第39話 カロンは深く安堵しました。
遅くなりました。
今回もテンリ視点ではありません。
「カロン様、申し訳ございません!」
セバスはカロンに深く頭を下げている、いったい何度めになるだろうか、カロンはそう思いながらセバスに話しかける。
「セバス、頭をあげてくれ、この場で戦闘が起こらなくてよかった、もし戦闘が起こればこの街は無くなっていただろう」
「しかしテンリ様が」
「テンリはきっと大丈夫だ、あいつは頭がいいしどうにかして逃げ切るだろう」
「ですが」
カロンは椅子から立ち上がりセバスの肩を軽く叩く。
「大丈夫だ」
カロンはセバスに力強くそう言いきる、テンリならばどうにか切り抜けてくれるはずだと。
「セバス、少し休みを取った方がいいよ、ここ最近まともに寝てないでしょ」
「ですが!」
「今セバスに倒れられると皆困るから」
「っ、わかりました」
タリアに言われセバスは頷くしかできなかった。
「少し休ませてもらいます」
「うん」
セバスは一度頭を下げて部屋を出ていく。
カロンは余裕のないセバスを初めて見た気がした、自分の師であり修行時代も自分の家に仕えてからも笑いながら何でもそつなくこなしていたあのセバスが相当参っているのだ、カロンは行方がまったくわからない息子の無事を女神アトレイアに祈るしかできなかった。
「カレンちゃんもどこに行っちゃたのかな?」
少し出掛けてくると書き置きがあっただけでそれから数日全く音沙汰がないカレン、何かしろの手掛かりがあり単独で動いているのだろうと皆が思っている。
それからなんの進展もないまま一月がたった、テンリの行方がわからず更にはカレンすら戻って来ない、カロンは部屋で頭を抱えていると勢いよく扉が開かれた、カロンは扉を見るとセバスが慌てた様子で近づいてくる。
「カロン様、カレン様がお帰りになりました!」
「本当か!」
「はい、今中庭でお茶を飲んでおります」
「すぐに向かう」
カロンは立ち上がりすぐに部屋を出た。
中庭でカレンを見つけるとカロンは急いで近寄っていく。
「カレン無事だったか」
カロンの言葉にカレンは不思議な顔をする。
「少しやつれた?いったいどうしたの?」
「どうしたって、テンリが拐われたんだぞ!それにお前も一ヶ月もいなくなって」
「私はちゃんと書き置きをしていったわよ、それよりテンリが拐われたって誰に?」
「黒竜に」
「え?テンリ拐われてなんかいないわよ」
「は?」
「ちゃんとセバスに一言断ってから連れていったのでしょ?」
カレンとカロンはセバスを見る。
「確かに黒竜は少し借りて行くと言っていましたが」
ほらねとカレンはカロンを見る。
「それにテンリは今お母様達の元で修行中よ、私が帰って来るのが遅くなったのはお母様達の修行がやり過ぎないか監視するためでもあったの」
カロンとセバスはそれを聞き混乱する、黒竜に拐われたかと思ったらカレンの母親の元で修行をしている?
「貴方達の言う黒竜はお母様に頼まれてテンリを迎えに来ただけよ」
その言葉を聞き一気に力が抜けその場に座り込んでしまった。
「ちょっと二人共大丈夫?少し休んだ方がいんじゃないの」
カレンのその言葉にカロンはつい文句を言ってしまう。
「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ、それさえ解っていればこんな大事にならなかったんだぞ!」
「私に言っても仕方ないでしょ、八つ当たりしないで、文句があるならお母様に直接言って」
「ぐっ、しかしだな」
「貴方達が勝手に大騒ぎしたことでしょ、私に文句を言うのはおかしいんじゃない、それとも、私を怒らせたいのかしら、ねぇ、カロン?」
カレンに名前を呼ばれた瞬間背筋が凍るような感覚を覚え冷や汗を流す。
「い、いや、すまない、少し気が動転してしまった」
「そう、なら仕方ないわね」
「カレンが無事で良かった、それにテンリの無事も解ったんだ、ありがとう」
「どういたしまして」
「それで、今テンリはどこにいるんだ?」
「アシュフォード大陸よ、ドラグニア王国の近くに幻惑の森と呼ばれる森があるの、その中よ」
「幻惑の森だって!確か森に入って生きて帰って来た者はほとんどいないって言われてなかったか」
「そんなたいした所じゃないわよ、現に私は帰って来たでしょ」
「た、確かに、そうだが」
カレンは簡単に言うがカレン自身この世界で上から数えた方が早い程の強さを持っているのであまり参考にはならない、そもそもSランクの冒険者がパーティーを組んでも全滅するかもしれない程恐ろしい所なのだ。
「とりあえずこれでテンリの居場所は解ったな、セバス、至急タリアに捜索の打ちきりを知らせてくれ、テンリの居場所がわかりそれが他大陸となればこれ以上捜索の必要はないからな」
「かしこまりました」
カロンの指示を受けセバスはすぐに動いた。
一つ問題は解決された訳なのだが新しく問題が出てくる。
「さて陛下達にどう話したものか」
デイステン王国は勿論、友好同盟を結んだジュマとメルテツシナにもテンリの事で迷惑が掛かっているし捜索などでいろいろ動いてもらっている、こんな状態で実は修行に行っていますと言わなければならないのだから気が重くなる。
正直このまま何事もなかったかのように忘れてしまいたいが立場上そんな事は出来ない、カロンは大きな溜め息を吐くのだった。
翌日、王都の城その一室で秘密裏にロレンスと数名の者達で話し合いがされていた、カロンはカレンから聞いた話しをロレンス達にそのまま伝え彼等はとても疲れた顔をしていた。
「話はわかった、ただ今回の事は大事になりすぎている、情報の規制は出来ないな、それにジュマとメルテツシナにも今の話を伝えなければならない」
「申し訳ありません」
「いや、仕方がない、なんせ相手があのカリナ様だ、ある種の災害だと思って諦めるしかないだろう」
ロレンスの言葉に周りの者達も頷いた。
十二聖天序列一位カリナ、この国に住まう多くの貴族達はその存在を恐れている、何故ならカロン、タリア、そしてカレンの結婚の際エレノールに力が偏りすぎると貴族達が猛反発したからだ、しかしそれにキレたカリナにより酷い目に遭った、その代表的な存在の一つとしてあげられるのはセルベールの家の者達である、そしてあまりの恐ろしさにその名を口にするものがいなくなったのだ、余談ではあるが多くの子供達が聖天の序列一位を空白だと思っているのはその影響もあったりする。
「それよりもテンリが無事で良かったな」
ロレンスはそう言い、さて今後はどのようになるのかと考える。
「今の話を今度はジュマとメルテツシナにも話してもらう事になる」
「はい」
カロンは短くそう答えた。
そして数日後、今度は聖都の一室でカロンはアガレスやクロナ達に話をした。
「カリナ様か、なら仕方がない事だ、しかし今さら何もなかった事にはできん、だが事を荒立ててカリナ様を怒らせればジュマが滅びかねん、どうにかするがまったく、ロレンスそれにカロンこれは貸しだぞ」
アガレスはそう言って椅子に深く座り額を押さえた。
「わかっておる、迷惑をかけるな」
「申し訳ありません」
「まぁ相手が相手だ、怒らせるわけにはいかない」
アガレスは苦笑いしながそう言った。
ロレンスとカロンは次にクロナを見る。
「我はもとよりテンリを信じておるからな、それに我が国は今回の事を気にする者などいない、なので気にするな」
「そう言ってもらえると助かる」
「なに、今回の事は国にと言うよりも身内の事と考えているからな、心配する必要はない、が、もし気にするのなら食料の流通を今後さらに増やしてくれると助かる」
「そうか、ならそのように手配しておく」
なんだかんだ言いながらもちゃっかりしているクロナに苦笑いをしながらロレンスは頷いた。
「さて、テンリ様のお話は纏まったようなので今度は違うお話を始めましょうか」
その声に驚いて声の方を向くと当たり前のように座って微笑んでいるステーラ、毎回気前よく聖都にある大聖堂の一室を貸してくれるのはありがたいのだがいきなり現れ更には主導権を握ってしまう、その存在に皆が若干の不安を覚える。
ただ何か不利益になることをするわけではない、それにステーラは暇潰し感覚で動いているのだがそれは内緒である。
そしてこの後もいろいろな話し合いが行われた。
なんだかんだありはしたがカロンは皆が上手く対応してくれたのでとりあえず深く安堵したのであった。
何とか日付が変わる前に投稿できました。
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