第27話 アトレイアは激しく怒りました。
翌日はいつも通りセバスに朝の修行をしてもらい昼からはタリアに勉強を教えてもらう、カレンはカロンと共に王都に出向いているのだそうだ。
勉強を終えた俺はタリアと共に教会に向かっている、タリアはカレンがいないので暇だから着いて来たのだそうだ、いつもは実験などをするために自分の研究室に向かうのだが今日はどうやら気分ではないらしい。
「テンリちゃんと二人でデートだね」
「馬車に乗ってるので御者の人がいるから二人とは言い難いと思いますけど」
「テンリちゃん、こんなときは否定するんじゃなくて肯定するべきだよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです!」
「わかりました、そうですね。リア以外と二人で出歩くのは初めてです」
「そう言えば聖都ではリアナちゃんと二人で出歩いてたね」
「はい」
「アルナちゃんとは出掛けてないの?」
「アルナは聖女としての勤めが忙しかったので出掛けてはいませんね、会えたのも朝の早い時間にリアと一緒に少し話が出来た程度ですし」
「そっか、それは寂しいね」
「でもまた聖都に行くのでその時に時間があれば出掛けてみたいです」
「お出掛けできるといいね」
「はい」
タリアと話をしていると教会に着いたようで馬車がゆっくりと止まった。
御者の人が扉を開けてくれ俺とタリアは降りて教会に入って行く。
「司教様、こんにちは」
「これはこれは、テンリ様、よくいらしてくださいました」
司教は笑顔で頭を下げた。
「お久しぶりです司教様」
「タリア様、こちらこそご無沙汰しております」
司教はタリアにも笑顔で深々と頭を下げる。
「教会の運営はいかがですか?」
「お陰さまで滞りなく運営出来ております、孤児院の子供達もとても感謝しておりました」
「そうですか、それは良かったです」
「もし時間があればよって差し上げてください」
「わかりました、ではお祈りをさせていただきますね」
「はい、何かご用がありましたらお呼びください」
「わかりました」
「では失礼します」
タリアと司教の話が終わったのでアトレイアの像の前まで行き手を合わせて目を瞑った。
次に目を開けると前回と同じく机の上に書類が積んであるのが目に入った、以前のように山積みとまではいかない量だがそこそこお多い。どうやら無事に神界に来れたようだ、ただ周囲を見渡してもアトレイアがいる気配がない。
「ここに来たのは良いけど肝心のアトレイアが居ないのは想定外だな」
どうしようか悩んでいると何かの気配がして後ろを振り向く。
すると翼が生え頭に輪っかだ浮いている綺麗な女の人がこちらを見て微笑んでいた。
「えっと、あの、俺は怪しいもじゃなくて、ですね」
いかにも怪しい奴が言いそうな事を言ってしまった、しかもこんなところに子供がいればめちゃくちゃ怪しいだろと思いながらもどう説明しようか悩んでいると向こうから話かけてくる。
「慌てなくても大丈夫ですよ、私の名前はノルンと言います」
ノルンって確かこの世界で天使の中でも一番上の立場の人物だった気がしたんだが。
「あの、テンリ=エレノールです」
「ふふっ、ええ、存じております」
俺の事を知ってるのか?
「アトレイア様が毎日話していますからね」
なるほど、なんだか恥ずかしい。
「えっと、ノルン様は天使様ですか?」
「はい、そうですよ」
この人?ならアトレイアがいるところがわかるかもしれない。
「えっと、アトレイア、様はどこにいるかご存知ですか?」
「アトレイア様ですか?」
「はい」
「そうですね、つい先程までは机の前でお仕事をされていたのですが私が飲み物を運んでくる間にこの部屋から出ていってしまったようですね」
俺が来る少し前にどこかに行ったのか、タイミングが悪かったな。
「テンリ様はどのようなご用でここに来られたのですか?」
「あの、テンリでいいですよ、天使様に様付けされるのはちょっと」
「そうですか、ではテンリ君と呼ばせて貰いましょうか、私の事はノルンお姉ちゃんと読んでくださればいいですよ」
「いえ、ノルン様対してさすがにそれは」
「ノルンお姉ちゃんです」
「え~と」
「ノ・ル・ン・お姉ちゃんですよ」
「ノルンお姉ちゃん」
「はい」
ノルンは笑顔で頷いた。
「ところでここに来られた理由ですが?」
「えっと、少し困った事があってアトレイア様に相談事をしようと思っていたのです」
「そうですか、アトレイア様がいないようなので代わりに私がお話をお伺いしましょう」
「えっと、ですが」
「大丈夫ですよ、ノルンお姉ちゃんに任せてください、せっかくなので私の部屋でお話をしましょうか」
ノルンが指を鳴らすと一瞬で視界が切り替わった。
「ここが私の部屋になります」
落ち着いた雰囲気の部屋だ、高級そうな装飾品が置いてあるが派手さはなく部屋も広すぎず狭すぎずちょうど良い。
「どうぞお座りください」
ノルンに言われるがままソファーに座る。俺の対面にノルンは座りまた指を鳴らす。そうすると目の前のテーブルにお茶とお菓子が現れた。
「さぁ召し上がってください」
「あ、ありがとうございます」
俺はカップを手に取りお茶を一口飲む、口のなかに程よい甘味が広がる。これはアップルティーだな。
「美味しいです」
「お口にあって何よりです」
ノルンも一口お茶を飲む。
「ふぅ、さて、それでは相談事とはどのようなことでしたか?」
「はい、それなんですが」
俺は少し戸惑いながらも聖都で貰った剣の事やそれが魔人国の国宝だった事、近いうちに内密で会談がある事などを話した。
「それでその会談を上手くまとめる事が出来そうかどうかの話をアトレイア様に相談しようと思っていたのです、もし戦争にでもなったら困りますので」
「なるほど、わかりました、ではわたしが」
ドゴッと音がなりノルンの言葉を遮る、音のした方に顔を向けるとアトレイアがとてもいい笑顔で仁王立ちしていた、その足元の床は砕けている。
「ちょっとノルン、何で君の部屋にテンリがいるのかな?」
アトレイアはとても笑顔なのだが俺は息がつまりそうだ、なぜなら殺気と圧力が尋常ではない、俺に向けられている訳じゃないが冷や汗が止まらない。
しかしノルンは涼しい顔をしている。
「ノックもなく無断で入って来るなんて、お行儀が悪いですよ」
「そんなことは今はどうでもいいでしょ」
「はぁ、テンリ君がわざわざ相談をしにアトレイア様を訪ねて来たのにお部屋にいらっしゃらなかったので代わりに私が聞いておこうとを思いまして」
「私はテンリが来るから少し準備をするって言っておいたよね」
「そうですね、私はテンリ君からアトレイア様がどこにいるか聞かれました、ですが私はアトレイア様がどこに行かれたのか知りません、何故なら私がお茶を準備しようと部屋から出ている間にアトレイア様もまた部屋から出て行ってしまったので戻って来たときには居ませんでしたから」
あれ、今目の前にあるお茶やお菓子はノルンが指を鳴らしたら出てきたよな?何でお茶を準備するのに部屋を出たんだろう?
「ならあの部屋で待ってるべきではないのかな?」
「お急ぎだと行けないと思って私が代わりに聞いてそれを伝えようと思っていたのですよ」
「話を聞くだけなら別にノルンの部屋に来る必要はないじゃないか」
「誰が耳をたてているかわかりませんからね、情報が漏洩しないように私の部屋に移動したのです」
「で、本音は?」
「最近とても楽しそうなのでたまには悔しそうな表情も見たくなりまして」
「けっ」
「け?」
「決闘だー!」
アトレイアは暴風の如く激しく怒り狂っているのに対しノルンはどこ吹く風とばかりに楽しそうに微笑んでいる、俺はそんな対極的な二人を見ているしかない。俺はアトレイアの殺気に当てられそれだけで気絶してしまいそうなのにそんな中なぜノルンは平然としていられるのだろうか。
「そんなことよりテンリ君を放置していいんですか?せっかくアトレイア様を頼ってここまで来てくれたのに」
「そんなことだって!私が怒っているのは誰のせいだと思ってるんだ!」
「そんなに怒ってばっかりだとテンリ君に嫌われちゃいますよ」
「くっ」
「それにテンリ君の表情を見てください、可哀想に怯えてますよ」
「なっ」
俺が怯えるきっかけを作った本人がアトレイアに責任を擦り付けている。アトレイアは悔しそうにしながらも殺気を抑え俺の隣に座る。
アトレイアが殺気を抑えた事に安堵するが俺の隣に座った時に反射的に身体がビクッと動いた、それに気付いたアトレイアは申し訳なさそうにする。
「えっと、テンリに怒ってたわけじゃないからね・・・その、怖がらせてごめんなさい」
アトレイアは目を少し潤ませながら上目遣いで謝る、普段の態度と違いとても汐らしくドキッとさせられる。
「その、わかってますから、謝らないでください」
俺はドキドキしながらなんとか答えた。
「・・・どうやら私はお邪魔のようなので失礼します」
ちょっと、この微妙な状況を作り出しといて居なくなるとかマジで勘弁してほしいんですけど。そう思っていたがノルンは言葉を言い終えると俺達を残してその場から姿が消えた。
少しの間沈黙が続いたがアトレイアはそれに耐えられなくなり声をあげる。
「うがー、こんなの耐えられない、いつも通りにするからね!」
「むしろそうしてください」
「なぜ敬語!まぁいいや、それで、君は今日は何しに来たのかな?私に会いたくなった?」
ニヤニヤしながらそう言ったアトレイアに対して俺は真面目な顔で答えた。
「はい、とてもアトレイアに凄く会いたくて来ました!」
「へ・・・ひゃい!」
一瞬何を言われたのか理解できなかったようで少しの間の後アトレイアは一気に顔を真っ赤にさせた。
「ちょ、その、不意討ちみたいな事は、やめて、ただ私も、テンリに会えて嬉しいよ」
俺も先程の空気を変えようと冗談を言ったつもりだった、突っ込みが入るかと思ったのだがアトレイアは恥ずかしそうな嬉しそうな顔をしている。
「えっと、嘘です」
「え?」
アトレイアは物凄く悲しそうな顔になる。
「冗談ですよ、アトレイアに会いたかったのは本当です」
しまった、あんな顔されるとは思ってなかった、これはこのまま会いたかったと押し通そう。
「冗談?」
「はい、アトレイアに会えて安心しました」
「そ、そう」
「はい」
「そ、そういえばノルンがさっき相談事って言ってたね!」
「そうでした!」
「なら私にも聞かせて」
「はい、実は」
俺はノルンに話した事をアトレイアにも話した。
「あー、うん、わかった、その事なら私に任せておいてよ、すぐに解決するから」
「本当ですか」
「うん、テンリは何も考えずに全て受け入れれば全部上手く行くから大丈夫だよ」
「?わかりました」
よくわからないがアトレイアがなんとかしてくれるようで安心した。
「じゃ、いろいろやって置くから今日はもう戻りなよ、ここに長くいるとノルンがちょっかいだしてくるといけないしね」
「わかりました、それではお願いします」
「任せて」
俺はアトレイアに御礼を言い神界から離れた。
「で、君は何で居なくなった振りをしてずっと見ているのかな?」
「あら?バレていましたか」
ノルンは涼しい顔でアトレイアの正面に現れた。
「まったく、私は本気で怒っているんだよ」
「私はあなた達が心配なんですよ」
「どの口が言うんだい」
「この口です」
ノルンは人差し指を自分の唇に当てた。
「絶対喧嘩売ってるよね!」
「ふふっ、冗談はさておき」
「冗談!私は本気で」
「わかってますよ、ただ前みたいに御互いに依存しすぎないようにしてくださいね、アルトリア様に怒られますよ」
「それは・・・わかってるよ」
「わかっているなら今回の件の後はちゃんと自重してください」
「なんの事だい?」
「テンリ君が相談しにきた件です」
「あー、なんの事かな?」
アトレイアは少し焦りながら目をそらす。
「・・・私が知らないとでも思」
「あ、仕事に戻るね、忙しいなー」
アトレイアはその場から逃げるように居なくなった。
「まったく、こっちの心配も知らないで」
ノルンは大きな溜め息を吐くのだった。
今日からGWです。
長期休暇、素晴らしい。




