆっくり立ち上がり俺を指差す。
「今、そこに」
そう言われ俺はハッとなり自分の心臓の辺りを触るが短剣も血もついていない。
「なんで!?」
「さっきの短剣はあくまで記憶であり力の結晶だからね、それを君の中に戻したにすぎないんだよ、形はどうあれ君を傷つける物ではない」
「紛らわしいでしょ!なんでそんな事したんですか?」
「面白そうだから」
その言葉を聞きどっと疲れた。
「さて、現実に戻る時間のようだ」
そう言われ自分の身体を見ると身体が光に包まれていることに気づく。
「いずれ記憶と時間が戻ってくるからゆっくり待っているといいよ」
「待って、まだ聞きたいことが」
「それじゃバイバイ」
過去の自分は手を振る、俺が過去の俺を掴もうとするがその前に光が強くなり目を閉じた。
「さて、現実に戻ったね」
その場に取り残された過去の私は椅子に座り直す。
「ここは私が生きた記憶の断片、そして力の一部を封じた場所」
満足そうに空を見上げる。
「現代の私は今後どのように過ごすことやら、ん?」
ジャリジャリと小石を踏む音が聞こえそちらを見るととても可愛らしい少女が近づいてくる。
私はゆっくりと手を前に伸ばす。
「そんなに手を繋ぎたかったの?」
伸ばした手を優しく少女が包む。
「そうだね」
「ふふっ、ねぇ少し歩きましょ」
私はゆっくり立ち上がりその少女と歩き出す。
「それで、現代の自分と会った感想は?」
「痛い思いをすると思わなかったよ」
「あははっ」
傍らで笑う少女に優しく微笑む。
ここはしょせん過去の記憶の中、決して未来に進むことは出来ない。
「愛しているよ、アトレイア」
その少女、アトレイアはにっこり笑い抱きついてくる。
ここはしょせん過去の記憶の中、この私もアトレイアもここにある全ての物が過去の思いでだ、だけどアトレイアがいればそれだけで幸せだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字の報告助かっております。
次の投稿なのですが3週間以内に出来るように頑張ります。
コロナ早く終息して欲しいです。




