第56話 世界を人質にとりました。
ノックをし返事の後にカロンの部屋にはいる。
「ずいぶん早く帰って来たのだな」
「意地悪な言い方ですね、離れたところから護衛としてつけさせていた者達からの連絡を受けているでしょうに」
「それにしてもまたいろいろと問題に出くわしたようだな」
「わざとではないんですよ、ただその件で報告しに来たわけではあるんですが」
「では聞こうか」
俺はカロンに屋敷から出てから今に至るまでを話した。
「大手クランに冒険者の殺し屋、ボス部屋の異変に加えまた子供を拾って来たのか」
カロンは盛大な溜め息を吐き額を押さえる。
「よくもまぁ半日足らずでいろいろ問題を抱え込んだものだ、ただボス部屋の話だけは初耳だな」
「それは仕方がないことです、緊急でどうにかしなければならない事ですね、塔のダンジョンのボスしかも最初のボス部屋で起こった事ですから」
「冒険者ギルドのマスターに至急連絡しておこう」
「その事なんですが俺が調査に向かおうと思います」
「とりあえず意見を聞こうか」
カロンにすぐに否定されるかと思ったが話を聞いてもらえるので俺は少し驚いた顔をした。
「すぐに却下されるかと思いました」
「黙って動かれるよりはな」
「そうですか」
俺は苦笑いをする。
「で、どうするつもりなんだ?」
「カリナお婆様とクロードお爺様に協力をしてもらおうかと思います」
「な!本気で言ってるのか!」
バンッと机を叩き思い切り椅子から立ち上がり驚いた顔をしながら俺の方に顔を近づける。
「父様近いです」
「す、すまん、しかしホントにあの方達に頼むのか?」
「イレギュラーな問題が起きてもあの2人ならどうとでも出来るでしょうし言い方が悪いですが中途半端な人材を派遣するより余程安心かと思いますが」
「それは、そうかもしれないが」
「ついでに少し鍛えてもらおうと思います」
「な!正気か!?」
「何故ですか?」
「この街が滅びるぞ」
「そんな事はさすがにないと思いますが、とりあえず街中ではやらないので安心してください、どこかしらのダンジョンや迷宮に行くと思います」
「そうか、そうだな、そうしてくれ、それでいつ呼ぶのだ?」
「明日には1度話をしに行こうかと」
「わかった」
「それと拾って来た3人組の話なんですが」
「それはお前に一任する、報告だけ上げてくれ」
「わかりました、後は大手クランと冒険者の殺し屋達なんですがそれもこっちで処理しても良いですか?」
「好きにしてくれ」
俺はその言葉に口角を上げてニヤリと笑った。
「報告はちゃんとしてくれよ」
「わかりました」
俺はカロンに軽く頭を下げ部屋を出てリリナやフォルク達を待たせてある部屋に向かう。
部屋に入るとリリナが近づいてくる。
「・・・どうだった?」
「どの話ですか?」
「・・・全部」
「全て俺に一任してもらいました」
「・・・そう」
俺はリリナから視線を外しいまだにガチガチの3人組、コークルダ、ユナナ、ヘイトットに近づく。
「さて、貴方達の今後の話をします」
「「「はい!」」」
3人は緊張しながら俺を見る、そんな中俺はこの3人に今後の話をしていった、結果的に言えば扱いはフォルク達と一緒である。
「以上がここでの契約になります、よろしいですか?」
「「「はい!」」」
3人の返事を聞き俺は頷く。
「質問などはありますか?」
そこでユナナが手を上げる。
「ユナナさんなんでしょうか?」
「あの、私達が泊まっている宿に荷物を置いたままなので取りに行きたいのですが」
「そうですか、ではフォルク君、リュリュネさん、トロネさん、フォンさん、貴方達は今からこの3人と共に宿屋に行き荷物などを一緒に取りに行って下さい、こちらに戻ったら屋敷や宿舎を案内し今後の説明や他の者達への紹介をしてきてください」
「「「「ハッ!」」」」
「今日は以上です、明日はいつもの時間に訓練場に来てください、勿論そこの3人組も連れてきてくださいね、では解散」
フォルク達は頭を下げ部屋を出ていく。
「・・・テンリは今からどうするの?」
「教会に行きます、一緒に行きますか?」
「・・・行く、ソーシャルも来る?」
「はい、孤児院によってもよろしいですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます」
俺達は馬車に乗り教会に向かった、孤児院のシスターや子供達の手土産も忘れずに持って行く。
教会につき3人で中に入る、珍しく司教は見当たらない、最近は教会や孤児院に行くことはあってもお祈りなんてしていなかったなと思い久しぶりにアトレイアの像の前で手を併せ目を瞑る。
次に目を開けばそこは草原で椅子に座り机の上のお菓子を美味しそうに食べているアトレイアと目が合った。
「お久しぶりですね」
「ホントだよ、私は君が来てくれるのを首を長くして待っていたんだから、それとリリナ、君は私に何か謝ることがあるよね」
「・・・うっ」
俺の後ろからひょっこりとばつの悪そうな顔のリリナが顔を出しゆっくりと俺の隣に立つ。
「リリナ、なにか言うことは?」
「・・・順番を守らなくてごめんなさい」
シュンとした顔のリリナが深々と頭を下げる。
「はぁ、まぁ許したげるよ、それに君がテンリの側にいるお陰でいろいろと楽しいからね、ただあの子に怒られるのは覚悟しといてよ」
リリナはビクッと身体を震わせ涙目になる。
「まぁこっちに来て座りなよ」
アトレイアに促され椅子に座る。
「所で君達が来たからちょうどいいや、聞きたかった事があるんだけど」
「なんですか?」
「ダンジョンのボス部屋で何かあったの?突然リリナとのリンクが切れたからビックリしたんだけど」
「実はその事を聞きにアトレイアに会いに来たんだ」
そして俺は塔のダンジョンのボス部屋に入ってからの事を詳しく話した。
「なるほどね、これはちょっと予想外な事が起きたね」
「アトレイアでもわからないんですか?」
「痕跡が見事にないからね、さてどうしようか」
「一応カリナお婆様とクロードお爺様に調査を手伝って貰おうと思っているんだけど」
「それがいいね、余程の事がない限りあの2人なら大丈夫でしょ、寧ろあの2人が対処出来ないほどの何かが起こったら天使を派遣しないといけないくらいだ」
アトレイアはカップを手に取り一口飲む。
「とりあえずその件は任せるよ、さて、それとは別にテンリに言わなきゃいけないことがある」
アトレイアは真面目な顔をして俺に向き直る。
「な、なんですか?」
すごく真剣な顔をされ俺はゴクリと喉をならす。
「なんでもっと頻繁に会いに来てくれないんだ!」
「は?」
「私は毎日のように君がここに来てくれるのを待っていると言うのに君はなかなか来てくれないじゃないか!」
「えっと、いろいろ忙しくて」
「そんな言い訳聞きたくないね、私はいつも待っているんだよ、毎日来てくれても構わないんだよ、むしろ来てよ、毎日毎日代わり映えのない仕事をしてノルンの小言を聞かされて、神様だってストレスが溜まるんだからね、君はそれを癒しに来るべきでしょ、忙しいって言ったけど私はリリナを通じてテンリがここに来れる時間があるのをちゃんと解ってるんだよ、そりゃリリナが側にいて感覚の共有があるから悪くは無いんだけどやっぱり近くでこうして話がしたいし触りたいんだからね、ちゃんとその辺しっかりしてくれないと私が困るんだよ、テンリ成分が足りてないんだから」
アトレイアはかなり捲し立てて話してくる、それにテンリ成分ってなんだよ。
「わかったから、ごめんね」
「なら毎日来てくれる?」
「毎日はちょっと、ただ出来るだけ時間を作って会いに来るようにしますよ」
「約束だからね、嘘ついたらこの世界がどうなるかわからないよ」
世界を人質に取るとかやめてくれ、人ではないけれど。
「頑張ります」
「ならまぁいいけど」
その後はなかなか来なかったためにいろいろ話をしする事になった、内容はリリナとの繋がりや神界からも見ているために知っているとの事だが俺の口から聞きたいとかなりの時間話をした、その間リリナは大人しくひたすらお菓子を貪りついていた。
「お楽しみの所申し訳ありませんがそろそろお時間です」
その声に驚き声がした後ろを振り返る、そこには笑顔で立っているノルンがいた。
「ノルンさんご無沙汰してます」
「テンリ君違うでしょ、ノルンお姉ちゃんです」
「ノルンお姉ちゃん」
「はい」
ノルンは笑顔で返事をした。
「なにがノルンお姉ちゃんだよ、いい年してお姉ちゃんと呼ばせるなんて笑っちゃうね」
「あらあら、そんな失礼な事を言うのはどこの駄女神様でしょうね~?」
ノルンは笑顔でアトレイアの頬を引っ張る。
「いひゃいいひゃい、冗談でひゅ」
「え?何を言ってるかわからないんですけど、ちゃんと話してもらえますか」
「ちょ、ホントにごめんなひゃい」
「まともに話すことも出来ないんですか?」
ノルンは笑顔でアトレイアの頬を引っ張り続ける、笑顔ではあるがけっして目は笑っていない。
数分後やっとの思いで解放されたアトレイアは赤くなった頬をさすりながらノルンを見る。
「ノルンはなにしに来たんだよ」
「アトレイア様の休憩が終わったのを教えに来たのです」
「もうそんな時間なの!」
「はい」
アトレイアは俺の方に向き直る。
「テンリ、そろそろ仕事に戻らねばならん」
「では俺達もそろそろ戻りますね、近いうちにまた来ます」
「絶対だからね!」
その言葉に頷き俺とリリナは光に包まれて眩しさに目を瞑り神界から消えた。
それを見送ったアトレイアとノルン。
「駄々をこねずに素直に帰すなんて成長しましたね」
「私がよく駄々をこねてるみたいな言い方は止めてくれないかな」
「なにを言ってるんですか、いつも駄々をこねて我が儘で気紛れなくせに」
「ノルンはホントに失礼な奴だな!」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ!」
ひとしきり言い合った後にアトレイアは真剣な顔をする。
「で、テンリが話していた確か今は塔のダンジョンって呼ばれてるんだっけ、あそこの最初のボス部屋って調べてくれたんだよね」
「ええ、悪魔が関わっているみたいです。ですがそれ以上は分かりませんでした」
「そうかい」
「それだけですか?」
「なんで?」
「てっきりテンリ君が襲われたから過保護になるか発狂するかと」
「失礼な、そんな事しないよ」
ノルンは珍しい者でも見るような目を向けた。
「なんだいその目は、ホントに失礼な」
「熱でもあるのかと」
「ないよ!第一リリナが瞬殺出来るような相手だったんだから大丈夫だよ、それにテンリには本来の強さまで戻って欲しいからね、成長できる時に邪魔はしないよ」
「そうですか、それもそうですね」
「さて、それじゃ仕事に戻りますか」
「はい」
そう言って2人は仕事に戻っていった。
夜や朝が涼しくなってきました。
読んでくださる皆様ありがとうございます、今後もよろしくお願いします。




