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第64話 部屋を覗かれました。

 翌日の朝、俺は腕が痺れ身体が重いと目を開けた。


「あれ、動けない?」


 寝惚けながら顔を腕の方に向けるとそこにはアトレイアとリリナが俺の両腕を枕にして身体に抱き付いて眠っていた。


 俺はそれを見て一瞬で目が覚め一気に顔が熱くなるのがわかった。


 おかしい、俺はカロンと話した後少しだけアトレイアとリリナの2人と話をして自分の部屋で眠ったはずだ、その時リリナは与えられている部屋に、アトレイアは用意された部屋に向かったはず、それにこの部屋には侵入防止の魔法をかけてあるからあっさり侵入されることはないはず。


 しかしよく考えてみればリリナは最上級クラスの存在でこの程度の魔法はどうとでもなるしアトレイアにいたってはこの世界の神だ、魔法をかけて置いたところであって無いようなものだろう。


「とりあえずこの状況をどうにかしないと」


 俺は2人を揺すって起こそうとするがまったく起きる気配がない、この状況を早くどうにかしたい、何よりも俺が恥ずかしい、それにカロンに知れたらまた説教が始まる、しかもそれを受けるのが何故か俺だけだ、理不尽なことこの上ない。


「ちょっとアトレイア、リリナ、2人共起きて!」


 リリナはまったく反応しないがアトレイアは軽く目を開ける。


「アトレイア起きてく」


 俺が話し終わる前に扉をノックする音が聞こえる。


「テンリ様、おはようございます、リリナ様がお部屋におられないのでこちらに来ていませんか?」


 ソーシャルの声だ、しかもリリナを探している、この状況を観られるのはよろしくない。


 俺は返事をしようと口を開きかけたが寝惚けたアトレイアは可愛らしい笑顔でそのままキスをしてくる。


「あれ、まだお休みちゅうでしたか?リリナ様が部屋にいないって事はテンリ様の部屋に侵入を、ハッ、寝ているテンリ様の部屋に!」


 扉越しにソーシャルが何か言っているのが聞こえた、頼むから開けないでください、心の中でそう叫ぶ。


「失礼します」


 俺の願いは虚しく扉は開かれソーシャルは固まった。


「な、な、な、何をしているんですかー!」


 アトレイアはキスを終えると2度寝を始めソーシャルは凄い形相で近付いてくる。


「テンリ様、一体どういう状況、って言うか、誰ですかこの女は!それにリリナ様まで、テンリ様、詳しくお話ししていただけますよね!」

「俺もよくわからないんだけど」

「言い訳はしなくて結構です!」

「はい」


 俺は今日起きたときの状況を話す、アトレイアの事は少し暈しながら話した、さすがに女神ですとは言えないからね。


「お話しはわかりました、しかし私が納得するかしないかは別ですので」

「そんな事言われても」

「それにいつまで抱き付かれているつもりですか?」


 ソーシャルは満面の笑みでそう問いかける、ただし目は笑っていない。


「そ、その、動けないんだけど」


 ソーシャルは魔法で氷を作る、さりげに無詠唱だ、そしてその氷をアトレイアとリリナの服の中に入れる。


「ひゃっ!」

「・・・冷た!」


 2人は服の中に氷を入れられ一瞬で飛び起きた。


「おはようございます」


 ソーシャルは笑顔で挨拶をする、だがけっして目は笑っていない。


 アトレイアとリリナはソーシャルを見る。


「ちょっと君、冷たいじゃないか!せっかく私が気持ちよく眠っていたのに」

「・・・ソーシャル、酷い」


 ソーシャルはコホンと咳払いをして頭を下げる。


「これは失礼いたしました、ですがテンリ様が御二人が起きてくれないととてもお困りだったので致し方なく、それよりも何故御二人はテンリ様のベッドにいらっしゃるのですか?リリナ様、節度ある行いをしていただかないと困りますと何度も言いましたよね、それにあなた様はどちら様でしょうか?テンリ様にベタベタと馴れ馴れしく触らないで頂けませんか」


 ソーシャルの刺々しい言い方にリリナは耳を塞いだ。


 アトレイアはフッと笑いベッドの上に立ち上がる。


「君は私の事が気になるの?ならばよく聞きたまえ、私はテンリの正妻にしてこの世界のそうふぐ!」


 俺はアトレイアが全てを言い終える前に手で口を押さえた。


「この子はレイア、いろいろあって昨日から家に泊まってるんだよ、今日も泊まってくから、それと俺にとってとても大事な方だから出来るだけ失礼がないようにお願いね」

「なっ!くっ、わ、わかりました」


 ソーシャルは不服そうな顔をしながらも頷いた。


「ねぇリリナ、聞いた、テンリが私の事大事だって!」


 アトレイアは笑いながらバシバシとリリナの背を叩く。


「・・・痛いです」


 リリナはそう言いながらアトレイアから距離を取った。


 その時視線を感じその視線の元をたどると少し扉が開いておりカリナとカレン、タリアが部屋を覗いているのがわかり3人は見つかったのがわかるとすぐに逃げていった。


 アトレイアは上機嫌でリリナはアトレイアから距離を取り耳を塞ぎソーシャルはそんな2人を恨めしそう見ていて3人が覗いていたことに気づいていないようだ。


 そしてアトレイアとリリナは服を着替えるためにソーシャルにつれられ一旦部屋に戻り俺も服を着替えその後は食堂に向かった、食堂にはクロードとカリナ、カロンにカレン、そしてタリアが座っている。


「おはようございます」


 俺は朝の挨拶をして椅子に座る。


「修羅場だったな」


 そう言いながらカリナはニヤニヤと笑う。


「覗き見なんてやめてください」

「ソーシャルの大声が聞こえたから気になるじゃない」


 カレンはそう言って口を手で押さえて笑う。


「それでもやめてください」

「好奇心には勝てない生き物だから仕方ないよ」


 タリアはそう言って笑った。


「テンリ、後で話がある」

「はい」


 カロンにそう言われ俺は素直に頷いた。


「それにしてもテンリちゃんいろいろ凄い事になってるね、話はカロン君とカレンちゃんから聞かせてもらったよ」

「そうですか」

「私はテンリちゃんと血の繋がりはないけど大事な家族だから、何かあればいつでも相談にのるからね」

「ありがとうございます」


 タリアの言葉に俺は安心し感謝した。


 その後すぐにアトレイアとリリナ、そしてソーシャルが入って来た、アトレイアとリリナは椅子に座りソーシャルはリリナの後ろに立つ。


 アトレイアとタリアはお互い簡単な自己紹介を済ませそれが終わると朝食が運ばれてきた。


 昨日と違い今は食堂にメイド達がいる。カロン、カレン、タリア、セバスが緊張しているのが伝わっているようでメイド達も同じく緊張している、ちなみにクロードとカリナそれにリリナは普段通りだ。


 ソーシャルはこの緊張した雰囲気に朝アトレイアの服に氷を突っ込んでしまった事を後悔していたりするがそんな事皆が知るよしもなく食事が進んでいく。


 緊張はしているものの会話は出来ているので重苦しい雰囲気になっていないのは良かった。


 朝食を終えると俺はカロンと共に食堂から移動し部屋を移る。


「テンリ、朝の出来事を聞いたのだが」

「はい」

「もう少しどうにかならないか」

「俺には荷が重いです、そもそも部屋には侵入防止の魔法をかけてあったのですが、全て破られていました」

「そうか、それとなくでいいがお前から2人にもう少し行動を自重するように言ってもらえるか」

「言うだけなら、あの2人が自重するかはわかりませんよ」

「それでいい、いろいろ体面があるからな」

「はい」


 話が終わり部屋を出る、やたらと長い説教を受けなくて良かった。


 俺が部屋を出るとアトレイアとリリナが部屋の外で待っていた。


「お説教は終わったかい?」

「自覚があるなら行動をもっと自重してください」

「考えとくよ」

「お願いしますよ」

「さて、そんな事より今日は何をしようね」

「そんな事って、はぁ」


 朝からなぜこんなに疲れなきゃいけないのか、いや、原因は目の前にいる2人なのだが、俺にはどうすることも出来ない。


「私はテンリと居られれば何でもいいんだけど、あ、せっかくだからテンリが鍛えてる子達を紹介してよ」

「わかりました、今の時間なら訓練場にいるはずです」

「それじゃ行こうか」


 俺はアトレイアに手を引かれリリナはその後ろをついて訓練場に向かった。


 訓練場ではフォルク達が激しい模擬戦を繰り広げていた。


「なかなか頑張っているみたいだね」

「当然です、サボったり手を抜けばお仕置きが待っていますから」


 俺はニヤリと笑う。


「テンリ、君ってたまに悪い顔を浮かべるよね」

「そんなことないですよ、気のせいです」


 アトレイアと話していると模擬戦が終わりフォルク達は休憩をし始める、その時にフォンがこちらに気づき手を振る、俺は手を軽く振り替えしアトレイアとリリナと共に近付いていく。


「テンリ様、リリナ様おはよう」


 フォンは俺とリリナに挨拶をした後アトレイアを見る。


「テンリ様のお客様ですね、私はフォンって言います」


 フォンは頭を下げる。


「私はレイアだよ、よろしく」


 アトレイアとフォンが挨拶しているとフォルク達が集まって来て横一列に並ぶ、フォンもすぐにそこに加わる。


 俺は彼等に改めてアトレイアを紹介した。


「ところでレイア、先程の彼等の訓練はどうですか?」

「頑張ってはいると思うよ」

「実戦で使えると思いますか?」

「うーん、どうかな、先程模擬戦を見た限りだと動きがぎこちなかったり判断に迷いがあったりしたけど、Cランク程度の魔物なら倒せる実力はあるんじゃないかな、パーティーで戦えばBランクの魔物とも戦えると思うよ」

「そうですか」

「うん、一般的に見てかなり順調に実力が伸びてるし強いと思うよ、ただ」

「ただ?」

「今のままだとテンリには必要ないね」


 アトレイアの言葉にソーシャルがピクッと反応する。


「レイア様、どうして私達は必要ないと言いきれるんですか?」

「だって今のままじゃ弱すぎでしょ」

「な!今強いっておっしゃったじゃないですか!」


 ソーシャルはフォルク達の一歩前に出る。


「私達はあなたの後ろにいらっしゃる五行天竜の序列一位であるリリナ様や元十二聖天で序列二位まで上り詰めたセバス様、そしてお隣にいらっしゃるテンリ様の教えを受けて訓練をしています、弱すぎなどと見くびられては困ります」

「事実を言ったまでだよ」

「テンリ様達の訓練が間違っているとでも」

「いやいや、そんなことは言ってないよ、負け犬ちゃん」

「な、ま、負け、犬、ですって」


 ソーシャルは顔を真っ赤にして今にも怒り狂いそうだ。


「そりゃその辺の人らと比べればそこそこ強いけど君らはテンリの護衛として雇われているんでしょ、それなのにテンリよりも弱いんだから今のままじゃ護衛としての価値がないじゃない」

「それは」

「それに負け犬ちゃんはテンリの護衛でもないでしょ、リリナの雇われメイドなんだから」

「うっ」

「まぁいいや、せっかくだから私が模擬戦の相手になってあげるよ、勿論手加減してあげるから安心して」

「ふ、ふふっ、いいでしょう、そこまで言うのなら相手になります、ただ怪我をされても」

「大丈夫、大丈夫、君達程度がいくら足掻いても怪我をする方が難しいから」

「なんですって!」

「もちろん全員でかかっておいで」

「私達全員を相手にするつもりですか!?」

「勿論そのつもりだけど、だって君達程度が百人いようが千人いようが私の服を汚すことすら出来ないんだから」


 この言葉には流石にフォルク達にも火が着いたようで武器を構える。


「テンリ、私の華麗な姿を見ててね」

「ほどほどにお願いします」

「大丈夫、大丈夫、怪我なんてさせないから」


 俺とリリナは後ろに下がりアトレイアは一歩前に出る。


「さっ、何処からでもかかっておいで」


 アトレイアの言葉にフォルク達は移動をしようとした。


「「「「「「「「え!?」」」」」」」」


 しかしいつの間にか彼等は地面に倒されていた。


 フォルク達は何が起きたかわからずに驚いた顔をする、俺も何をしたかわからずリリナを見る。


 しかしリリナも何が起きたかわからずに驚いた顔でそのようすを見ていた、まさかリリナですら何が起きたかわからないなんて!


 ソーシャルは直ぐに起き上がり距離をとる、しかしその顔には驚きで満ちている、何をされたかわからないから仕方がない。


「マジかよ!?」

「な、何が起きたの!?」

「気づいた時には地面に倒れてたよ!?」

「私も全然わかんない!?」


 フォルク、リュリュネ、トロネ、フォン達四人も起き上がり武器を構える。


「なんだよ今の!?」

「わかんないわよ!?」

「意味がわかりません!?」


 フォルク達に少し遅れてコークルダ、ナユユ、ヘイトットも立ち上がった。


「もうお終い?弱いにも程があるよ、仕方ない、ちゃんと攻めさせてあげるよ」


 アトレイアはニヤリと笑い挑発をする。


「いくぞ!」

「うりゃー!」


 フォルクとコークルダはアトレイア目掛け走りだして剣を思い切り振り下ろす。


 しかしアトレイアはそれをあっさりと指で挟み止めてしまう。


「な!?」

「うそだろ!?」

「まったく、動きが単調すぎるよ、もっと考えて行動しないと」

「くそっ、な、剣がびくともしない!?」

「なんだよこれ!?」


 アトレイアに捕まれた剣は押せども引けどもびくともしない。


「これならどう!」


 リュリュネは両手が使えないアトレイアの後ろから双剣で斬りかかる。


「甘いよ」


 アトレイアは剣を思い切り振りフォルクとコークルダをリュリュネにぶつける。


「マジかよ!?」

「うわっ!?」


 フォルクもコークルダも剣を力一杯握っていたためそのままリュリュネにぶつけられる。


「きゃ!」


 リュリュネとフォルク、コークルダはそのまま倒れて延びてしまった。


「くらえ!」


 ナユユは短剣を何本も投げる、しかも短剣を風の魔法をで操り色々な方向からアトレイアに飛んでいく。


「なかなか器用なことするね、これなら大道芸人になれるよ」


 しかしアトレイアは投げられた短剣を次々に指に挟んでいく。


「これもダメなの!?」


 アトレイアは手に取った短剣を投げユナナがやったことをそのままやり返す、避けようとしたユナナだがまた地面に倒される。


 そして短剣が顔の両側、身体の両側、股の間とギリギリのところで地面に刺さり身動きが取れなくなった、ちょっと涙目だ。 


「ウォーターショット」

「サンダーアロー」


 トロネは小さな水の塊をたくさん放つ、そのすぐ後にフォンが素早く雷の属性の魔法を放つ、初級魔法ではあるが2人共無詠唱だ。


「まだまだ甘いね」


 アトレイアが指を鳴らすと2人が放った魔法が消える。


「「うそ!」」


 魔法が消され2人は驚く。


「いちいち驚かないの、隙だらけだよ」


 アトレイアはやれやれと肩を竦める。


「ん?」


 アトレイアの回りが土の壁に覆われていく。


 どうやらヘイトットが魔法でアトレイアの動きと視界を塞いだようだ。


「エクスプロージョン!」


 そしてその土の壁ごとソーシャルが火の上級魔法を放ち大爆発が起こる、俺と訓練しているときには使っていなかった魔法だ、いったいいつの間にこんな魔法を覚えたのだろうか。


「はぁはぁ、誰が負け犬よ」


 ソーシャルは全ての魔力を注ぎ込んだようで膝をつきながらその爆発を見ている。


「なぁソーシャル、ちょっと、いや、かなりやり過ぎなんじゃ」

「私達も思い切り攻撃したけどこれはちょっと」


 気がついたフォルクとリュリュネはソーシャルに近づきそう言う。


「相手はテンリ様のお客様だよ」

「何かあれば私達捕まるんじゃ」

「最悪死刑とか」


 トロネ、フォン、ナユユはどうしようと焦りながらアワアワしている。


「こんなのくらったら死んじゃうよな」

「ええ」


 気がついたコークルダがヘイトットと遠い目をしていた。


 ソーシャルはなんとか立ち上がり爆発した先をジッと見る。


「くっ、そんな、私達の、負けですね」


 ソーシャルはガッカリしながらそう言い地面に座り込んだ。


「「「「「「「え!?」」」」」」」


 フォルク達7人はソーシャルの言葉に驚きアトレイアが立っていた所を見る。


 風が吹き砂や煙やらが晴れ視界がはっきりする。


「これでお終い?」

「「「「「「「嘘!?」」」」」」」


 何事もなくアトレイアはその場に立っていた。

 いつも読んでくださりありがとうございます。

 誤字脱字の報告大変助かっております。

 最近また一段と寒くなってきました、皆さん風邪には気をつけてください。

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