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第28話 助けられませんでした。

 俺は祈りを止めてタリアの方に顔を向ける。


「テンリちゃんのお祈り終わった?」

「はい」

「そっか、私は孤児院を少し見ていきたいんだけどいいかな?せっかくだしテンリちゃんも一緒にどう?」

「はい、では着いていきます」

「うん」


 俺はタリアに着いて教会の裏手に出ていく。


「あー、タリアお姉ちゃんだ!」


 女の子がタリアが近付いてくるのを見つけて大きな声で叫ぶ。


「タリアちゃんだ」

「お姉ちゃんだー」

「タリアだ」

「ねーたん」


 タリアに気付いた子供達が嬉しそうに近付いてくる。


「こら、あなたたち!申し訳ありませんタリア様」


 この教会のシスターが申し訳なさそうに近付いてくる。


「ふふっ、いいんですよ」


 タリアは嬉しそうに子供たちの頭を撫でる。


「・・・お姉ちゃん?」


 俺の声が聞こえたのかタリアが俺を見て胸をはる。


「そうだよ、おばさんじゃなくてお姉ちゃんだよ」


 タリアはこれでも一応二児の母である、しかし確かに見た目はこの中で一番上のお姉さんくらいにしか見えないな。


「タリア様、こちらの子は?」

「紹介しておくね、この子はテンリちゃんです」


 ・・・え?以上ですか?


「テンリちゃんですね、わかりました、安心してくださいテンリちゃん、私はこの教会のシスターでハーフィルと言います、今日からここがあなたのお家になりますよ、この子達はここで暮らしている子供たちです、今日からはあなたの」

「ちょっと待ってください」

「そうですね、いきなり言われてもなかなか納得出来ないこともありますよね」


 タリアの雑な紹介のせいでこのハーフィルってシスター完全に誤解しているな、タリアはタリアでいつの間にか子供たちと遊んでるし。


「ハーフィルさん」

「はい、どうかしましたか?」

「改めて自己紹介を」

「まぁ、自分で自己紹介が出来るなんて凄いですね」


 俺は苦笑いをしながら話始める。


「俺の名前はテンリ=エレノールです、エレノール家の次男で母親がカレン=エレノール、タリアは義母になります」

「・・・へ?」


 ハーフィルは初めはよくわからないといった感じで笑顔だったのだが段々と意味がわかってきたのか顔を青くさせていく。


「あの、つまりは」

「その、孤児ではなくてですね、今日はタリア母様と教会に御祈りをしにきてその帰りに寄らせて頂きました」

「あ、あの、大変、失礼いたしました」


 ハーフィルは凄い勢いで頭を下げる。


「頭を上げてください、タリア母様の紹介の仕方がいけなかったのでハーフィルさんに責任はありませんよ」

「うぅ、そう言っていただけると助かります」

「あんな紹介の仕方をすれば誰だって勘違いをしますよ」


 俺は苦笑いをしながら手を振る。


「その、テンリ様はおいくつなんですか?」

「今は五歳になりました、こないだ聖都で洗礼の義を受けたばかりです」

「そ、そうですか、とても五歳とは思えません、とても落ち着いていらっしゃるので」


 確かに肉体年齢は五歳児だが前世も含めると精神年齢は二十歳程だ、そりゃ五歳とは思えないだろうな。


「それに可愛らしいお顔なので女の子なのかと、タリア様もテンリちゃんと呼んでいたので」


 ぐふっ、俺はある意味心の中で大ダメージを受けた、産まれ変わったら見た目も変わるのかと思っていたのだがまったくそんなことはなくその姿は前世とあまり変わらない、小学校を卒業するまではよく女の子に間違われていた、中学生になりやっと女の子に間違われる事が少なくなってきたのだがそれでも間違われる事があった、自分の事を俺と言っているのは女の子に間違われないようにする為でもある。


「ははっ、あ、向こうに混ざって来てもいいですか?」


 俺はその場に居合わせるのが気まずくなってタリアと子供達がいる方を指差す。


「はい、是非皆とと仲良くしてください」


 俺は軽く頭を下げてタリアと子供達のいる方に向かった。


「あなた、浮気は許さないって言ったでしょ!」

「す、すまない、出来心なんだ、あ、愛してるのはお前だけだよ」

「酷いわ、奥さんと別れるって言ったじゃない!」

「私には運命の人だって」

「俺にはお前しか居ないって言ってたのは嘘だったの?」


 ・・・なにこの状況?


 一人の男の子が女の子四人に詰め寄られている、一体これは?


「あの、これはどんな状況なんですか?」


 五人のやり取りを見ているタリアにどんな状況なのか聞く。


「これはね、おままごとだよ」


 笑顔で答えるタリア。


「え!?これおままごとなんですか!?」

「そうだよ、今は修羅場を迎えてる場面なの」


 どんなおままごとだよ!おままごとに修羅場なんて入れる要素はないと思うんだけど。


「因みに私は娘役だよ」

「タリア母様、いい歳した大人が何をやっているんですか」

「・・・何が、いい歳、なのかな?」


 ほんの一瞬だが物凄い圧力を感じた、しまった、年齢の話を出すんじゃなかった。


 タリアはとても良い笑顔をしているのだがなぜだろう、その笑顔がとても怖い。


「い、いえ、なんでもありません、ところでタリア母様、あの男の子が泣きそうな目で助けを求めている気がするんですが」


 とりあえず年齢の話をそらそうと思っていたら女の子に囲まれてる男の子とちょうど目があった、その目は涙目で本気で助けて欲しそうな顔をしている。彼には申し訳ないがタリアとの話をそらすのにちょうど良いと思ってしまった。


「あ、ホントだ」

「こんな時こそ娘役であるタリア母様の出番なのでは?」

「うん、ちょっと行って来るよ」


 タリア母様は子供達の方に向かい少ししてから男の子がこちらに歩いてきた。


「た、助かった」


 涙を流しながら喜んでいる。


「抜けられて良かったですね」

「うん、えっとお前タリア姉ちゃんと一緒ここに来た奴だよな?」

「はい」

「そっか、あ、俺の名前はフォルクだ、お前は何て言ったっけ」

「テンリ=エレノールです」

「テンリ=エレノールか・・・エレノール!?」

「はい、テンリでいいですよ」

「お前はタリア姉ちゃんの身内なのか」

「タリアは俺の義母になります」

「義母?義母って本当の親じゃないって事だよな」

「そうですよ、俺の母親はカレン=エレノールです」

「そうなのか!カレン様って言えば今の十二聖天最強の人じゃないか!」

「あれ、カレン母様は十二聖天の序列二位ですよね、一位の人がいますよ」

「なんだ、そんなことも知らないのかよ、序列一位はずっと空白のままなんだぜ」

「え?そうなんですか?」

「そうだぞ、前に序列一位だった人が凄すぎてその人に並ぶ人がいないからあえて空けてあるんだって聞いたぞ」

「そうなんですか?」

「そうだ」


 そうなのか、カレンは今の人族で最強なのか、今さらだけど凄いな。


「あー、フォルクが別の女に言い寄ってる」

「ホントだ、私がいるのに」

「浮気だ」

「私の何が不満なの」


 先程フォルクを取り囲んでいた女の子達が叫びながらこちらに向かって来た。


「ま、また来た、た、助けてくれ」


 フォルクは焦りながら俺の後ろに隠れる。


「ちょっとフォルク、その子は誰よ!」

「私達がいるのに酷いじゃない!」

「ちゃんと紹介しなさいよ!」

「あれ、この子はさっきタリアお姉ちゃんと一緒にいた子じゃない?」

「「「あ、ホントだ!」」」

「確か名前は、テンリちゃん」


 どうやら俺がタリアと一緒にいたのを覚えていたようだ。


「くっ、ちょっと可愛いじゃない」

「で、でも私達だって負けてない」

「そうよ、負けないわよ」

「フォルク!女の子の後ろに隠れるなんて卑怯よ」


 ただ女に思われているのは悲しくなるから止めて欲しい、服装もちゃんと男の格好をしているのに。


「あの、ちょっといいですか」

「「「「なに!」」」」


 女の子達は俺を睨み付ける。恐いわ。


「改めて自己紹介をしようかと、俺の名前はテンリ=エレノールです、五歳になりこの間洗礼の義を受けたばかりです、エレノール家の次男になります」


 微笑んで女の子達を見ると女の子達は頬を赤くして目をそらした。こういう時に自分の容姿が良くて良かったと心底思う。


 ああ、こうやって処世術を学び人は子供から段々と大人になっていくんだなと思う、それと同時に無垢な心が失われていくのだろう、今の自分のように。


「そうね自己紹介ね、私の名前はリュリュネよ」

「私はトロネだよ」

「フォンよ」

「私はソーシャル、よろしくね」


 とりあえず自己紹介を終えて睨まれることはなくなったので良かった。


「それで、今はおままごとをしていたんですよね」

「そうよ」

「タリアお姉ちゃんが来て仲裁に入った所」

「だけどその隙にフォルク君が逃げたの」

「だから追いかけて来たんだけど、そしたらテンリちゃんを口説こうとしてるのが見えたから・・・あれ?」


 ソーシャルは小首を傾げる。


「今テンリちゃん次男って言った?」

「はい、言いましたよ」

「「「「え!」」」」


 リュリュネ、トロネ、フォンに加えフォルクまでが声を上げた。


「つまり男の子!」

「テンリちゃんじゃなくてテンリ君」

「私てっきり女の子かと」

「俺も」

「あの間違えてごめんね」


 やめて、なんかとても悲しくなるから謝るのやめて。


「あの、おままごとやってるんだよね?」


 さっきから話が脱線ばかりしてさっきと同じ事を言ってるな。


「「「「そうだった」」」」


 この女の子達は息ピッタリだな。


「さっきタリア母様が修羅場の場面って言ってたけどおままごとに修羅場はどうかと思うんだけど」

「でもハーフィルお姉ちゃんが男と女には修羅場がつきものだって」

「そうそう、特に夫婦になるとよく起こるんだって」

「だからおままごとやるときはいつもやってるんだよ」

「こうやって大人になるんだよって」


 あのシスターいろいろ不安なんだが大丈夫なのか。


「修羅場なんて場面はあまり良くない事なのでやめた方が良いと思いますよ、誰しもが修羅場を迎える訳じゃないですしそんな状況になるのはごく一部の人達だけだと思います」

「「「「そうなの?」」」」


 不思議そうに眺める女の子達に今後若干の不安を覚えるよ。


「はい、それにフォルク君が恐がってますから」


 四人は悩みながら頷いた。


「わかった」

「修羅場はたまにしか起きない事なんだね」

「だったら今度から修羅場の回数を減らすね」

「次から修羅場をやる時は三回に一回くらいにしようか」

「「「うん」」」


 どうやら修羅場をやめる気はないようだ、減らせただけでも良しとしてくれ。


「でも今は修羅場をやってるし」

「今日はこのままやらないとね」

「途中で投げ出すのは良くないもんね」

「それじゃフォルク君、行こ」

「ひっ」


 そのままフォルクは女の子達に連れていかれた。あ、ソーシャルが戻って来た。


「テンリ君も一緒にやる?」

「いえ、俺は見ていますね」

「わかった、混ざりたくなったらいってね」

「そうします」


 俺は助けを求めるフォルクを見つめながら心の中で謝った、ごめん、俺には君を助けることは無理。

 平成から令和になりました。

 令和一発めです。

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